Walk.06
「コトハ!」
「おー、焦凍くん」
「何か……機嫌悪くないか?」
「本当はもっと残って皆のサポートするつもりだったんだけどね……ちょっと訳分からん人に絡まれて……」
焦凍くんは「何かされたのか?」と首を傾げた。
何かをされたわけじゃないんだけど。
肩をすくめて首を振る。
まあ雄英だからね。
心という対抗策の立てづらい私の個性を知られていたが故の結果だろう。
「あっちでターゲット外せるぞ」
「ん、ありがと」
「怪我してないか?」
「大丈夫だよ」
私より背が高いのに子供のように付いて回る焦凍くんをよしよしと撫でてあげる。
なんか可愛いな。一人で寂しかったのかな。
焦凍くんに案内されながら奥に行き、キーでターゲットを外して返却棚にターゲットとボールバッグを揃えて返却した。
棚の半分以上がすでに返却されている。
次々と放送がかかっているから、こちらに向かっている人も合わせれば、残席は多くない。
「あっ、コトハちゃん!」
「お茶子ちゃん!!」
ちょうどターゲットの返却に来たお茶子ちゃんとぎゅっとハグをすれば、後ろで焦凍くんが「どうして俺にはしないんだ?」と首を傾げた。
いや、さすがに分かって。
切島、上鳴を引き連れてやってきた爆豪に珍しいこともあったものだと肩をすくめる。
焦凍くんと同じくらい早く突破しているのだとばかり。
けれどこれでまだ、12人。
A組は残り9人……三奈ちゃんは、まだ。
「みんな、大丈夫かなぁ」
心配そうなお茶子ちゃんの手を握って少しだけ勇気を渡す。
「きっと大丈夫だよ」
******
「やったー!!」
かなりぼろぼろの三奈ちゃんと抱き合い、A組全員が一次試験を突破したことを喜んだ。
すごいすごい!
信じてはいたけど、残り10人の時点でもしかしたらだめかもしれないとは思っていたから、全員が突破できたのは本当に嬉しくてしょうがない。
だって、今までずっと一緒に訓練してきて、みんなの実力は私たちが一番知っているんだから。
本当に、一人も欠けなくて、本当に良かった。
『えー100人の皆さん。これ、ご覧ください』
放送が入ったかと思うと奥のモニターにフィールドが表示された。
改めて見るとUSJみたいに広いなぁ。
安直な感想をぼんやりと持ちながらモニターを眺めていると、ありとあらゆるすべての建物が爆破され倒壊した。
……はい?
えっ、いや、なんで?
『次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』
「救助、かぁ」
「お前の得意分野だろ」
焦凍くんの言葉にうーんと歯切れ悪くうなずく。
きっと白鯨のことを言っているのだと思うけれど、あれはなぁ。
しかし戦闘を主とした1次試験にくらべ、A組は苦労しそうな2次試験だ。
瓦礫の海となった元高予算の建物たちの向こうから、人影が見えた。
『彼らはあらゆる訓練において今 引っ張りだこの要救助者のプロ!”HELP US COMPANY”略して「HUC」の皆さんです』
要救助者のプロって、そういう職業があるんだ……。
苦笑気味に画面を見る。
彼らを助ける、のか。
「焦凍くん苦手そうだなぁ」
「そうか?」
「笑顔がないからなぁ」
「笑顔が必要なのか?」
「あったほうが安心するでしょ。オールマイトしかり、相澤先生しかり」
「相澤先生?」
焦凍くんは、本気で意味がわからないといった様子で不思議そうに首を傾げた。
おっ、なんだなんだ!文句があると見えるな!
消太くんの笑顔は安心するぞ!
どこが良いのかを懇切丁寧に説明しようとしたが、それよりも早く続きのアナウンスが流れた。
『なお、今回は皆さんの救助ポイントで採点していき、演習終了時に基準値を超えていれば合格とします』
一戦終えた私たちよりも疲れているような声は10分後に開始とだけ告げて沈黙した。
一次試験ではバトルロイヤルって感じで見渡す限り敵だったけど、二次試験はきっとそうじゃない。
プロの現場なら災害発生場所でのチームアップも度々あるし、個性を知らない他の事務所の人と共闘することもあるだろう。
自分が自分がばかりでは、二次試験は突破できない。
「爆豪、他校の人とも仲良くするんだよ」
「ああ!?しねーわクソが!!」
「ぅ……くっ……ぶふっ!」
堪えようと思った笑いを堪えきれずに漏らしながら、推測ではあるものの今回の試験の構造を説明したが、爆豪は全員ぶっ殺せば合格にせざる終えないだろ、とヒーロー志望とは思えないことを叫んだ。
さすがに言葉を返しただけだとは思うけど、なんかもう逆にすごい。
もうちょっと言うか、もう諦めるか、いっそ笑いを堪えるのをやめようか悩んでいると、焦凍くんがくい、と袖を引いた。
なんだどうした。
「あいつ知ってるか」
「あいつ、って、ああ、士傑の?いや、知らないけど……」
「そうか」
焦凍くんは私の答えを聞くと一つうなずいて夜嵐イナサへと声をかけた。
えっ、積極的。
今まであんまり見ない様子に一体どうしたのだろうと事の成り行きを見守っていれば、一触即発といった空気で夜嵐は焦凍くんの左側を刺すようにしてエンデヴァーと同じ目だと、嫌いだと言い募った。
「ちょ、ねぇ、何も知らないアンタが──」
「夜嵐どうした」
「何でもないっス!!」
追いかけようとした私を制し、焦凍くんは目を眇めて夜嵐の後ろ姿を視線だけで追った。
「いい。ありがとうコトハ」
「……言い返していいんだからね、ああいう時」
「ああ。ただ、言葉が咄嗟に出てこなかった」
「そっか」
無表情なまま、けれどどことなく不安そうに私の手を取って左の頬で擦り寄るような仕草を見せる焦凍くんからはピリつくような感情が流れてくる。
なにも試験中に乱してくれなくてもいいのに。
心を奪って代わりに私の白い心を渡す。
応急処置だけど。
焦凍くんに声をかけようとした時、非常ベルのような音が鳴り響いた。
もう始まった!!
『ヴィランによる大規模破壊が発生!』
「焦凍くん、いまは試験に集中しよう!」
「おう」
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