Walk.10
「んじゃ、私はそろそろ戻るわ」
「じゃーねー」
「また明日」
仮免から冷めやらぬ寮の賑やかさに手を振って教師寮に戻った。
ちょっと遅くなっちゃった。
消太くんが怒るだろうかと足速に教師寮に入ると、エントランスでひざしくんが待ち構えていた。
「コトハー!遅いぞ!」
「ご、ごめん」
「仮免おめでとう!!」
「ありがとう!」
広げられた腕の中に飛び込めば、よしよしと撫で回された。
ひざしくんに抱きついたままの私を消太くんが撫でてくれた。
「よくやったな」
「消太くん……!」
ひざしくんの腕から抜け出して、今度は消太くんに飛びつく。
ぐらりとも揺れないプロヒーローに、私は嬉しくなって足も浮かせてコアラのようにしがみついた。
消太くんは私を引き剥がすでもなくお尻を持って抱え直してくれた。
小学校以来の体勢に胸がときめく。
「消太くん、好きぃ……」
「はいはい、ケーキあるぞ。食うか?」
「ケーキ!?」
「仮免合格祝いだぜ!」
「食べる!」
私を抱えたまま消太くんは階段を登ってひざしくんの部屋に入った。
今度こそ私を引き剥がしてソファにぶん投げた。
うおふ。
「何飲む?」
「あ、私やるよ。お兄ちゃんたち何飲むの?」
「いいから座っとけ!お前の祝賀会だぞ!」
「そーいうこと」
テキパキとケーキやら皿やらを用意したお兄ちゃんズに、じゃあコーラ、とひざしくんの冷蔵庫に必ずあるドリンクをオーダーした。
私とひざしくんはコーラ、消太くんはコーヒーにしたようだ。
「では……コトハの仮免を祝って!!カンパーイ!!」
「コーラとコーヒーで!?」
ひざしくんは私と消太くんの腕も取って無理やり乾杯した。
お、おう。
消太くんは仕方がなさそうに私に湯気のたつマグカップを差し出した。
「か、乾杯」
「おつかれーー!!」
「おつかれ」
ホールケーキを取り分けてくれたひざしくんにお礼を言って、早速一口食べる。
お、美味しい!
待って、食べてから気づいたけどこれ私の好きなケーキショップの新作なのでは!?
にこにこと私を見つめるひざしくんを見れば、肯定するように頷いた。
「ありがとう!!」
飛びつこうとして消太くんに阻まれた。
「おい!」
「いい歳して抱き合うな」
「オメーはいいんかよ!」
「俺はいいだろ」
「きゃー!この不良教師!聞いたかコトハ!」
「ひざしくんだっていいじゃんね」
「そーだそーだ!」
多勢に無勢と判断したのか消太くんはコーヒーに口をつけた。
にしても珍しい。
私とひざしくんが戯れあってるのなんていつものことなのに、それに、俺はいいだろって……。
殴られたような衝撃に私は飛び退いてクッションに顔を埋めた。
息を呑む。
「う、嘘でしょ……」
キュンキュンと赤面が止まらない。
だって、それってつまり、ひざしくんにすら嫉妬したってことでしょ!?
お兄ちゃんのひざしくんとくっついてるのすら面白くないって思ったってことでしょ!?
私のこと好きすぎじゃん!!
う、心臓が痛い。
白い心の放流が止まらない。
「コトハ!?どうした!?」
「ちょ、ちょっと、カウンターというか、何というか」
「さっさと食え」
あわあわと私のそばで狼狽えるひざしくんをぐるぐる巻にして床に転がした消太くんは、私と目が合うとにや、と口角を上げた。
「はうっ……!」
ひざしくんの部屋に二つの死体が転がった。
好き……。
「食わねえのか?」
「くう……」
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