Step.112
国本から連絡があったのは、合宿で中止になった必殺技の開発を進めているときだった。
すぐにその場を他の教員に任せ、事態を察知していたのかTDL前に横付けされていた車に乗り込み国本が指定した場所へ向かう。
その場所で合流した国本に案内され建物に入ると、そこには何名かの警察官と、ヒーローがいた。
ヒーローの中には、エンデヴァーの姿もある。
「簡単に現状をご説明します。まず、私が本庁の監察部に、『久地楽コトハさんの不当監禁』といった内容で内部告発をしました。同時期、エンデヴァーヒーロー事務所より、管理課の実態開示要求……要するに外部告発が行われました」
エンデヴァーが実態開示要求を出した……?
この時期に、このタイミングで管理課に?
おそらく、轟が久地楽のことを父親であるエンデヴァーに相談したのだろうが、俺の知る限り轟は家庭環境、とりわけ父親との仲に難があったと思ったが。
「図らずしも同時期に似通った内容での告発を受けた本庁は、事態を重く捉え、ここに管理課の解体チームを編成しました」
「解体?随分急な話ですね」
「内部体制の話になるので詳しくは省きますが、事態はおそらく皆さんが考えているより切迫しています」
国本は体の向きを変え、部屋全体を見渡して言葉を続けた。
「オールマイト引退を受けて管理課はさらなる個性管理の必要性を提言し、私を含む5名の管理課内穏健派を事実上排斥しました。そしていま現在、全7名の被管理者が過激派の管理下にあります」
ヒーローたちは黙して国本の声を聞いた。
もしかしたら、この場にいるヒーローたちは、国本の言う被管理者……つまりコトハと同じ状況の者たちと何かしらの繋がりがあるのかもしれない。
「最悪、被管理者の死が想定されます。現場到着後は、速やかな保護を、お願いします」
国本は深々と頭を下げ、すぐに現場指揮官であろう男に頷いた。
被管理者の死……。
現実味の湧かない言葉に、なぜかコトハの顔が脳裏をよぎった。
******
『A班に至急救護班をお願いします。成人3名保護しましたが、頭部出血が1名、服毒に因る意識不明2名です』
『B班、未成年者2名保護しました。軽い脱水が見受けられますが命に別状はありません』
別々のルートを通る二つの班から懸念されていた被管理者の個性暴走はないようだと無線を聞く。
俺が呼ばれた理由はコトハ以外に、そこにもあるらしい。
管理課の人間を次々拘束していく武装警官たちを見ながら、俺と国本は止まらずに進む。
『A班です。男性一名の死体が確認されました。死後2日程度です』
国本が把握している限りでの被管理者人数はコトハを含めて7名。
死亡していた1名を入れて、すでに6名発見されている。
一部屋ずつ確認しては首を振る国本の顔が、徐々に険しくなっていく。
『おい、久地楽コトハは見つかったか』
エンデヴァーの声が無線から聞こえ、本部が否定を返した。
ノイズが走り、通信が切れる。
焦っているのは、国本やエンデヴァーばかりでは無い。
大人として、プロヒーローとして、必死で自分を抑えているが、その内心は穏やかではない。
「ここも……―――待ってください」
次の部屋へ行こうとした俺と警官を国本が止め、合図をして部屋に呼び寄せる。
部屋は病室のような造りで、遮光カーテンの隙間から漏れる夕陽だけが窓からの採光だった。
全体的に暗く人気のない部屋を検分する国本は、すっとベッドの上を撫で、その上にあった一枚の紙を拾い上げる。
いくつかの単語がかかれている。
「ここだ……おそらくですが、コトハさんはこの部屋に監禁されていました。他の部屋にはなかった精神安定剤や抗不安薬があるというだけですが、コトハさんの個性を考えれば納得できる理由かと」
「それは?」
「いえ、何かは……場所の羅列、かと思いますが」
温泉や遊園地などと国本の言う通り場所の羅列された紙を眺めて居ると、唐突に胃から何かがこみ上げるように唐突な吐き気に襲われた。
「っ、ぉえッ……!」
「相澤さん!?」
移動する間もなく、口を抑えた手の隙間から黒い流動体があふれ出る。
なんだこれ。
敵の襲撃か?
いや、国本たちに被害が出ていないならそれは違うだろう。
止まらない嘔吐によって、黒い水たまりが床に広がる。
近づいて来ようとした国本を制し、触れるなと無言で首を振った。
黒いそれを全て吐きだせば、水たまりは意思を持つかのようにとぐろを巻きはじめ、黒い蛇を形作る。
「コトハ……?」
蛇はじっと俺を見つめると、蛇のくせににっこりと笑い、やがて尾から消え始めた。
さっと引いていった血の気に崩れ落ちるようにして蛇を抱き上げる。
「待て、消えるな!そんな、嘘だろ……違う、そうじゃない、頼むから……」
『おにーちゃん』
蛇は、下手くそに声を出した。
どうすればいい?
この蛇は俺の中にいたのか?
それなら俺の中に戻せば消えないのか?
なあ。
「コトハの居場所を教えてくれ」
蛇はぴく、と瞬膜で瞬きをし、俺の左腕に巻き付いた。
もう体の中ほどまで消えてしまって、俺に巻き付いている体も徐々に失われていく。
「何をしてもいいから、教えてくれ」
蛇はじっと俺を見ると、残った体で腕を締め付け、噛みついた。
痛みはあるが、耐えられないほどでは無い。
やがて蛇はすべて消えた。
じくりと痛みを残す腕を見れば、以前養父の体にあるのを見た黒い侵食がそこにあった。
それでいい。
なんでもいいから、コトハが生きていると、俺に示してくれよ。
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