Step.15



いやなんでだよ!!?
筆記が終わり、三奈ちゃんや切島たちと講堂で合流した直後、現れた人間に私は思わず叫びそうになった。

「今日は俺のライヴにようこそ!!エヴィバディセイヘイ!!」

やっぱりひざしくんだ!!紛れもなくひざしくんだ!
なんでだ?プロヒーローだから外部講師ってことか?
それとも単純にMCとして呼ばれた?
雄英って豪華だ……。
そこそこに気が遠くなりながら、講堂を出た。
ひざしくんだいぶ滑り倒してたな。
ひざしくんがくれたヘッドホンに触れながら、先程の言葉を思い出す。

『PULS ULTRA』

更に向こうへ、か。
よし、頑張ろう。
切島や三奈ちゃんとは別の演習場になってしまったが、私は一人じゃない。
黒も白もやる気満々だ。

「あ、コトハちゃん!」
「おー、お茶子ちゃん。さっきぶりだね」
「うん!ドキドキするねー」

胸に手を当ててふぅ、と息をついているお茶子ちゃんの背を撫でて、その際に少しだけ緊張の心を取り覗いてあげた。

「リラックスだよ。自分の精一杯をやれば、きっと大丈夫」
「うん!なんかやれるような気がしてきた!ありがとう、コトハちゃん!」
『はいスタートー!』

ひざしくんの声に、私はハッと顔を上げた。

「お茶子ちゃん始まったよ!」

一応知り合った好として声をかけ、走りながら個性で出した白いライオンに飛び乗った。
何で誰も動かないんだ!
真っ先に走りだした私の目の前に早速1Pの仮想敵が現れた。

「黒!」
『了解!』

ロボの攻撃をライオンが飛び退くことでかわし、黒い蛇が反撃に関節を喰らいに行った。
速いが脆い!
後続がすぐに追いついてくるのを見て、私は奥へと走った。
1Pはすぐに殲滅できるが、2Pはそう上手くいかない。
3Pととなると、それなりに時間がかかる。
卵を使うか。
でも混戦になっていて、卵を使うほど広く場所をとれない。
残り6分現在で38ポイント。
先程、足にエンジンがついた男の子が45と言っていたのが聞こえたから、少しスピードを上げなければ首席にはなれない。
それに、なんだが嫌な音がする。

「お姉ちゃん後ろ!!」

小さい私と全く同じ声に振り向くと、直後、超大型の仮想敵が出現した。
なんだアレ!?
私は専攻が過ぎたのかあの巨大ロボのちょうど真後ろにいたため直接の被害は負っていないが、出現とともに振り下ろされた巨大なアームによる被害に見舞われたあちら側は無事ではいられないのではないだろうか。
そう思ったとき、巨大ロボを背に走り出そうとした足が止まった。

『ヒーローは、誰にでも平等に訪れるわけではない』

自分で言った言葉じゃないか。
私はそれに傷つき、ヒーローになろうとした。
なら今私がすべきことは、首席を取ることじゃない。
残り2分。
32Pを手にした私は、首席を諦め飛び上がった。
足元のライオンを鷲に変え、一気にロボを越す高さへと羽ばたく。
受験生たちが一斉に逃げていくのが目に入る。
なんだ、大丈夫そうだ。

「いったぁ……」

声が聞こえた。
巨大ロボのすぐ側、瓦礫に足を挟まれた友人がそこにいた。

「お茶子ちゃん!!」

そして再び、巨大ロボは右のアームを振り下ろそうとする。
ヤバいヤバい!!
鷲の背に捕まり、お茶子ちゃんへ急降下する。
その瞬間、もさもさ頭の男の子とすれ違った。
えっ、つまり、上に……?
お茶子ちゃんのすぐ横に降り立ち、ワシからライオンへと姿を戻してお茶子ちゃんの瓦礫をどかしつつ、彼女の視線を辿って上を見た。
ちょうど巨大ロボの真正面にまで飛び上がった彼は大きく腕を振りかぶって叫んだ。

「SMAASH!!」

どこかで聞いたことのある、そう、誰もが知っているヒーローの必殺技を叫んだ彼は、圧倒的なパワーを持って巨大ロボのその頭部を殴り飛ばした。
凄まじい威力だったのか、頭部だけが激しく吹き飛び、こちらに、傾いで――。
傾いで!!?

「まずい!!ロボはなんとかなるけど、あの人……!」
「なんとかなる!?ロボなんとかなる!?」

私の服の裾を掴み、必死に問いかけて来るお茶子ちゃんに一瞬狼狽えたがすぐに頷いた。
強い瞳。
きっと何か策があるんだ。

「なるよ!」
「じゃあ、あの人は私が助ける!!」
「分かった、任せるよ!」

私は卵を取り出して、宙に打ち付けて割った。
途端、白い靄が溢れ出す。
こちらに落ちて来る男の子はお茶子ちゃんに任せ、私は巨大ロボを睨んだ。

「白鯨<MobyDick>」

大量の靄は即座に収束すると白い鯨に姿を変えた。
その大きさは巨大ロボと同等か、それ以上。
鯨が大きく回転すると、危うく家の大きさ程もありそうな尾がその場にいた誰の想像をも超えた衝撃と風圧をもたらした。
こちらに傾いでいた命令系統を失っているロボは為す術もなく後ろへと倒れる。
鯨は瓦礫も返る胴体で跳ね飛ばした。

「お茶子ちゃん!!」
「だい、っじょーぶ!!」

振り返ると、その辺に転がっていた仮想敵の破損した装甲の上に体ごと凭れたお茶子ちゃんが、腕を伸ばして男の子の頬をぶっ叩いたところだった。
容赦ない!!――と思ったが、叩かれた男の子がふわりと浮いたのを見てそういうことかと、腕を伸ばす。

「白!クッションシープ!!」
「コトハちゃぁぁん、うけ、とって……!!」
「いいよ!!」
「かい、じょ!!」

すんでのところで浮いた男の子の下に羊を出現させ、落下の衝撃を緩和させる。
羊は少し迷惑そうな顔をした。
ごめんね!
男の子のほうも、腕や足は見るも無残な感じでそこそこ父が死んだときのトラウマを刺激するような光景だったが、意識はあり、まだ心が折れていない様子だったので、ほっと胸をなでおろして目を反らした。

「OK!ナイスお茶子ちゃん!」
「よかっ……うぇええええ……」
「吐いた!?」

一体どうすればいいのかと慌てているうちに、聞きなれたひざしくんの声が試験終了を告げた。
ああ、そうだ、試験中だった。
あまりの非常事態にうっかり試験を忘れていた。
みんなの平均点数は一体どれくらいなのだろう。
40点台がいると分かっているため、主席はあきらめたが、合格ラインが心配だ。

「だ、大丈夫?」
「うぷ……大丈夫、私あんまり個性使うと酔っちゃうんだよね、へへ……」

水を操る個性なら口をゆすぐぐらいできたかも知れないが、生憎私が干渉できるのは心だけだったのでどうすべきかとうろたえた。

「おーい、久地楽コトハ!」
「はい!」

反射的に振り返れば、ひざしくんが苦笑気味に頭上を指した。
何だろうと思って上を向けば、バカデカい鯨がォオオオンと暇そうに声を上げて、私を見降ろしていた。

「おおお……ありがとうね」

私が手を振れば鯨は無数の星が弾けるようにして勇気の欠片を散らしながら消えた。
さすがに濃縮しただけあって、顕現しただけでは使いきれなかった私の心が、鯨から飛び散ったのだろう。
改良の余地ありだなぁ。
せっかく濃縮したって言うのに、ただ大きいものを作ってしまった。
手を握って顔を上げれば、その先でひざしくんと目があう。
いつもの笑顔のまま、ひざしくんはぐっと親指を立てて感情をその指に乗せた。
眩しくて、暖かい光がひざしくんから発せられている。
合格か不合格かはまだ分からないけれど、少なくともひざしくんのお眼鏡には適ったらしいと、私も笑った。



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