Step.106



爆豪を奪われたあの悪夢から二日目の夜、ただ流していたベッドサイドのテレビに、私は息をのんだ。

「消太くん……!」

雄英による記者会見だ。
髪を後ろに撫でつけ、髭もしっかりと剃った消太くんは、身綺麗にスーツを着こんでいた。
両隣には校長とブラド先生がいる。

「消します」
「待ってください!」

個性管理課の人がすぐに電源に手をかけたのを獅子で制した。
何も考えずに黒獅子を出したが、体に異変は無い。
よかった。
いままでぼんやりと息をしては何も喉を通らず点滴に頼りっきりだったせいか、少し体が重い。
私が制した管理課の人はどこかへと電話をかけていたが、そんなことに気をやることもできず、私はモニターを食い入るように見つめた。
記者が校長に質問をしている。
凄く、嫌な雰囲気だ。
意識して見なくたって分かる。
酷い淀みがそこにあるのだ。
明確に、悪意を持って質問している。

「こいつ……何様だよ……」
「コトハ、落ち着いて。白がいない以上、あんまり心を溜めたら私が回収するしかないんだからね」
「分かってる」

バングルを握り閉めて、強く息を吐きだした。
落ち着け。
記者なんて、マスコミなんていつだってそうじゃないか。
とにかく話題になれば何だっていいんだ。

『生徒の安全……と仰りましたが。イレイザーヘッドさん、事件の最中に生徒に戦うよう促したそうですね。意図をお聞かせください』
「そんなの、自己防衛でしょ……」

いやだ、すごく嫌だ。
こいつ嫌いだ。

「コトハ、テレビ消そう」
「待って。大丈夫だから」

記者は消太くんの冷静な釈明にも、校長の毅然とした応対にも納得した様子などいっぺんも見せず、更に消太くんを煽るように言葉を重ねる。
その矛先は雄英や消太くんの現場対処だけに留まらず、爆豪の素行についてまで言及してきた。

「体育祭準決勝での女生徒爆破や、決勝で見せた粗暴さ。表彰式に至るまでの態度など、精神面の不安定さも散見されています。もしそこに目をつけた上での拉致だとしたら?言葉巧みに彼をかどわかし、悪の道に染まってしまったら?」

何言ってんだこいつ。
怒りに、ぐっと手を握り閉めれば、病室にいる三人の管理課の人間が私に向けて拳銃を構えた。
黒がすぐに反応し、私を守るように黒い幕を張ったが、それでも私はテレビから目を逸らすことが出来なかった。
爆豪が、ヴィランに落ちるとでも、言ってんのか?

「未来があると言いきれる根拠を、お聞かせください」

指先から、赤い靄に包まれていく。
爆豪が、ヴィランに負けるわけがない。
だって、そういう奴なんだ。
常に、一番であろうとするやつなんだ。
そんな小賢しい敵の手練手管にに呑まれるはずがないんだ。
爆豪は!!
純粋な怒りが、指先から頬までを赤く染めあげたその時、何かとシンクロした。
目の前にはモニターが見えて、消太くんが頭を下げて話しているのに、全く声が聞こえない。
違う視界が重なるように、目の前に死柄木が見えた。
まさか。

「黒!防御解除!!誰か国本さんを呼んで下さい!!早く!」
「えっ!?コトハ!?」

死柄木に対する殺意が湧き上がるよりも早く、現状を理解した。
繋がってる。
爆豪と、爆豪の中にいる白を通して。
正確な位置は分からないけれど、方角ぐらいなら分かる。
白!!

『絶対怒ると思って波長を合わせといたんだ。信じてた』

爆豪は、無事なんだね。
すぐに黒に触れて、状況を共有する。

『私が付いてて怪我なんてさせない。絶対に守るから、迎えに来て』

ぽたぽたと、涙が落ちた。
白がいないから、垂れ流しになる白い心を必至に拾い集めて、不器用ながら卵に注ぎ込んでいく。
本当に良かった。
安心するのはまだ早いけれど、爆豪の無事も確認できたし、酷い別れ方をした白ともこうして再びシンクロすることが出来るなんて。

「コトハさん!国本です!!拳銃は下げさせましたので個性を解除してください!」

銃口を向けられていたからか、未だに黒い幕で遮っていた黒は私の盾になるように移動してから幕を解除した。
すぐに国本はテレビを消して、私の正面に立った。
赤く染まった両腕を見て、ぎり、と歯を食いしばる。

「お願いです、自分を抑えて―――」
「違うの!爆豪と繋がったんです!すぐに迎えに行かなきゃ……!!」

近づいてくる死柄木を、爆豪が爆破した。
絶対やると思った。
白、頼むよほんと。

『大丈夫、この心にかけて爆豪は守るよ』
「コトハさん、極秘事項なのですが、ご説明いたします。いま現在、オールマイト、エンデヴァーを中心にプロヒーローが爆豪くんの救出に当たっています。ですから……」
「白が心をかけて戦ってる。お願いです、連れてってください。だめなら自力で行きます」

国本はひどく悲しげな顔で首を横に振った。

「そんなことを言ってはいけません。貴方の立場はとても危うい」
「私の立場なんてどうだっていいでしょ!今は爆豪の命の方が大切―――」
「どうだってよくありません!あなたの未来が、閉ざされてしまうかもしれないんですよ」
「そうなったら自分で道を開く」

私は心を奪うために手を伸ばした。
それを察したのか、国本は空間を断絶して私の手を遮った。
相性の悪い個性。
でも。

「分かりました」

じわりと黒を滲ませたとき、国本は頷いた。

「いいかい、現場には連れていきます。現場指揮をしているだろう刑事がいると思いますので、そこまでは。ただし、それ以上行ってはいけません。プロに任せてください」

私は頷いた。
プロが助けてくれるなら、その方がいい。
白ともそれだけ近ければ心を送ったりできる、はず。



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