Step.14
「じゃ、行ってくる。くれぐれも遅刻なんかするなよ」
「大丈夫だよ、今日も気を付けてね」
「ああ。……頑張れ」
私よりも先に家を出る消太くんは、私の頭をくしゃりと撫でて珍しくそんなことを言った。
あれ以来片時も外したことのないバングルに触れ、頷く。
「ありがとう」
それからはいつも通りに支度をして、少しだけ早く家を出た。
正直中学校よりも雄英のほうが近いから、いつもより遅く出てもいいくらいなんだけど。
ひざしくんからもらったヘッドホンで心を高めるための音楽を聞きながら雄英に足を踏み入れると、見慣れた姿があった。
「切島!」
「お、おお!久地楽!」
「おはよう!お互い頑張ろうね!」
「おう……久地楽、俺は、お前のおかけで今ここにいる。だから、ありがとな!」
切島は輝かんばかりの心を込めて右手を差し出した。
私の個性を知っているから、何も言わず差し出してきたのだろう。
私は彼の右手を握り、しかしその心は受け取らない。
「その勇気は自分のためにとっておきなよ。ちゃんと合格してからそれは貰うからさ」
「……おう。じゃあ、お前、ぜってぇ合格しろよ」
「学年首席に何言ってんのよ、こっちのセリフだから!」
「へへっ、その学年首席のマンツーマン指導を受けたんだから大丈夫だ!漢らしくブチかましてやる!」
ぐっと握った手が、前に触れた時よりもずっと硬く強く、その努力の一端が垣間見えたような気がした。
「じゃあ、行こうか」
「おう!」
倍率300という化け物じみた数字の壁を前に、私たちは少しも怯まず試験会場の扉を開いた。
筆記の会場は同じ高校のものは分けられるらしく、切島とは教室前で分かれた。
早く着いたせいか教室にはまだ誰もおらず、私が一番らしい。
じゃあ、今のうちに、と私は卵を取り出して、編み直した。
たくさんはいるように容量を開けているのだ。
今ある白い卵は5つ、そのうち完成しているものは1つしかない。
卵を作っているうちに人が集まる時間になってきたため再び卵を心の中に戻した。
首にかけたままだったヘッドホンもカバンにしまい、消太くんに貰ったバングルに触れた。
それだけで勇気がわいてくる。
二人からもらったのは合格祝いだ。
ここで、下手なところは見せられない。
いまもきっと、ヴィランと戦っているのだろう二人を思い、バングルを握る。
狙うは首席。
「あかん!シャーペン忘れた!」
まじか、大丈夫か!
ハッと顔を上げれば横に座る丸顔の女の子がわなわなと震えながら「血で書けるかな……」と物騒なことを言っていたので、慌ててその子の机をコンコンと叩いた。
「ねえ、シャーペン貸すよ」
「えっ!?あ、でも!」
「大丈夫、2本持ってるから」
私がそういうと、彼女は目をうるうるさせて私の手をぎゅっと握った。
「神……!!」
何度もお礼を言いながらシャーペンを受け取った彼女は、しっかりとこちらを振り向いて名乗った。
「麗日 お茶子です!ほんとにありがとう、助かったよ!」
「久地楽 コトハ。よろしくね、お茶子ちゃん」
ちょうど先生が入ってきたせいでそれ以上会話はできなかったが、アイコンタクトで微笑み合った。
んんん、可愛い子だ。
私が口を抑えて身もだえするうちにそう間を開けず、すぐに試験が始まり、私はペンを取った。
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