Walk.01
私が目を覚ました翌日、消太くんがA組を連れてお見舞いに来てくれた。
本当はすぐにでも退院できるくらい元気なのだけれど、色々と大人の事情で退院は明日になるらしい。
「コトハ!!」
「コトハちゃん!!」
飛び込んできた三奈ちゃんとお茶子ちゃんに首を持っていかれそうになりながら、何とか二人を受け止める。
絶対来ると思ってたよ!
他の女子たちもここまで勢いはないが抱き付いてくる。
「心配かけてごめんね、みんな」
お茶子ちゃんがうる、と目に涙を浮かべて再び抱き付いてきた。
温かい心に包まれながら、ぽんぽんとあやすように背中を撫でていれば、お茶子ちゃんは涙を拭って照れくさそうにお見舞い持って来たんだよ、とフルーツの入ったカゴを見せてくれた。
す、すごいいっぱい入ってるね。
お茶子ちゃんが果物ナイフ借りるね、とリンゴを剥いてくれる。
私も手伝おうとしたのだけれど、怪我人なんだから、と制されてしまった。
「コトハ、遅くなって悪かった」
「焦凍くん……全然そんなことないよ。焦凍くんがエンデヴァーおじさんにかけあってくれたんだって聞いたよ。本当にありがとね」
焦凍くんは小さく首を振って目を伏せた。
「俺には、こんなことしかできなくて……」
「焦凍くんはずっと私を助けてくれてる。“こんなこと”なんかじゃないよ」
嘘偽りのない心を焦凍くんに手渡せば、やっと微笑んでくれた。
「下手くそかよ丸顔!」
び、びっくりした。
ほのぼのと焦凍くんと微笑みあっていると爆豪がお茶子ちゃんの手元を見ながら怒鳴っていた。
一応ここ病院なんですけどね!?
しかもめっちゃどうでもいい!
耳の折れたリンゴのウサギさんが皿の上で委縮している。
なんか可哀そうだ!!
「ちゃ、ちゃうちゃう!ウサギさんつくろーって思ったらちょっと力加減間違えちゃっただけ!」
「ああ!?ウサギなんて目ェつぶってでも切れるわ!!」
「そんな言うなら爆豪がやればいいじゃん。口だけかよ?」
「んなモン秒でやったるわ!」
さすがの手際で可愛いウサギさんを量産し始めた爆豪を見ながら、耳の折れてしまったこれまた可愛いウサギさんをそっと避難させた。
お茶子ちゃんが切ってくれたから、これは私が貰おう。
むふふ、とほくそ笑んでいると、窓側の椅子に腰を下ろしていた焦凍くんの隣に切島が喧騒を抜けて座った。
「体、大丈夫か」
「うん、もう平気。切島はずっと私の心を持っててくれたんだよね、ありがとね」
「いいって。お前が無事で良かったぜ」
「切島のへこみ具合ってば凄かったんだよー」
三奈ちゃんの言葉に、切島はまあな、と苦笑する。
「そりゃ、心配するだろ」
少しだけ、泣きそうな顔でそういった切島に、ぎゅっと胸が締め付けられた。
昨日顔を出してくれたひざしくんも、すごく心配した、と怒ってくれたのを、思いだす。
私が海の中で一度意識を取り戻した瞬間に見えた流れ星は、ひざしくんと皆の心だったのだと聞いていたから、皆がすごく心配してくれていたのは、知ってる。
けれど、こう目の前にそれがつきつけられてしまうと、私が手放そうとしたこの世界がとても愛おしいものに見えたし、みんなを裏切ろうとした自分がひどく嫌になった。
「ありがとう、心配してくれて」
「あーもー、いいから!こっち見んな!ほら、リンゴ食えよ!」
差し出されるままにお茶子ちゃんが切ってくれたウサギさんを口に入れると、切島は私の顔を押しやるようにぐっと皆のほうへと向けた。
数名と目があったが、ほとんどはリンゴを切る爆豪に注目しているようだった。
って、待て待て、すごいぞ!?
「鯨だ!!すごい!これは食べられないよ!」
「食えや!」
「待って!先に写真撮らせて!」
テーブルの上から携帯をとると、皿の上から宙に鯨を白い心で泳がせた。
赤と白の鯨は爆豪が作ったとは思えないほど可愛らしい顔で口元は弧を描いている。
「撮ってやろうか?」
焦凍くんの申し出に是非とこくこく頷き、鯨と一緒に写真を撮ってもらった。
柔らかく目元を緩める焦凍くんから携帯を受け取って写真を確認すれば、私と鯨の後ろには私を心配して駆けつけてくれた仲間が写っていた。
ああ、と何と言えばいいのか分からない心の充足感に白が漏れていく。
そうだ。
漏れ出た白いそれを操って、携帯を天井近くまで持ち上げた。
先程の写真に写っていない切島と焦凍くんの腕を引いてにっかりと笑う。
「みんな!はい、チーズ!」
もう一度、ここからもう一度、始まる。
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