Step.111



微睡みの中にずっといる。
部屋は暗く、私が装着している人工呼吸器の音だけが響いていた。
ゆっくり瞬きをすると、意識が飛びそうになる。
眠ったところで、夢は見ない。
思考も、ままならない。
なぜここにいるのかも分からない。
ただ、瞬きと呼吸、睡眠を繰り返す日々だった。
日に三度、スーツ姿の男が現れては点滴を変えたり私の様子を見たりしにこの部屋へと来る。

「欲しいものはありますか」

おぞましい黒を纏った男はそう聞き、私は緩く首を振る。
何の感情もなさそうな顔で、けれどその身からはよくないものを垂れ流しながら男は作業を続ける。

「これは飲みすぎると死に至ります。死は、そう苦しくないと聞きます」

男は今日も錠剤の入った小瓶をベッドサイドのテーブルに置いた。
彼が持ってくる小瓶は、これで3つ目だ。
時間の感覚がないので正確かは分からないけれど、彼は頻繁に小瓶を置いていく。
理由はわからない。
瞬きをすると、日が変わった。
眠ると言う感覚が、いまいち分からない。
朝、夕方、夜。
なんとなく、ずっと開かないカーテンから漏れる光で日を数えていた。

「欲しいものはありますか」

ああ、今日も男が来た。

「これはナイフです。人はこれで太い血管を切られると死にます。例えば首です」

今日はナイフをテーブルに置いていった。
理由は分からない。
また瞬きをすると、ちょうど男が点滴を外しているところだった。
私が見ていることに気がつくと、男は手を止めた。

「静脈の中に20ml空気が入ると場合によっては死にます。作業中に俺の腕を掴めば、うっかり空気が入ってしまうかもしれません」

男の言葉の意味は、やっぱり理解できなかった。
反応を返さない私をじっと見て、男は肩をすくめた。

「薬の量が多いか……」

男は呟いて、いつもとは色の違うラベルが貼られた点滴をかけた。
薬……。
私はどこか悪いのだろうか。
ここに来てから今日が何日目かを忘れてしまった。
もしかしたら、私が夢を見ているだけで実際には1日しか経っていないかもしれない。
いや、数える必要もないのだろうか。
男からは、黒い何かが漏れ出ている。
これは、なんだったろうか。



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