Walk.02




雄英に帰ってきた。
幾度かのヴィラン襲撃によって寮制になったらしく、私の荷物もすでに運び込まれているらしい。
隣に並ぶ消太くんが招き入れるように校門をくぐった。
何だか、凄く久しぶりな気がする。
個性管理課は解体され、国本さん率いる穏健派の数名はヒーロー公安委員会に吸収採用された。
そして個性管理とまではいかないまでも、やはり私の個性暴走を警戒した警察は、以前消太くんが管理課と取り交わした、私を成人するまで保護・観察するという契約を引き続き有効とした。
それに伴い、本来であればA組の寮に入るところが教師寮でしばらく様子見という形を取ることとなった。

「とはいっても、生徒寮の立ち入りを禁止しているわけじゃないから遊びに行っていいからな」
「はーい」
「伸ばすな」

消太くんの後に続いて教師寮に入れば、共同スペースにオールマイトがいた。
神野の事件以降、私は管理されていたから事の顛末を知らずにいたのだが、病院で意識を取り戻し暇な時間を貪っていれば否が応でもそれを知ることになった。
緑谷のインナースペースで見た骸骨のような金髪長身の男。それがオールマイトであった。
けれどそうなるとやはりなぜオールマイトは緑谷のインナースペースにいたのだろうか。
いや、オールマイトだけではない。
私を緑谷のインナーから押し出したあの人たちは、いったい……。

「久地楽少女、今日退院だったんだね!いやいや、よかった!」
「あっ、えっと、ご心配をおかけしました……オールマイトこそ、お怪我は大丈夫ですか?」
「うん、もうこの通り!ぐはっ!」

吐血した!?
この通りダメってこと!?
オールマイトは口元の血を拭ってはは、と笑った。
笑い事じゃないしそんなやばいなら安静にしていて欲しい。

「まあ、そういうことなんで……ご心配ありがとうございました」

消太くんはほんの少しだけ照れくさそうに視線をずらすと、私の頭に手を乗せてぺこりと頭を下げさせた。
オールマイトや緑谷のインナーのことは気になるけれど、人には色々あるだろうし、彼の中にいるのがオールマイトだと言うのならきっと問題ないはずだ、とこれ以上考えるのをやめた。

「いやいや、無事に復帰出来て何よりだよ。……久地楽少女、よく戻ってきてくれたね」

オールマイトは私に手を差し伸べた。
私たちがよく知る筋骨隆々な丸太のように太い腕は見る影もなく、今では私でさえ折れそうな細腕へと変わってしまっている。
これがこの国を、市井の人々の平和を守ってきた象徴の対価と言うのなら、なんと残酷なのだろう。
一瞬の思考に蓋をしてオールマイトの手を握る。
指先から僅かに流れてくる白い心を感じるまでもなく、視線を合わせるだけで気づいた。
強い意志の眼差し。

「私も、また先生の授業を受けることができて幸せです」

これまでも、そしてこれからもオールマイトは平和の象徴として、ヒーローの象徴として人々の心の中に残り続けるだろう。



******


「えっ、荷物多!?」

運び込まれているとは聞いていたが、思っていたよりも多い段ボールを前に思わず声が出た。

「話すのが前後して悪いが、あの家は引き払った」
「えっ!?」

消太くんの言葉に一瞬悲しみの混じった声が漏れてしまった。
いや、わかる、二人ともォ制になったから引き払ったほうが合理的だし、わかるんだけど。
少なからず、思い出があったからちょっと、ちょっと悲しかった。

「相談なく勝手に決めて悪かった。ただ……個性管理課の、残党がまだいてな」

管理課という言葉に、びく、と否応なく体が反応する。
その様子を見てか、消太くんは重ねて謝った。
過激派の大多数は捕らえたものの、数人の行方がまだ知れず、彼らが被管理者のごくプライベートな情報まで持っていることを加味し、消太くんは全寮制に合わせてマンションを引き払ったのだと手短に説明をした。
仕方が、ないよね。
すり、と消太くんにすり寄ると、引きはがされることもなく優しく頭を撫でてくれた。

「本当は、お前が卒業した時のために帰る場所を残しておいてやりたかったんだけどな」

触れた肌から伝わる優しい心にふへ、とだらしなく笑みを漏らす。
私にはもったいないくらいの白い優しさ。
白がいなくなってしまって上手に取り込めないせいで、じわりと私の体から靄がにじんだ。
荷ほどきを手伝うという言葉にうん、と答えて、ふと大事なことに気づいてしまう。

「え、待って、全部持ってきたって言った?え、下着は?」
「タンスの中のものは出してない。そのまま持ってきた」
「あ、なんだぁ、よか……ベッドの下の、見た?」
「見た」
「うわぁあああああ!!しんどい!むり!なんで部屋勝手に入るの!!お兄ちゃんのバカ!!」
「別にそこまで恥ずかしがるもんでもないだろ」
「どうしたコトハ!!」
「ひざしくん!!」

突如として出現したひざしくんに、消太くんはものすごく面倒くさそうな顔をした。
と、というか、つい反射で喜んじゃったけど、私にとってもあんまり嬉しい登場ではなかった!
絶対何があったか聞かれるじゃん!
ひざしくんは腕の中で冷汗をかく私になど気づかず、消太くんにつめよった。

「ヘイヘイヘイ!うちの可愛いコトハになぁにしたんだァ!?」
「い、いや、やめて……もういいから……」
「引っ越しン時にベッドの下にあったもん見たから怒ってるだけだ。わかったら戻れ」
「お兄ちゃん!!」
「んん!?べ、ベッドの下って、お前、まさかエロ本……!?」
「中学生で脳みそ止まってんのか」
「なんだ、コトハもいっちょ前に思春期なのかと思ってドキドキしたぜ……」
「セクハラやめて」
「ん?じゃあベッドの下になにあったんだよ?」
「やめて!!」
「俺の切り抜き」
「うわぁあああああ……!!」

そうだよ!小学生の頃からずっと消太くんのスクラップを集めるんだよ!いまも!!
だってメディア露出少ないんだもん……!
チラッと写った報道の録画はハードが壊れても大丈夫なようにダビングしてリスク分散しているし、ひざしくん経由で手に入れた高校時の写真も焼き増しして保管してある。
重度のオタクともストーカーとも取れる愛の重いスクラップ帳をよりによって本人に見られるとは!

「消太くん……引いた……?」
「別に。マイクのはないんだなって思っただけ」
「なんでないんだよ!」
「だってひざしくんはテレビつけたら見れるじゃん」
「確かに!!」

落ち込む私とひざしくんを鬱陶しそうに部屋へ蹴り入れた消太くん先導で荷ほどきが始まった。
病院で消費した時を取り戻すように、かけがえのない、当たり前で、平凡な日常を取り戻すように。



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