Step.110



「頼む」

家庭訪問から3日。
俺は親父の機嫌が落ち着いたのを見計らって声をかけた。
両手をついて頭を下げた俺に、親父は驚いているらしかった。
それもそうだろう。
今まで、こんなことをしたことは無い。

「分かった。出来る限りをしてやる」
「……頼む」

屈辱だった。
お母さんを傷つけたこんな奴に、頭を下げるだなんて。
しかし、俺ができることなんて、これしかなかった。

「焦凍」

立ち去ろうとした俺を、親父の声が引きとめた。
返事を返さず、振り返る。

「――……いや、時間はかかるぞ」
「ああ、分かってる」


******


夏休み半ば、合宿が中止になったが、今日これからは寮で生活することになるため、少ない手荷物を持って雄英に登校していた。
教室に向かうと校内地図に印がつけられており、全員が順次寮の前に集まっていた。
考えてはいたが、コトハの姿はない。

「とりあえず1年A組。無事にまた集まれて何よりだ」
「あの、コトハちゃんは……」

相澤先生の言葉に、麗日がおずおずと片手を上げて聞いた。
この場にいる全員が、気になっていたことだ。

「久地楽は体調が良くなるまでしばらく休学だ」
「そう、ですか……」

爆豪救出に動いた俺を含む5人以外は、おそらく合宿のことを思いだして納得している様子だった。
だが違う。
切島たちと落ち合ってすぐに、コトハと共に爆豪を救出し、そして白が消えたことを聞いた。
白が残した卵のことも。

「轟」

名を呼ばれて、はっと顔思考からを上げた。

「切島、緑谷、八百万、飯田。この5人と単独で久地楽が、あの晩あの場所へ、爆豪救出に赴いた」

相澤先生の言葉に、全員が驚いたように俺らを見た。
緑谷の病室で話したことだ、耳郎と葉隠以外は知っている。
ただ別の病院へ搬送されたと聞いていたコトハまでが行ったというのは知らなかったのだろう。
先生はその様子を確認して、短い前置きをしてから口を開いた。

「オールマイトの引退がなけりゃ、俺は爆豪・耳郎・葉隠以外、全員除籍処分にしている」

救出に向かった6人以外も、先生の信頼を裏切ったことには変わりないのだと先生は続けた。
結果がどうあれ、そういった評価になることは、職場体験の……ヒーロー殺しの一件で思い知っていたはずだった。
けれど、言葉は重くのしかかる。

「正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい」

正規の……。
しかし考えてしまう。
もしヒーロー殺しのとき、正規の手段を取っていたらプロヒーローを、飯田を守れていただろうか。
もし爆豪救出のとき、正規の手段を取っていたら爆豪を救えていただろうか。
まして、あの瞬間、爆豪が連れて行かれなかったか、オールマイトは全力を出せたのか。
自問自答を繰り返しては、結局俺は同じ行動をとっただろうと帰着してしまう。

「以上!さっ!中に入るぞ、元気に行こう」

あいつのせいにするつもりは微塵もないが、心のどこかでコトハなら、と考えてしまう俺がいる。
そのコトハも、今ここにはいないのだが。



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