Walk.09



「あった!」
「ねえ!!」

喜びに両手を突き上げた私の隣で、爆豪が唸るように吠えた。

「えっ」

まさか、救助の態度が悪すぎて……?
だとしたら……。
反対隣で表示を見る焦凍くんを見れば、その顔に喜色はなかった。
落ちたんだ。
何と声をかけていいのか分からず、中途半端に手を浮かせていると、夜嵐が近づいてきた。

「ちょ」
「ごめん!!」

夜嵐の形相に割って入ろうとしたが、その前にとんでもない勢いで夜嵐が頭を下げた。
下げ過ぎて地面についているが大丈夫だろうか。
咄嗟に気づかなかったが、夜嵐からは悪い色は見えなかった。
本心だ。

「あんたが合格逃したのは、俺のせいだ!!俺の心の狭さの!!ごめん!!」

ものすごく素直というか、愚直というか。
けれどきっと、焦凍くんにはそれが一番いいはず。
私はまるで自分の子供のように心配していた焦凍くんから視線を外して観客席を仰いだ。
ジョークから微妙に距離を置いて座っている消太くんにVサインをして見せれば、小さく頷かれた。

「コトハも合格?」
「うん!響香ちゃんも受かっててよかった!」
「何とかね……にしても、うちのツートップが落ちるとはね。あの態度じゃ仕方ないけど、爆豪は何やかんやそつなくこなしてたしちょっと意外だわ。轟もだけど」

響香ちゃんに頷く。
その通りだ。
2人とも授業の成績はいいし、何をやらせてもそこそこ上手くやる。
爆豪はともかく、焦凍くんは夜嵐の煽りさえなければ合格していただろうとも思う。
でも、焦凍くんの顔はそれほど曇っていない。
きっと、得るものがあったのだろう。

「爆豪は凄いやつなんだけど、言動がなぁ」
「治らんね、あれは」

呆れた様子できっぱりと言い切る響香ちゃんに苦笑する。
にこにこ笑顔で救助している爆豪なんて想像できないが、ヒーローの仮免にそれが必要だとしたら、何としてでも身につけなければならないのだろう。

「爆豪は爆豪なりのヒーローでやっていってほしいけどね……」
「まあ、今更キャラ変しても怖いしね」
「久地楽コトハさん」
「あっはい!」

プリントが配られそこには詳細な採点内容が書かれていた。
92点。
先輩の指示に従うことが多かったが、もっと自己判断で動くべきだったようだ。
指示を与える側になれれば尚良しと書かれている。
細かい減点はあれど、私が認められているようで嬉しかった。

「待って!ヤオモモ94点!!」
「うわまじか!見ていい!?」

誇らしげな百ちゃんのプリントを見てみればそこにはほぼ減点なしの好成績が掲げられていた。
す、凄い。

「コトハはーって、あんたも92点じゃん!座学トップ勢強いな!」

きゃいきゃいとはしゃいでいると目良さんが再び話し始めた。
皆一度プリントから顔を上げて壇上の目良さんを見る。
ヒーローとしての責任、激励、そして、不合格者への特別講習。
思わず息を呑んだ。
終わりじゃない!
爆豪も、焦凍くんも!

「やったね轟くん!!」
緑谷は自分のことのように喜び、焦凍くんに声をかけた。
いい友達だ。
ヒーロー殺しの一件から、緑谷、飯田と一緒にいることが増えた焦凍くんは、顔には出さないが2人の様子に少しだけ嬉しそうに雰囲気を緩める。
緑谷、飯田、そしてなぜか私にも視線を寄越した焦凍くんは、柔らかい雰囲気のまま頷いた。

「すぐ……追いつく」


******

「先生見て!」
「仮免とった!」

仮免を掲げる私たちに消太くんは珍しく頷いた。
よくやった、の言葉をもらって、三奈ちゃんと喜びを分かち合う。
ヒーローへの、明確な一歩。

「イレイザー」
「ぎゃ、ジョーク!」

推しの出現に心臓が止まりかけた私は三奈ちゃんの後ろに隠れた。
あ、危ない、せっかく仮免とったのに死ぬとこだった。
あああ、やっぱりかっこいい……!

「せっかくの機会だし今後、合同の練習でもやれないかな」
「ああ……それいいかもな」
「ひえっ!」
「コトハうるさいよ」
「だ、だって、ってことはまたMs.ジョークに会えるってことじゃん!?」
「あんた緑谷みたいになってるよ」

三奈ちゃんの後ろでコソコソと話していると、ジョークがこちらに気づいてか歩いてきた。
う、うわ。

「私のフォロワーもいるみたいだし」

ジョークに肩を組まれ、三奈ちゃんの後ろから引き摺り出される。

「す、すすす、好きです、ジョーク!」
「あははっ!ありがとうな!」

消太くんはぐっと眉間に皺を寄せると捕縛布を掴んだ。
考えるより早く体が動き、ジョークの腕と布の先から逃れた。
あっ、勿体ないことした!
肩組んでもらったまんま写真撮りたかった。

「うちの生徒を拐かすな」
「ぶふっ、お、面白いなお前!ほんとに!」

笑ったジョークに思わず視線が取られ、離れてなお追い迫る布に捕まった。

「帰るぞ」

ずるずると引きずられる私を三奈ちゃんが指をさして笑った。
おいこら!
じゃなくて!!

「じょ、ジョーク!お会いできて光栄でした!また今度お会いできる日を楽しみにしてます!」
「おう!」



- 128 -

*前 | 次#

戻る