Walk.13
「というわけで、訓練に付き合ってもらいたい。頼めるか?」
「あ、はい」
よかった、怒られなかった。
職員室に呼び出された私は、心操くんのヒーロー科編入に向けた訓練の話を聞いていた。
インターンの件もあるから自分の都合優先でいいとあくまで協力要請だったけど、断る理由もなくて頷いた。
「でもなんで私なんですか?近接がいいっていうのは何となく分かりますけど」
「個性抜きの体術訓練、技術面ではお前がトップだぞ」
「えっ!?ほ、本当ですか!」
「ああ、言ってなかったか?」
「聞いてない!」
これもシャチョーのところで修行を積んだおかげだ。
やっぱりインターンもシャチョーにお願いしよう!
「バッチリ任せて心操くん!ギャングオルカ直伝の体術伝授するよ!」
「ありがとう。よろしく頼む」
あんまり愛想のない心操くんだけど、愛想のない人たちには慣れている。
消太くんと焦凍くんを足して2で割った感じだ。
なんか可愛い。
その日から早速心操くんの訓練が始まった。
と言っても、もともと消太くんと秘密の特訓をしていたらしく、捕縛布を使った動きが固まりつつあった。
「めちゃくちゃ絡まってる!」
「……言うな」
木と自分とを絡めとる捕縛布を何とか解いて落ちてきた心操くんを羊で受け止めた。
「さんきゅ」
「それめっちゃむずいんだね」
「むずい」
「久地楽も来たし今日はここまでだな。昨日から引き続き対人訓練だ」
「よろしく」
「はーい。今日は気絶させないようにするね、時間もったいないし」
「……っす」
心操くんは悔しそうに頷いた。
でも、すごく前向きな心が伝わってくる。
威力はあるのだろうけど大ぶりな上段蹴りがゆっくりと目の前を通過した。
消太くんほど早くない。
消太くんほどしなやかじゃない。
けど、伸び代はしっかりとある。
私は心操くんの浮いた足をさらに上へと蹴り上げて、バランスの崩れた所に掌底を打ち込む。
「っぐ!」
のけぞる際に捕縛布で木を絡めて、引き寄せる力で私から距離を取る。
今のはいい動きだけど、追撃怖いですって言ってるようなもんだ。
シャチョーは、一歩引けば一歩踏み込んで来ると、当たり前のことを当たり前以上の強さで教えてくれた。
だから私も、強く、教える。
制御しきれていないせいで無駄に浮いている捕縛布を掴み、心操くんとの距離を詰める。
「ガラ空き」
右手を振りかぶって、思い切り殴った。
頭じゃなくてお腹にしたから、脳震盪はない。
体勢が崩れ、いまだに立ち上がれない心操くんに追撃のため左足を振った。
「ストップ」
今までのものとは明らかに強さも速度も違う捕縛布が私の足を絡め取った。
警戒していたわけではないけど、咄嗟に反応すらできなかった。
「お前なぁ、手荒にも程があるぞ。腹パンされてダウンしてるんだから蹴りはなしだろ」
「えっ、でもフカさんはダウンしてようが気絶してなきゃ問答無用でぶん殴って来てたけど……」
「……まじかウシミツ事務所」
消太くんが引いた。
ギャングオルカの事務所だから大丈夫かと思っていたが……とか、来年の職場見学から外すか……とかぶつぶつ言う様子を見て慌てて言葉を返す。
「不屈の精神養う修行の一環かと!」
「お前はそれで良かったが、生徒によっちゃ心折れるだろ」
「シャチョーは人見てるから!大丈夫だから!」
ぐっと言い募る後ろで、心操くんが立ち上がった。
内臓にダメージは与えてないけど、それでも痛いところをついたつもりだから、こんなに早く立ち上がるのは意外だった。
「先生、大丈夫です。久地楽さん、そのままでいい。俺が弱いからいけないんだ。どんだけ殴られても、立ち上がるから、そのまま来てくれ」
人は叩けば叩くだけ強くなる、がフカさんの金言だ。
「折れない程度にぶちのめすよ」
「望む、ところ!」
いい拳。
いつのまにか解かれた消太くんの捕縛布に笑って、心操くんの腕を掴んで投げ飛ばす。
けれど今度はすぐに体勢を立て直して走って来た。
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