Walk.23
「ひ、ヒーローがいっぱいいる!」
「コトハさんはヒーローがお好きなんですね」
国本さんが微笑ましげに私を見てきたので少し居心地悪く身じろぎした。
けれどテレビでよく見るヒーローたちの姿に胸が高鳴った。
「あ、ファットガムだ!」
国本さんの吹き出す音に駆け寄ろうとした足が止まる。
う、うう、元はと言えば管理課に呼び出された時に見せられた録画が悪いんだぞ、と国本さんをジト目で睨んだ。
「久地楽、ナイトアイと少し話してくる。その辺にいろ。すみません国本さん、お願いできますか?」
「はい、お任せください」
消太くんは小さく頷いてナイトアイの方へと行ってしまった。
にしても、私そんな面倒見られるほど子供じゃないんだけど。
国本さんを仰ぎみれば営業スマイルのまま申し訳なさそうに眉尻を下げた。
なんて器用なことを。
「すみません、お一人で歩かせるわけにはいかないんです」
「あ、あーそういうこと。了解です」
いまだ尾を引くようにゆらりゆらりと見える管理課の影に苦笑する。
別にいいのだけれど、国本さんや、まして消太くんがそれを気にしてしまうのが少し嫌だった。
解体後、時間が経っていないから急に待遇が変わるだなんて思っていないし、その内緩和されるだろうと当事者である私は割と楽観視しているのだから、あまり気にしないでほしい。
「ファットガムに挨拶しにいきましょうか」
「い、いやぁ……」
「僕も挨拶があるんです」
「う、じゃ、じゃあ……」
******
ぞくりと、悍ましい気配が背骨を通っていった。
「血……?」
通形先輩と緑谷が遭遇した女の子の、血を使って……?
ぽん、と消太くんが私の背を叩いた。
ピリピリと肌を刺されるような感覚が、すっと抜ける。
紛糾する会議の雰囲気がまだ痛いけれど、消太くんが触れたところがじんわりと私を守るように温もりを広げた。
「あのー、一ついいですか、サー・ナイトアイ。未来を予知できるなら、俺たちの行く末を見ればいいじゃないですか。このままでは少々……合理性に欠ける」
「それは……出来ない」
ナイトアイは私に余地が変わるかと聞いた時と同じ表情で僅かに俯いた。
しかしナイトアイは自身の予知性能について語った。
自分か他者かという点を除けば、お母さんの個性とほぼ同一だ。
生涯を見てしまう。
口を開こうとした消太くんの手を、引き留めるようにぎゅ、と握った。
これ以上、ナイトアイを追い詰めないでほしい。
私たちが慮れるほど浅い後悔の色ではない。
「出来ないってどういうことだよ?ちょっとでも見りゃいいだろうが」
ロックロック!
消太くんが言いかけてやめた言葉を、ロックロックが拾ってしまった。
「例えば、その人物に近い将来、死……ただ無慈悲な死が待っていたらどうします」
「死だって情報だろう!?そうならねェための策を講じられるぜ!?」
「占いとは違う。回避できる確証はない!」
「ナイトアイ!よく分かんねえな!いいぜ、俺を見てみろ!いくらでも回避してやるよ!」
「ダメだ」
ナイトアイは今度こそ深く俯いてしまった。
予知は、見た者しか分からない。
見た者にしかその重みも、苦痛も、悲しみも分からない。
誰かの死を見てしまったナイトアイに、私の死を見た母を重ねて、心が軋んだ。
消太くんを引き止めるために握った手が、逆に私を引き止めるために優しく握られた。
わかっている。
過去は過去。
起きたことも起きなかったことも、全て過去だ。
「……とりあえずやりましょう。『困っている子がいる』これが最も重要よ」
沈黙を破るリューキュウの言葉に、ナイトアイが立ち上がり、その顔から悲しみを隠した。
「娘の居場所の特定・保護。可能な限り確度を高め、早期解決を目指します。ご協力、よろしくお願いします」
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