Walk.05
「て、展開って……」
こういうことなのね。
ヒーロー公安委員会の目良さんが説明を終えると同時に、それまで広い会場だと思っていた部屋がまるでサイコロでも開くかのように、まさに展開した。
「これは、雄英でかたまった方がいいね……」
ターゲットとボールを受け取り、準備をしつつ三奈ちゃんや百ちゃんに声をかけた。
「でも爆豪行っちゃったよ」
「はあ!?何考えて……大体分かるけど!」
「轟さんも行ってしまわれましたわ」
「もう!みんな自由人か!緑谷は!?」
「久地楽さん、僕も同じ考えだ。かっちゃんと轟くんは行っちゃったけど、残っている皆で協力しよう!」
私は頷き、ツバメを二羽飛ばした。
爆豪と焦凍くんの様子はこれで一応把握できるだろう。
緑谷は飛んでいくツバメを確認して、皆を先導するように走り出す。
声を上げた峰田につられてそちらを見れば、見渡す限りの敵が迫っていた。
「自らをも破壊する超パワー、まぁ……杭が出てればそりゃ打つさ!!」
やっぱりそういう感じ?
剥がれかけた猫被りに苦笑して、白黒まだらな心を練り込む。
ボールは1人6個、少なくはないが、限りは確実にある。
「締まって行こう!!」
緑谷の声に、誰ともなく応とこたえ、迫り来るボールを全て弾き返した。
緑谷の声には力がある。
人の背を押す力が。
やってやろう、って心が沸き立つのだ。
絶対みんなで勝つ!
「久地楽さん、A組の総数は把握できる?」
「焦凍くんが一人、爆豪、切島、上鳴が三人で一緒にいるよ。後はここにいるので全員」
「ありが───」
「みんな下がって!!ウチがやる!」
響香ちゃんの声に皆がとっさに引いた。
ボールが地中に投げられ、下から穿つように飛んでくる。
着弾位置が想定できない。
けれど、そんなこと関係ない。
響香ちゃんは手の甲のアンプにジャックを接続し、地面につけた。
「ハートビートファズ!!」
瞬間、心音によって地面が割れ、その軌道が逸らされた。
よし!
それでも地面を割り割いてきた残りの弾は私と三奈ちゃんが防ぐ。
今は様子見の段階か。
出来る限りの敵を無力化して1−A全員分のターゲットを得たい。
まあ、そう簡単には、行かなそうだけど!!
「傑物の先輩が何かする!みんな警戒!!」
会場前で遭遇したあの性格悪そうな黒髪。確か、真堂先輩。
両手を地面につけて、一体何をするつもりなんだ。
攻撃はおそらく下から!
「割る!!」
揺れ……?
地面から伝わってくる微弱な揺れに嫌な予感がした。
コンマ数秒後、地面が大きく揺れ、そして割れた。
先程響香ちゃんが割った比では無い。
まずい、分断される!!
「コトハ!」
「三奈ちゃん!!」
とっさに近くにいた三奈ちゃんと手を伸ばし合ったが僅かに届かない。
それどころか、突風によって遠くへと吹き飛ばされてしまう。
何だこれ!ただの風じゃない!!
そういう個性だ!!
「久地楽コトハ、厄介な奴だよなぁ」
声が聞こえ、瞬時に体に心を纏った。
その直後、身体強化型の個性の奴が殴りかかってきた。
私の心は鉄壁だよ。
纏った心が衝撃を吸収し、私は傷一つ負わずに受け身を取る。
体育祭で見なかったかな?
なぜかは知らないが上手く受け身の取れていない相手に走り寄り、体に触れて心を根こそぎ奪った。
おかしい。
なんだ?
いや、彼はもう心神喪失状態だから何をすることも出来ないのだけれど……。
取りあえずボールをターゲットに当てて脱落させておく。
何だろう、嫌な感じだ。
「厄介だよなぁ」
ハッと後ろを振り向く。
ビルの上に一人。
そして、そこらから大勢の人が現れた。
だから何だって言うの。一対多なんて私にとっては───。
ふと気づく。
彼ら、皆ターゲットのランプがついている。
既に押されているって、こと?
いや、一つは残っている。
なんだ?なんなんだ?
彼らが一斉に跳びかかってきた。
私は既に一人脱落させているのだから、あと一つでもターゲットを押せば私は合格だぞ。
なのに、どうして。
私に襲い掛かってくる人の心を吸収しながら思考する。
さっきの突風はそれらしき人を今気絶させたから彼がどうこうという話では無い。
やはり、あのビルの上の奴。
単調に、ただ私に向かってくる奴らをいなして心を奪っていれば、数分と立たず周りに死屍累々が出来た。
よく分かんないしもう合格しちゃおうかな。
ボールを出して、ふと思う。
いやいや、私や峰田、瀬呂のような敵を拘束できるタイプは終盤まで残った方が皆のためになる。
死屍累々を鯨に呑み込ませ、ビルの上を仰ぐ。
何を考えているのか分からないけど、取りあえずあいつは気絶させておこう。
不安要素は排除に限る!
獅子に乗り、屋上へと上がった。
「君は強い。そして、この試験において最も邪魔なタイプだ。その鯨、仲間のために持っていくんだろう。厄介だよなぁ」
「何考えてるんですか?」
「防御に特化した君を脱落させるのはとても困難だが、しかし敵の排除は、何も脱落だけじゃない」
飛んできたものに反応して蹴り返した瞬間、言葉の意味を理解した。
そういう、こと!!
私が蹴ったボールの先には操られているのか虚ろな動きをする受験者がターゲットを晒していた。
つまり、私がここで決めてしまえば一足先に合格してしまい、皆のタンクとして機能できなくなるということだ。
「もぉおおおお!!」
こいつ人の操作か、それに準ずる個性だろう。
もしも彼が雄英の誰かを操ってしまえば───。
それはまずい。
私は心を練り込んだ。
「せめて、あんただけは!」
手を伸ばすが、相手には届かない。
「残念だったな。君の個性は強力だが、触れられなければ心は奪われない。そうだろう?」
「──……数週間前まではね」
私の伸ばした右腕から灰色の手が伸びて距離を埋めた。
相手に触れ、心を奪う。
それと同時に、私のターゲットが通過を知らせるように青く光った。
乱暴に手を振って鯨を解除し、中に呑み込んでいた人たちを地面に下ろす。
ツバメも、鯨も何の役にも立たなかった。
倒れ伏した名も知らぬ性格の悪い先輩を見降ろして息を吸い込んだ。
「めっっっっちゃくちゃムカつく!!!」
『はい、1名通過。この調子で頑張りましょー』
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