Step.107
ヒーローたちの突入を、私は車の中で察知した。
爆豪が安心しているのが分かる。
「大丈夫ですか?着きましたよ」
「いま、ヒーローが突入してきたようです」
ほっと胸をなでおろし、シートに沈み込む。
隣に座る国本もその様子を見てか、いつもの胡散臭い営業スマイルで笑った。
これでもう、大丈夫。
宣言通り爆豪には傷一つない。
瞬間、ぴり、と空気が張り詰めた。
えっ……!?
白の居場所が急激に変化した。
距離も遠い。
『ワープされた!!早く応援よこして!!』
叫んだ白に体が反応して、車から降りようと手をかけた。
その腕を、国本が掴み、縋るように私を見た。
「行かないでください。ここに、あなたの未来がかかっているんです」
私は一瞬もためらわず国本の心を奪った。
苦しそうな瞳から、感情が消えて、かくりと倒れた。
驚いて振り返った運転手も次いで触り、心を奪い取る。
『コトハ……!!』
黒、行くよ。
合宿で溜めた心を握りしめて、卵を割った。
例えどんなことになっても、きっと私は後悔しない。
心を補完するように、右手のバングルから、首にかけたヘッドフォンから、白い心が流れ出した。
黒い心と混ざり合ったそれは、シャチの形をとって私をその胎内に呑み込み飛び上がる。
かつて私が最高時速で飛んだシャチよりも少しばかり小さい。
黒に舵取りを任せ、私は繋がったままの白に集中した。
私より早く現場を飛び出したオールマイトが現着したようだ。
ということは、そんなに遠くない。
正確な位置は把握できていないため、方角を頼りに――。
『見つけた!コトハあそこ!』
ぱちりと目を開け、黒が見つけた荒地へとシャチの体をそのまま急降下させる。
凄まじい力にえぐられたのか、あたりは建物の瓦礫だらけだ。
着地で私と爆豪が煙幕に包まれたが、シャチの体に包まれていたおかげで衝撃はほぼゼロに近い。
「爆豪!!」
「作戦って……ただ突っ込んで来ただけじゃねぇか!!」
「作戦!?そんなのないよ!白はそのまま爆豪の中にいて!」
私は黒い獅子を生み出し、距離を詰めて来ようとするヴィランたちを牽制した。
「あら、コトハチャンじゃない?たなぼたってやつね」
「形勢逆転ってやつだよ」
オカマに獣を走らせて、その間に爆豪の手を握った。
白、力を貸して。
爆豪の中にいる白は、すっと腕を伸ばして私を白い心で覆った。
それに、欠けた心を補完してくれた。
ありがとう。
瞬間、倉庫があっただろう場所のすぐ傍、塀がすさまじい音を立てて粉々になった。
敵がそれに気を取られた瞬間に爆豪と私で近くにいた爬虫類顔の奴を昏倒させる。
上手く認識できないほど速いその一塊は、塀のあたりから伸びた巨大な氷の道を駆け上がって空に飛びあがった。
ハッと上を見上げた爆豪につられて、その騎手を見た。
見覚えのある、赤い髪。
「来い!!」
まるで反射とでも言うかの速さで爆豪は反応した。
近くにいた私の腹を抱えこむと、大きな爆発を何度も起こして上昇する。
急激な上昇に内臓が潰されたかと思ったが、その行く先に緑谷たちを見て大人しくされるがままになった。
爆豪は差し出された切島の手に、しっかりと応え、握り込む。
数秒遅れて、私も翼を出して自力で飛ぶ。
「……バカかよ」
軽口を叩きながら、それでも、どこか嬉しそうな声で笑いながらつぶやいた。
緑谷、飯田、爆豪の推進力を借りるために、爆豪の肩につかまって、更に爆豪を軽くするために追加で翼を生やした。
「爆豪くん、俺の合図に合わせ爆風で……!」
「てめェが俺に合わせろや!!」
「張り合うなこんな時にィ!!」
賑やかすぎる救出隊に思わず苦笑して、みんなの心を借りる。
触れた爆豪から白が持っていた大量の心をくれた。
私を含めた5人の体を白で覆い、いつでも鳥を形成できるように準備した。
「飯田!それレシプロでしょ!エンストしたら同じ速度の鳥出すから!」
「すまない!まだ少し持つがよろしく頼む!」
突如、後ろで巨大化したMt.レディに振り返れば、ヴィラン連合の一人が飛んできていた。
あの仮面の奴、白が警戒してるから絶対に近づけさせちゃダメだ。
ヴィラン連合の猛追を、その身で防いだMt.レディはぐらりと傾ぐ。
「Mt.レディ!」
「救出、優先……行って……!バカガキ……」
いいのか、本当に。
行ってしまって。
私は爆豪の肩に掴まりながら迷った。
そして、唐突に白から渡された光景に目を見開く。
No.4ヒーロー、ベストジーニスト率いるヒーローたちの負傷した姿だ。
その中には、ギャングオルカの姿もある。
私は覚悟を決め、爆豪から手を離した。
反射か爆豪が振り返って私に手を伸ばしたが、私はただそれを見送った。
「おい……!?」
「白!あんたに任せる!みんなを守って!!」
「任されたよ!!」
白は嬉しそうな声で顕現すると右手を高く突き上げた。
白が望んだのは、守るという決断なのだろう。
今更になってようやく察した。
躊躇ったら、絶対に後悔する。
消太くんが傷ついた時も、爆豪が奪われた時も。
『馬鹿コトハ!戻って!!』
戻らないよ。
黒の声に首を振って、合宿の時に作った黒の卵を割った。
まずは元の大きさに戻ったMt.レディを黒い鯨で回収する。
こんな、簡単なことを私は少しもしようとせずに逃げ出していたんだ。
翼を生やしたまま滞空し、ベストジーニストたちヒーローを鯨で次々回収していく。
あの気持ち悪いフルフェイスのヘルメット野郎はオールマイトが相手をしている。
今はとにかく。
瓦礫の中にギャングオルカを見つけて急降下した。
「シャチョー!意識はありますか!」
「久地楽……なぜここに……!」
「よかった!この場から離脱します!」
私の言葉とともに、巨大なマッコウクジラが瓦礫ごと私たちを飲み込んで空を泳いだ。
******
重症のベストジーニストと、意識のないマウントレディは私が警察に引き渡した途端に病院へと連れていかれた。
「久地楽、まずはお前を叱らなければならないが……しかし、我々ヒーローがあの場にいることで、オールマイトの足を引っ張ってしまっていた。―――よく、助けてくれたな。ありがとう」
「そんな、勿体ないお言葉です……」
シャチョーに頭を撫でられて、思わず白い靄を垂れ流した。
し、白がいないから!!
でも、私は私自身のエゴで動いていたから、まさか礼を言われるなんて思っていなかった。
喜びを隠しきれないまま軽く手を振って頭上を泳ぐ鯨を消すと、スーツ姿の男が固い表情で近づいた。
思わず気圧されて一歩引くと、シャチョーが庇うように前に出てくれた。
誰だ?
まったく知らない顔に、不安が募る。
「あの……?」
「久地楽コトハさんですね。個性管理課の者です」
シャチョーと私がうろたえたのを察してか、男はするりとシャチョーの巨体を避けて私の腕をとった。
そして、何の躊躇もなく、私の腕に注射器を刺した。
一瞬、何をされたのか分からなくて、少し遅れて痛みが来る。
無駄のない手際で、薬剤が注入されていく。
どういうわけか、体が動かない。
速攻性の催眠剤だったのか、意識がぶれて、たたらを踏んだ。
「あんたコトハに何やってんの!!警視庁だか何だか知らないけど、こんな―――」
「国本警部、及び同課所属 一名に対して個性を使用しましたね?個性の違法行使、及びそれに拠る傷害の容疑で貴方の身柄は管理課が拘束させていただきます。これには法的拘束力があり、拒否は認められません」
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