Walk.25
「緑谷」
「久地楽さん」
「元気ないかなって思ってたけど、なんか大丈夫そうだね」
「あ、うん!ごめんね、心配かけて」
教室で声をかけた緑谷は、今朝見た時よりずっと元気そうだった。
昼くらいまでは変わってなかったと思ったんだけど。
まあ、元気になったならいいか。
教室に誰もいなくなったのを見て、どうせなら今がいいかと緑谷を見た。
「なんか、聞きたいことある?」
「えっ!?」
緑谷はなんだろうと考え込んだ。
あれ、色々聞きたいことあるかと思って声をかけたんだけど、藪蛇だったか?
「あ、あの……結構前なんだけど、白い小さい久地楽さんが、オールマイトに悪いことしてるのかって、聞いてたよね?あれって、結局どういう意味だったのかなって……」
「えっ、そっち?」
「え?あ、あ!あの、相澤先生のことは、僕、その、知ってて……知ってたっていうか、思い出したっていうか……ヒーローたちが、手も足も出なかった黒い家の事件……あれって、久地楽さんのこと、だよね」
息を呑んだ。
あまりにも、自分が想像していた角度と違うところから、深い部分を突かれた。
緑谷は私の様子に慌てて「誰にも言ってないし多分みんな知らないと思う!」と大袈裟すぎるほどに首を振った。
事件自体、当時の管理課によって緘口令が敷かれているはずで、ネットにも少し出たくらいだったからすぐにもみ消されたのだが、もしかしたらそれが逆に幾人かの印象に残してしまったのかもしれない。
「うん。私がその時の未成年ヴィランだよ」
「ヴィランなんかじゃないよ」
緑谷ははっきりと言い切った。
迷いのないまっすぐな瞳に気圧されて、思わず視線を逸らした。
「久地楽さんはそんな人じゃない。詳細は知らないけど、やむおえない事情で、個性が暴走したんだって思ってるよ」
「緑谷……」
眩しいほどの、強くて優しい心に思わず顔を上げた。
まるで、オールマイトのような強い瞳に、既視感を覚えた。
過去の過ちに寄り添ってくれる心を手渡されて、涙が溢れそうになる。
緑谷に涙を見られるのは違う気がして、咄嗟に後ろを向いた。
「ごっ、ごめん!!」
「違う、めちゃくちゃ嬉しいだけ。ちょっと待って」
握られた手が離れていきそうになるのを捕まえて、渡された心をゆっくりと消化していく。
多分、2分くらいかかった。
その間緑谷は赤面して訳のわからないことを早口で喋り続けていた。
あまりにも女子耐性のない様子に吹き出して手を離した。
「あー、えと、白の言ってたこと、ね」
「あ、あ、う、うん……」
「あの、本当に悪気はなかったんだけど、緑谷に心を渡そうとして、インナースペースに入ろうとしたの。その時、緑谷の中にたくさんの人が見えた」
緑谷は思い当たる節があるのか、ハッと顔を上げた。
ならいいんだ。
緑谷に害のあるものかと思ったから、私も白も心配になっただけで。
私は緑谷の中に見たひょろりとした、神野以降のオールマイトを、記憶に呼び起こす。
「その中に、オールマイトもいた」
「そ、っか、だから、白い久地楽さんは僕のことを心配してくれたんだ」
「うん、ごめん、勝手に入って」
「ううん、こっちこそ心配かけてごめん。ありがとう」
「あの人たちのこと、聞いていい?」
緑谷は逡巡して、首を振った。
「……ごめん」
「分かった。実害なくて、緑谷が自覚してるならいい。そんなに興味もないんだ。」
「そ、そっか」
もっと根掘り葉掘り聞かれるとでも思っていたのか、拍子抜けした顔で緑谷は肩の力を抜いた。
「心は渡してあげられないけど、もし助けが必要だったら言ってよ」
「ありがとう……久地楽さんも、助けが必要だったら、力になるから」
「ん、ふふ、頑張ってね問題児」
「め、面目ない……」
入試首席に何を言っているのだと緑谷はモサモサの髪をモサモサかき混ぜて赤面した。
うん、お茶子ちゃんが惚れちゃうのも分からんでもない。
私は消太くん一筋だから揺らがないけど、心が、まるでオールマイトのように強く輝いているから、きっと多くの人を惹きつけるんだ。
「緑谷は、きっといいヒーローになるよ」
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