Walk.03




「お前は他より遅れてる。白も黒もいなくなったんだ、自覚を持って励めよ」
「はい!」

そう元気よく返事をしたのが1時間前。
エクトプラズム先生にお手伝いいただいて組手をしていたのだが、どうも個性を扱い辛くてそれどころではなかった。
それに気づいてしまってからは自主トレがメインになった。
というか、個性が使えないと話にならない。
使い方や動かし方は体がまだ覚えている。
けれど、上手に形を作れない。
一つのことをしようとすれば、もう一つがおろそかになる。
私の個性って、こんなに扱い辛かっただろうか。

「よっ、進んでるか?」
「きぃりしまぁああ!ぜんっぜん進んでないよ!!コスチューム変えたんだかっこいいね!」
「お、おう、サンキュ」

腕んとこ増えたね、と言えば、切島は照れくさそうに頷いた。
そうか、コスチュームかぁ。
他を見渡してみても皆何かしら変えているようだ。
しかしなぁ、うーん……。

「何が上手く行ってないんだ?」

私は肩をすくめて黒い鳥と白い鳥を羽ばたかせた。
どちらも問題なく羽ばたくが、徐々に形を留めていられなくなり、端から崩れていく。
切島が首を傾げた。

「さっきからこんな感じなんだよねぇ」

「それってよ、んー、バランスがわりぃんじゃねぇのか?」

バランス?
作った瞬間はそれなりに綺麗な形だと思うんだけど。
白い鳥を手の上に出して、精巧に作って見せる。
くちばしも、翼も、羽毛すら再現してこれならどうだと切島に差し出すが、そうじゃなくて、と首を振られた。
え、バランスって言ったよね?

「黒と白のバランスってことだよ。ほら、前は白いほうは白が使ってて、黒いのは黒がやってたんだろ?」
「そういう!ことか!!」

切島の言わんとしていることに思い至り、白い精巧な鳥に黒を混ぜた。
さあ行け頑張れと鳥を高く飛び立たせると、今度はどんなに飛び回っても形が崩れることは無かった。
そうか、そういうことだったのか。
考えてみれば単純な話だった。
白が作った白い鳥は白の心をベースに自律思考していた。
黒もまたそれに然りだ。
私が作った鳥も白黒併せ持つ私の心をベースにしているのだろう。
ならば鳥を支えるために必要なのはその両方なのだ。

「切島!ありがとう!!」
「おう、よかったな。んで、必殺技は考えたのか?」
「……なんだっけ、そんなの考えるんだっけ?」
「もしかして、聞いてないのか?」

聞いてないよ。
絶対消太くん忘れてるでしょ。
なんだ必殺技って。

「でもまあ、お前には鯨があるしなー。必殺技で言えば俺のほうが伸び悩んでるぜ」
「何か考えてるの?」
「オールマイトがさ、小細工なしでガッチガチに固めた方がいいって言ってくれたから、とにかく個性強化って感じだな」

小細工なし、か。
なんか切島っぽくていいなぁ。
へらりと笑えば、つられるように切島が笑った。
守れるヒーローになるのだと言った切島を思いだし、何となく、ヴィジョンが浮かぶ。
私も、攻防一体の必殺技作ろうかな。
白鯨はコストの割に防衛しかできないからなぁ。

「何か思いついたか?」
「んーまあ、方向性は」
「そっか、よかったな」

ぽす、と頭の上に乗った手に目を細める。
切島はなんでこんな、優しい心があふれてくるんだろう。
その理由は知っているけれど、それでも不思議で。

「切島の心は、私にはもったいないなぁ……」
「ん?」

白い、白い心は、私の中に渦巻いて、卵を作った。
温かい手から流れ込む優しい心。
ああ、そうか……私の必殺技、決めた。


******


一日の授業を終え、みんなと一緒に学生寮に戻り、そして20時を過ぎたころ、そろそろ帰らなければとソファを立った。
時計と私を見てお茶子ちゃんが、そっか、と納得したように、残念そうな顔をした。
みんなどこまで聞いているんだろう。
少なくとも私の個性の関係で教師ォになっていることは知っているのだろうけれど。

「玄関まで送る!」
「ありがとー」

共有スペースから玄関のほうへと向かったが、珍しく今日は誰ともすれ違わなかった。
いつもなら誰かしらいたりするのに。
けれど、ちょうどよかった。

「……お茶子ちゃん、私のことって、なんて聞いてるの?」
「えっ?あ……個性が、暴走しちゃうかもしれないから、相澤先生の目の届くところにって。だからコトハちゃん相澤先生といることが多かったんだね」

そういう、感じになっているのか。
私が自殺しかけて、消太くんまで殺そうとしただとか、管理課の人たちの心を奪って逃げただとか、そういったことは知らされていないようだ。
しかし9割方は間違っていない返答に案外みんなにつく嘘が少なくてよかったと胸をなでおろす。

「でも、みんなそれだけじゃないって、分かってるよ」

びく、と体が大げさに反応した。
自分の中の心を卵に押し込めて頭を冷静に保つ。
お茶子ちゃんの目を見れなくて、立ち止まったまま床を見つめた。
綺麗に磨かれた真新しいフローリングが、お前は嘘ばかりだと冷たい反射を返してくる。

「私、コトハちゃんの力になりたかったんやけど……でも、あの白い卵から生まれた鳥が、マイク先生を連れて行ったとき、私、なんにもできんくて……」
「そんなことない!!お茶子ちゃんの心が!みんなの心が、私を、深い海から助け出してくれたの……!」

あの時見た煌めきは、夜の闇を切り裂くように海から空へと引っ張り上げてくれたあの尾を引いた流れ星は、確かにみんなの心だった。
一度すべてを失った私に満ちてきたのは、みんなの私を思う心だった。
人生で見た光の中で最も強く美しい光だった。

「だから、そんな風に思わないで……お茶子ちゃんがいなかったら、私、今頃どうなっていたのか分からないくらいなんだから」

お茶子ちゃんと視線を合わせると、じわ、と涙がにじんだ。
私か、彼女かは分からなかったけど、どちらからともなくぎゅっと抱き合った。
心をつなげて、私の感謝の心をお茶子ちゃんに押し渡す。

「コトハちゃんが無事に帰ってきてくれて、本当によかった」
「……ありがとう、お茶子ちゃん。ごめん、何も、話せなくて」

お茶子ちゃんは首を振った。
互いに、うっすらと赤らむ目元を見て少し笑う。

「大丈夫だよ信じるから、信じてるから」

あの時全てを諦めてしまった私に、お茶子ちゃんはまだそう言ってくれる。
どうしたら、この心に応えられるだろう。
どうしたら。



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