Walk.22
今日は八斎会の件で話があるとかで消太くんとナイトアイ事務所に呼び出された。
国本さんも呼ばれているらしく、どこから聞きつけたのか迎えにきてくれるというので、消太くんと外部来客用のゲート前で待っていた。
あまりこの辺来たことないなと周囲を見回していると、心操くんがランニングしているのが見えた。
「心操くんおはよー!」
「久地楽さん、と、相澤先生。おはよ、ございます」
「おはよう」
汗だくの心操くんは息を整えながら歩いてきた。
もしかして敷地内周を走ってたのだろうか。
一般的な高校とは一線を画す雄英の内周を?
一体何キロあるんだと心操くんをまじまじと見た。
「朝ラン?」
「そう。久地楽さんは、インターン、だっけ」
「うん、でも今日はお話会みたいな感じだと思う」
ちらと消太くんを見ると、心操くんもそちらを見てふうん呟いた。
聞いた割に興味なさそうね。
「そういえば、麗日さんたちニュースに載ってたね」
「あっ!見た!?そうなの!凄いよね!」
「久地楽さんも凄いと思うけど。載らないの?」
「の、い、いや、私まだインターン行ってないし!」
「そか。じゃあ頑張って」
「心操くんいつにも増してすっごい淡白じゃない?ありがとうだけども」
無表情のまま言う心操くんは表情筋が死んでるのだろうか。
普通頑張れってもっとにっこり笑って言うのではないかと首を傾げる。
なんかこういうとこ消太くんに似てるよなぁ。
というか、日に日に似てきているような。
「迎え来てるよ」
心操くんが指した後ろを振り返ると、いつの間にか到着していた国本さんと消太くんが和やかに話していた。
「お、あ、じゃあ!またね!」
「うん、またね」
反射的に手を振ると、少し意外だったけれど手を振りかえしてくれた。
国本さんにすみませんお待たせしました!と謝って消太くんが開けてくれた後部座席に乗り込む。
消太くんも心操くんに手を振って私の隣に乗り込んだ。
私の時と違いペコリと小さく頭を下げた心操くんは、もう一度私に手を振ってランニングに戻っていった。
「心操くんって野良猫っぽいよね。だから構ってるの?」
「先生のことをそんなふうに見てるなら内申下げるぞ」
「冗談じゃん」
ふふ、と運転席で国本さんが笑った。
車内ミラー越しに目が合う。
少しやつれているような気がするけど、見覚えのある優しい営業スマイルは健在だった。
国本さんは公安に移ったと聞いて以来、音沙汰がなかったので久しぶりに生存確認ができて嬉しい。
にっこり笑った国本さんに私も笑顔を返す。
「お久しぶりです、コトハさん」
「お久しぶりです。クマやばいですよ」
「はは、新しい職場に馴染むために必死でして。コトハさんはお元気そうで何よりです」
「……あの、神野のとき、忠告聞かないで、心奪ってすみませんでした」
国本さんは虚をつかれたように小さく反応すると、ハンドルを握って前を向いたまま首を振った。
「お気になさらず。結果としてあの場では君によって多くのヒーローが救われましたから」
「でも、私、国本さんの……」
優しさを、信頼を。
口から出る前に、国本さんが再び首を振った。
「子供の癇癪くらい、大人は嗜めて、許すのが務めです」
痛いほどに、優しい心。
消太くんが握ってくれた手にぬくもりを感じながら私は微笑んだ。
赤信号で緩やかにブレーキを踏んだ国本さんは、それより、と話を変えた。
「仮免試験、合格おめでとうございます」
「何で知ってるの!?」
「目良さんから聞きました」
「個人情報……」
「すみません」
「いや、ありがとうございます……」
少しも悪びれていない国本さんに、もし落ちてたら顔向けできなかったなと内心で小さく胸を撫で下ろす。
なるほど、そういえばあの仮免試験も公安がどうのって話だったな。
ということはつまり、公安関連の何かしらがある時は基本国本さんには筒抜けな訳だ。
……気をつけよ。
「国本さん、今日の呼び出し、公安も関わるんですか」
「はい。私は戦闘員ではないので前線には立ちませんがね」
消太くんは少し考えるように相槌を返した。
「戦闘?」
「……まあ、今日の会議を聞けばわかる」
なんだろう。
少し嫌な雰囲気が、地を這うように忍び寄ってくる気がした。
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