Walk.15
な、なな、なんで、何でサー・ナイトアイと、消太くんとお茶してるんだろう、私。
「呼び出してすみません。イレイザー、久地楽さん」
「いえ」
端的に答える消太くんは少しも緊張していないようだ。
ま、まあ、緊張するタイプじゃないよね。
卵の中に緊張を逃して紅茶を一口飲んで喉を潤した。
「あの、なんで……」
「なぜ久地楽を?」
シャチョーの紹介でナイトアイと会うことになって、外出許可証をとりに行った時、消太くんからストップがかかった。
管理課の件もあって私の外出許可についてはみんなより少し厳しいらしい。
プロヒーローのナイトアイとはいえ、私の事情を知らないため、今回は消太くんが同席することになった。
「三崎さん……すみません、旧姓ですが。私にはこちらの方が馴染み深いので、そう呼ばせてください」
旧姓?
何の話を……。
ナイトアイが私を見た。
「三崎咲美さん。君のお母さんと知り合いだった」
息を呑んだ。
どうして、お母さんは、普通の、ごくごく普通の一般人だ。
ヒーローと接点なんて。
「同じゼミをとっていた。個性が、似ていたから話す機会も多かったよ。三崎さんが亡くなったと知ったのは、君を体育祭で見た後だ。あまりにも似ていた……三崎さんを思い出して、連絡を取ろうとして、知った」
ナイトアイは息を吐いた。
どうしてが止まらない。
同じゼミをとっていただけで、そんなにもお母さんを思ってくれるだろうか。
「私の個性は予知だ」
「あ、えっ、お母さんと同じ……?」
ナイトアイは首を振った。
「三崎さんは自身の予知だ。私は、触れた人の予知ができる」
「そ、うなんですか……」
「話が見えません。なぜ久地楽を呼び出したんです?」
「すまない……聞きたいことが、あるんだ」
ナイトアイは言葉を切って意を決したように口を開いた。
「未来は、予知は、変わったのか?」
「えっ!?あ、あの、私、ほとんどお母さんと個性の話したことなくて……」
「変わりましたよ。良くも悪くも」
テンパる私と裏腹に、消太くんは落ち着いた様子でコーヒーを飲んだ。
私もナイトアイも、消太くんが答えるとは思わなくて驚きのまま振り返った。
「えっ!?なんでしょ、おに、相澤先生が!?」
「私が学生の頃、この子のお母さんと話したことがあります。この子の死をお母さんは予知していました。けれどこの通り死んでいません」
息を呑んだ。
あの、海の件だ。
お母さんの予知の中で、私は一人沈んで死んだのだろう。
じわ、と涙が滲んだ。
私、お母さんに、私の死を見せてしまっていたの。
「三崎さんは、自分の予知だけだと……」
「この子を産んで、変わったと仰っていました」
消太くんはゆっくりと瞬きをして私を見た。
「言いたくなかった。だが、いつかは言うべきだと思っていたよ」
消太くんと視線を合わせれば、申し訳なさそうに頭を撫でられた。
ナイトアイは一つ謝ってから、消太くんを見て口を開いた。
「それが、まだ起きていない未来と言う可能性はないのですか」
「私が直接聞いたわけではないですが、お母さんの予知では、久地楽はヒーロー科に在籍していませんでした」
「そう、ですか……」
何もかも、初耳のことが多すぎる。
震える手を、消太くんが握ってくれた。
ナイトアイは額に手を当て、深く息を吐いた。
「三崎さんは、予知が外れたことはないと言っていました。私の予知も、外れていない。どうして予知が外れたのか……ご存知ですか」
「さあ」
「そうですか……」
ひどく辛そうに肩を落としたナイトアイは、きっと何か、変えたい未来を見てしまったのだろう。
ナイトアイに渦巻く暗い、黒い心に、私は、思わず立ち上がった。
「あ、あの!私、ちょっとだけ、一瞬だけ予知ができるんです!体育祭、見てくれたっておっしゃってましたよね、あの時、爆豪と戦ったあの時、私、予知をしながら戦ってたんです!」
「君も、予知を……?」
「コントロールは出来なくて……でも、私の予知も、未来が変わりました。それが、お母さんより、ナイトアイより、ずっと弱いからかもしれないですけど……」
椅子に座り直してナイトアイを伺う。
咄嗟に言ってしまった。
ナイトアイとも、お母さんとも質の違う予知かもしれないのに。
あまりに悲しそうな顔をするから。
「……ありがとう。君の言う通り、私たちの個性の形は違う。けれど、変わる可能性があるのだと知れて良かった」
ナイトアイは私に手を差し出した。
大きな手。
掬い上げる指の隙間から、落ちてゆくものを悲しむのだろう。
私よりずっと大きな、多くのものを救えてしまうから。
白い心を添えて握手を返した。
たくさんのものを背負う人。
そんな印象だ。
「イレイザー、久地楽さん、話してくれてありがとう」
「いえ」
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