Walk.20



「緑谷やばい?」
「やばいな」
「そーだよねー……」

明らかに授業に身が入ってないし、今日なんてUSJで溺れてた。
ううん……。
ナイトアイ事務所にはしばらく呼ばれていなかったから落ち着くかと思ったが、日に日に悪くなっていっている。

「日報は読んだが、子供を保護できなかったって?」
「んー……そうみたい。私そこにいなかったからあんまり分からないんだけど……」

消太くんの部屋で端末をいじりながらゴロリと転がった。
でも、私もその場にいたら、気が気じゃなかったかもしれない。
こと虐待においては私の琴線に触れる。
その子を見て、心に触れてしまっていたなら、私は先輩に止められようと踏み止まれなかっただろう。

「仕方ないよね、ヒーローは誰にでも現れるわけじゃないから」

消太くんが端末から顔を上げて私を見た。
床に寝転んだまま、私も端末を下ろしてぼんやりと消太くんを見上げれば、ずりずりと上半身を引き摺られて膝の上に乗せられた。
膝枕だ。
硬いけどあったかい。

「でも、その子は、ヒーローに縋ったのに……ダメだったんだね」
「コトハ」

一瞬、消太くんの目が光った気がしたけど、気のせいだろうか。
個性を使えば髪が上がるけど、結んでいるから分からなかった。
見下ろしてくる目は黒い。

「コトハ、俺を見ろ」
「ん?」
「俺のこと好きか?」
「は!?は、はあ?な、にを、急に!?」
「ん、やっぱいい」
「えっ!?好きだよ!?大好きだよ!?」
「うん」

消太くんは満足したのか私の額にキスをして端末を眺める作業に戻った。
何だったんだ……。
通り魔のようなきゅんきゅん行為に胸を落ち着かせながら消太くんのお腹の方に寝返りを打った。
うーん、消太くんの匂い。

「おい嗅ぐな」
「バレた」


******


黒かった。
コトハの頬が黒く染まっていた。
抹消すれば、溶けるように消えたが、ここ最近コトハの体が染まることが増えていた。
嬉しい時には白く、悲しい時には黒く。
今まで感情を制御していた黒と白がいなくなったために、多すぎる感情が表皮に現れているのだろうが、自身すら傷つけるあの黒い染み付きだけは穏やかに見てられなかった。
バレないように頬を撫で、そこに黒がないことを確認する。

「コトハ」

コトハは寝てしまったのか俺の膝の上で小さく身じろぎしただけで返事は返さない。
今しかない。
俺は覚悟を決めて、コトハの左腕を取った。
長袖しか着なくなったコトハの、左を隠す袖を捲る。

「何も、ないか……」

安堵に胸を撫で下ろした。
痛々しい傷跡はあるが、俺が懸念したように黒く染まってはいない。
不自然な盛り上がりに、小さくはないゴーグルの破片を感じてため息をつく。
袖を直して、コトハを部屋に連れて行くために抱き上げた。

「ん……わたし、が、まもるからね……」
「頼むから、俺に守らせてくれよ」

寝ぼけた様子で俺にしっかりと掴まるコトハに呟いた。



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