Step.13



「あれ!?ひざしくんだ!」
「OH!!コトハ!久しぶりだな!」

広げられた両腕に飛び込んでそのまま抱き上げられた。
今日は非番なのか、いつもはしっかりと固められていた長い金髪がゆるく後ろで纏められている。

「出かけるから着替えてこい」

一体どうしたのかと私が口を開く前に、消太くんが先手を打つように言った。
消太くんも今日は非番だと言って朝から寝こけていたが、流石にお昼には起きたらしくリビングのゴミ箱に10秒でチャージ出来そうなゼリー飲料の軟包装容器が見えた。
絶対体に悪いし持ちも良くないからやめろって言ってるのにこれだけは全然直らない。
そもそも前日に明日は非番だって教えてくれればお昼作っていったのにそういうところ横着するんだからなぁ。
取り敢えず消太くんの言葉に従うことにして、ひざしくんの腕の中からぴょんと飛び出して床に着地した。

「消太くんまたお昼ゼリーで済ませたでしょ。ひざしくんからも言ってよ、ゼリーだけじゃダメだって」
「コトハお前所帯染みたな……!」
「はよ着替えてこい」
「冷蔵庫に栄養満点ケーキあるからレンジでチンして食べてね。あ、ひざしくんの分もあるから一緒に食べてー」
「おー」
「分かったからはよ」

私の部屋に入ろうとしてふと思い至り、消太くんを振り返る。

「消太くん……チンできる……?」
「コトハ、いい加減にしろよお前……!」


******


お兄ちゃんズに栄養満点ケーキを食わせたその数時間後、私は居酒屋で悶絶していた。

「幸せ過ぎて吐きそう」
「サイッコーにクレイジーな感想だぜ!」

訳も分からないまま街に連れ出されたかと思うと、あれよあれよという間に服屋で試着から購入までを済ませ、その足で水族館、展望台そして今いる居酒屋へと来ていた。
いい歳した男2人に女子高生1人では中々行きづらいデートスポットをことごとく制覇した私は言うまでもなく幸せで満ち足りている。
むしろキャパオーバー気味だ。
ちなみにではあるが、デートコースは全てひざしくんの引率である。

「なんなの……明日地球が滅びでもすんの……?」
「超絶ネガティヴだな!もっと喜べ!」
「幸せ過ぎてしんどい……呼吸が辛い……!」

治部煮美味しい。
今度家で作ってみよう。
消太くんはビールを飲みながら私たちを眺めていた。
それなりにおつまみ食べてるみたいでコトハは安心したよ……。

「消太くん、お麩は体にいいから食べてね……」
「お前は俺の母親か」

なんだかんだ言いながらも差し出したお麩は食べてくれる。
そういうところ可愛いよね!

「さあ、コトハ!最後に俺らからのサプライズプレゼントだ!」
「まだあるんですかそろそろ幸せで死んじゃう」

ボフッ、と音を立てて白いライオンが具現化した。
キャパオーバーした。
さっきから白い靄が漏れ出ていたからそろそろオーバーするとは思っていたけど。
ひざしくんからシックな包装をされた四角い箱を受け取り、幸せの感情をなんとか押し込める。

「そいつは俺から」
「これが、俺からだ」

今度は消太くんがひざしくんから渡されたものよりいくらか小さい箱を差し出して来た。
うさぎが私から二匹飛び出た。
こちらもシックな包装で、何だか高価そうな感じだ。
お兄ちゃんズは私から溢れ出る動物たちに驚いた様子もなく、どこか緩んだ顔で微笑んだ。
消太くんは掘りごたつの下、足元でウロチョロしだした猫を拾い上げて膝の上で撫でた。
白い猫は気持ちよさそうに目を細め、ごろごろと喉を鳴らす。
本質的に、白は増える傾向にある、けど……。
小さめの東洋龍が溢れ出した。
個室でよかった。
それなりに広い個室だったはずが、白い獣たちのせいでどんどん狭くなっていく。

「あんまり、撫でると、増える、よ……」
「おお!すげぇな!龍じゃねえか!」
「おい、そろそろ止めろ」
「取り敢えず撫でるのやめてもらっていい!?その猫の感情がこっちに来てるの!」
「そうなのか」

猫からの感情の流れが止まり、目をつぶって少しだけ落ち着く。
心の中にあるいくつもの卵に感情を振りかけて吸収させる。
どくりと卵が脈打った。

「よし、落ち着いた!」
「それじゃあ!開けてみろよ!」
「それはまだ早いよ!」
「……うるさい」

ひざしくんに急かされて、私は仕方なく包みに手をかけた。
テープを使わない丁寧な包装を解き、中のものを取り出すと、すぐにそれが何なのか思い至り、パッとひざしくんを見た。
にやりと口角を上げて両手で私を指す。

「ヘッドホンだ!」
「You got it!!」
「ありがとうひざしお兄ちゃん!!」
「さあ来い!コトハ!」
「お兄ちゃん!!」
「コトハ!!」

テーブル越しに両腕を広げたひざしくんの胸に飛び込んだ。
おい、と消太くんはいい顔をしなかったけど、今はちょっと見逃して欲しい。
案の定見逃してくれるらしく、舌打ちをしてビールをあおった。

「次」
「え?」
「そっちも開けろ」

消太くんは私の腕の中にある小さい方の箱を指した。
龍に体を持ち上げてもらって席に戻り、ヘッドホンを首にかけてまた包装を解く。
離れるときひざしくんがちょっと寂しそうにしたのに苦笑を返した。

「お、わ、綺麗……!」

飾り気のないシルバーのバングルだが、サイズを調整するための隙間から伸びた樹木の模様の溝が、人工灯の光を美しく反射していた。
まるで薄く濡れているかのような艶やかな表面は、思ったよりもさらりとしていて触り心地がいい。

「あ、ありがと、消太お兄ちゃん!!」

先程のひざしくんように腕を広げてはくれなかったが、私は構わず飛び込む。
消太くんは持っていたジョッキをテーブルに置いて、仕方がなさそうに私を受け止めてくれる。
「それは、お前たちにだ」
「ん?」
「コトハと黒と白の」
消太くんはよしよしと撫でてくれながらも真剣な声で言った。
「仲直りしろよ」


******


封じ込めていた鎖が解けて散った。
黒も白も意図的に出さないように封じ込めていたのを、消太くんはいつから気づいていたのだろう。

「……ごめん」

封じ込めていた扉も鎖も全て解き放ったのに、黒も白も出てこないまま心の奥底から私を見上げていた。
目を閉じて、インナーに入る。

「ごめんね、酷いことして」
「コトハはいない方がいい?お姉ちゃん、コトハいない方が笑顔になれる?」

白い小さな私が黒い私に隠れながらこちらを見上げた。
黒も白も仲悪かったと思ったんだけど、そっちはもう仲直りしたんだ。
私だけがいつまでも前に進めずにいた。

「そんなことないよ、ごめんねコトハ」
「だめだよ。分かるでしょ、私たちは必ずしもコトハの望みを叶えられるわけじゃない。力を使いたいときはいつでも手伝う。でも、コトハの夢のために私たちはいない方がいい」

白い私を制して、黒が言った。
多分私たちの中で一番大人だ。
けれど。

「みんなコトハだよ」

白い私を抱き上げて、黒い私を抱き寄せた。

「閉じ込めてごめんね」

切島に言ったばかりだ。
同じ体使ってるんだから、仲良くしよう。
支え合って生きていこう。
そして、私の夢に、協力してほしい。
目を開ければ、黒も白もやっと私から出てきた。

「オーゥ!久しぶりだな白コトハ!」

私の膝の上に出てきた白をひざしくんが両腕を広げて呼び寄せた。
一瞬こちらを伺うように見た白に頷く。

「ひざしお兄ちゃん!」
「コトハ!」

あれ、デジャブかな。
黒は肩をすくめて消太くんを見た。

「ありがとう、これ、すごく綺麗」

私の右腕をとってシルバーのバングルを指した。
そう、私たちにくれたんだ。

「……葉は未来のために光を集め、幹は現在に強く皆を繋ぎ、根は過去を以てそれら全てを支える。そのバングルの説明らしい」
「なるほど、私たちにぴったりだ」

黒が笑って私に言った。
白は未来、私は現在、黒は過去か。
私は頷いた。

「白、おいで」

ふわりと龍に持ち上げられてこちらへ来た白を膝の上に乗せる。
やっぱりちょっと寂しそうな顔をしたひざしくんには苦笑を返してうさぎさんをつくってあげた。
もう30でしょ、ひざしくん。

「じゃあ、本題だ」
「えっ、ここまで本題じゃなかったの!?長い前振り!」

消太くんはまあ、と頷いてひざしくんを見た。
その視線を受けて、ひざしくんは真剣な顔で私たちを見回した。
サングラス越しの目がしっかりと認識できる。

「コトハ、これァ前祝いだ。しっかり受かれよ、雄英」

ヒーローたる強い瞳に気おされたが、決して目を反らさず視線を受け止める。
プレッシャーと、それ以上の期待を、お兄ちゃんたちはしてくれているんだ。
なら、それに答えなければ。
私の全力と誠意をもって。
そのための武器<心>は、もう貰った。

「はい!」



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