Walk.07




「東側新規二名!軽傷者の運搬要請!」
「はい!」

体育祭を見ていたのか、私の個性を知る人たちが運搬役に私を指名したため、一次避難所として突貫整備された旧控室で無数のシャチを飛ばしていた。
テレパス系の個性を持つ先輩から心と伝達を受けながら拠点で回収作業に専念する。
本当は自身で動き回って回収を行いたいところだけど、緊急のチームアップ想定に従い頷いた。

「南側、少なくないですか」
「そうだね、何人か向かってもらうよ」

先輩がテレパスで指示を飛ばしている間も次々と重軽傷者が運び込まれてくる。
本来であれば、これだけの大規模テロが起きている以上救護所にはもっと防衛のための人員が必要になるだろうが、幸いにも今回は訓練であり、テロリストは存在しな───
バチ。
久しぶりの感覚。
驚くまもなく、救護所をカバーする大きな黒い幕をとっさに出現させる。
そしてその瞬間、爆発と轟音が会場の壁を突き破った。
瓦礫や礫が爆風に乗って飛んできたが、私の出した黒い幕が全てを受け止める。
すぐに両手をむけて心を補充していくけれど、あまりにも多い瓦礫に薄い幕は耐えきれずにゆっくりと撓みはじめる。
おも、たい!

「っ、消えます!!フォローを!!」

茫然と半透明の黒い幕を見上げていた先輩たちが私の声にハッと動き出した。

「久地楽さん!いいよ!」

緑谷の合図で幕を解けば、彼をはじめとするその場にいたパワータイプの人たちがフォローに入ってくれた。
緑谷いたんだ!よかった!
暗澹と立ち込めていた土煙がゆっくりと晴れ、ヴィラン役のヒーローの姿が見えた。

「シャチョー!?」
「えっ、あっ!ギャングオルカ!そっか、久地楽さんの職場体験先!」
「そう!なんで!?救援、って感じじゃなさそうだけど……」
『ヴィランが姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生はヴィランを制圧しつつ、救助を続行してください』

そういうこと、ね。
奇妙な全身タイツを身にまとったヴィラン役のプロヒーローたちを前に、冷汗をぬぐう。
救護所近くでのヴィラン出現。
自分では動けないほどの重傷者多数。
そして、無数のヴィランたちと、圧倒的点力を持つ親玉。
いくらテロ想定のシナリオといえど、あまりに高難度だ。

「さあ、どう動く!?ヒーロー!」

シャチョーノリノリじゃないか……。
動き出したヴィランたちを前に歯噛みした。
救護所の防衛人員が少なすぎる。
テレパスの先輩と視線を交わし、頷いた。

「一次前線を頼む。すぐにみんなを呼び戻すよ」
「はい!」

期末試験で消太くんと戦えなかった記憶が、ふと蘇った。
お世話になったシャチョーを前に、一瞬二の足を踏んだのは事実だけれど、大丈夫、戦える。
それに、あくまでも訓練なのだから。
全身に心を巡らせ、自分を奮い立たせる。
緑谷の脇を抜けて真堂さんがシャチョーに走っていく。

「待って!!シャチョーに近接はまずい!!」
「出遅れたな。ハーティ」

シャチョーの超音波でぐらりと真堂さんが傾いだ。
至近距離でモロに食らった!
シャチョーがいったいどれくらいの出力で超音波を出したのかは分からないが気絶は免れないレベルだ。
真堂さんを白い羊クッションで受け止め、現場から離す。
それにしても。
私はシャチョーの体についている見慣れないプロテクターを見て苦笑する。

「シャチョー、動き鈍いですね」
「ふふ、貴様らダボハゼどもにはこれぐらいのハンデが必要だろう!!」
「後悔しますよ!!」

白黒まだらな獅子を出してシャチョーに差し向けた。
前線を押し上げないと。
ここではあまりにも拠点に近すぎる。
正直、救護所の避難はこの大規模テロという状況では効果が薄いと思っている。
爆発が起きたのはおそらくここだけではないし、シャチョーが親玉と言えど、ほかのヴィランたちも同時多発的にこのフィールドに現れたはず。
つまり、安全な場所など作らねば”無い”のだ。
卵を割ってドームを作ってもいいが、私はそのドームの維持に集中しなければいけなくなるし、それに何より入れる入れないの判断が自動でできないため、自力で救護所まで来た軽傷者をはじいてしまうリスクがある。
無暗に消耗の激しい卵を使うわけにもいかない、けど、出し惜しみして勝たせてくれるほどシャチョーは甘くない。
姿が見えないため確信は持てないが、おそらくシャチョーの事務所の社員さんたちとみられる黒い全身スーツたちを背後に逃がさないように獅子たちを追加で出すが、すべてを緻密にコントロールしきることができず、何体かが形を崩して解けた。
私、ひとりじゃ……!
その時、覚えのある氷壁が私とヴィランたちを阻んだ。

「焦凍くん!!」

思わず喜色をはらんだ声で振り返った。
焦凍くんは氷でシャチョーに畳みかけるが、あの超音波で次から次へと砕かれてしまっている。
足止めは、できるけど……。

「コトハ……悪い、遅くなった」
「ナイスタイミングだよ!!救護所守るためにもう一個大氷壁だせる?」
「ああ」
「あとは爆豪が来れば布陣的には完璧なんだけど。ま、こんだけ暴れてればすぐ来るでしょ」
「俺とお前でやれる」
「焦凍くんって負けず嫌いだよね」

苦笑した瞬間、氷すら割り砕く強風がヴィランたちを襲った。
この風は、夜嵐イナサ!
何かと焦凍くんに突っかかっているようだけど今は彼の強個性が心強い。
私が頼まれたのはあくまでも一次の前線。
この二人が前線に立ってくれるというなら、安心して二人の取りこぼしをフォローする後衛に移動できる。
むしろここに私がいては過剰戦力だ。

「焦凍くん、夜嵐!救護所の防衛に戻る!ここは任せるよ!」

本当はちょっとだけシャチョーと手合わせしたかったけど、今はそんな場合じゃないことを分かっているから自重した。
私は獅子に乗り、前線を離脱しようと踵を返したが、ヒーロースーツを焦凍くんに捕まれて驚きながらも止まった。

「待て、ここは俺とコトハでやろう。おまえは、救護所の避難を手伝ったらどうだ」
「はあ!?いやいや、焦凍くんと夜嵐が適任だって!合わないのは分かるけどしっかりやるんだよ!」

私は焦凍くんの手を振り払って、今のうちだと救護所に向かっているヴィランたちを獅子で追いかけた。
振り払うついでに怒りと鬱屈したもやもやを取り除いたから、少しは冷静になってほしい。
まあ、他人には一番触れられたくないエンデヴァーおじさんのことで色々言われていたから怒るのは分かるけれど。
言い争う声を無視して救護所付近の援護に入る。

「久地楽さん!」
「緑谷!状況は!」
「ギャングオルカとその周囲のヴィランはあっちに釘付けだけど、他エリアから救護所を狙ってきてる奴らが複数いる!」
「了解、ひとまずあっちは二人に任せて私たちでここを守ろう!」
「あっち……大丈夫かな」
「えっ、さすがに大丈夫だと思うけど」

緑谷は近くまで来たヴィランのセメントガンを躱し、腹部にけりを入れて伸すと気づかわしげに焦凍くんたちの方を見た。
シュートスタイル、だったか。
訓練中は付け焼刃のスタイルで実戦に持ち込むのは危険ではないかと思っていたが、持ち前の努力と研究で案外ものになっている。

「だめ、そうだ……久地楽さん、加勢に行こう!」

炎にあぶられて舞い上がった巨大な風が振り返った先にあった。
あのバカども!
何をケンカしているんだ!
贔屓目かもしれないが、ケンカの原因は夜嵐だろう。
彼が焦凍くんに突っかかるせいで、焦凍くんも、彼自身も十分な力を発揮できていない。
こっちに戻ってきたばかりだけど、さすがにあれを見て見ぬふりはできない。
でも、この戦線は維持しなければ。

「行って久地楽さん!緑谷も!」
「尾白くん!?」
「すぐに何人か加勢に来る!」

言葉通り、酸と黒い影が飛来した。
的確にセメントガンを破壊し、意識を奪う。
三奈ちゃん!常闇!
あまり二人で訓練しているところは見たことがなかったけど息ぴったりだ。

「ピンキー参上!こっちは任せて!コトハと緑谷ならあっちも何とかできるでしょ!」

戦いのさなか、ウィンクして見せた三奈ちゃんに苦笑しつつ高い信頼に白い心がちょっとだけ漏れ出た。
二人だけじゃない、もう何人も救護所の危機に駆けつけている。
これなら。
声なく緑谷と頷きあい再び前線に走った。



- 126 -

*前 | 次#

戻る