Walk.26
死穢八斎會、本拠地。
ついにこの日が来た。
いつの間にか着慣れたヒーロースーツを身に纏い、左腕を握りしめた。
エリちゃんを、助ける。
一度縋って、放してしまった手を、今度は私たちが取るのだ。
「久地楽さん、相澤さん、少しいいでしょうか」
「国本さん?」
消太くんと呼ばれるということは十中八九管理課、もとい公安絡みの私の件だろう。
バツ、と何かが途切れるような音がして周囲の音が消えた。
国本さんの個性だ。
「内々のお話ですが、連合の影がある以上、公安としてはコトハさんの同行をあまり良く思っていません。出来うる限り、相澤さんと行動してください」
国本さんは口元を動かさずに言った。
前にも一回見たけど腹話術って気持ち悪いな。
はあい、と返事をしようと口を開くと、私より早く消太くんが首を振った。
「国本さん、お言葉ですが、こいつは仮免を取ったばかりとは言え、ヒーローの卵です。子供じゃない。守られるために、世話を焼かれるためにここにいるわけじゃない」
背を叩かれるような言葉に、ハッと息を呑む。
いつまでも、甘んじて受け入れてはダメだ。
結果的にそうなろうと、自分からその状況を享受してはいけない。
国本さんは営業スマイルのまま、頷き、そして私に視線を動かした。
問われている。
私は頷きを返して、ヒーローとして国本さんを見つめ返した。
「はい、自分のすべきことは、分かっています」
「公安として、ではなく、僕は君を信頼しています。コトハさんが中学からの担当ですから、君がどれだけ成長したかを、僕は知っている」
国本さんは腹話術をやめて、口を開いた。
「お気をつけて」
「は、はい!」
******
「う、わ」
いきなりか。
国本さんとはまた違う警察の人がチャイムを鳴らそうとした瞬間、門がぶち破られた。
衝撃で宙へ浮いた警察官たちは、消太くんと緑谷が助けた。
ぶち破った当人もリューキュウが地面へと押さえつける。
「よう分からん!もう入って行け行け!!」
ファットガムの声に、ヒーローと警察が一斉になだれ込んだ。
両手に灰色を纏い、距離を詰めて下っ端構成員の心を奪う。
しばらくは動けないだろう。
何人かを転がし、道を開ける。
「さ、流石やなハーティ!ナイトアイが見込んだだけあるわ!」
「ありがとうございます!ここは後衛に任せて行きましょう!」
「おう!火急の用や!土足で失礼するで!!」
外観とは打って変わって、純日本家屋に乗り込み、時折現れる刺客をいなしてナイトアイの先導のもと秘密通路へと入った。
なんだここ。
なんだか嫌な心の気配が満ちている。
治崎が作ったと思われる壁を、切島と緑谷が壊したとき、嫌な気配が迫ってきた。
「皆さん!待ってください!!」
「久地楽、じゃねぇ、ハーティどうした!?」
「何か来る!!」
切島の言葉に答えた瞬間、道がうねるように動いた。
なんだこの個性!
治崎はこんなことも出来るの!?
「治崎じゃねぇ……逸脱してる!考えられるとしたら、入中!物に入り自由自在に操れる個性『擬態』!地下を形成するコンクリに入り込んで、生き迷宮となってるんだ……!!」
そんなの、アリなのか。
このまま通路を変えられ続けていたら、治崎のところへなんて、一生辿り着けない。
「イレイザー消せへんのか!?」
「本体が見えないとどうにも……!」
これが体とつながっているなら、と心を奪えるか試してみたが、ただ無機質な感触だけが返ってくる。
私じゃダメだ。
でも、早く行かないと。
「どれだけ道を歪めようとも、目的の方向さえわかっていれば、俺はいける!」
通形先輩がうねる壁へと沈んだ。
す、ごい。
さすが雄英のトップだ。
個性だけじゃなく、判断も、行動も早い。
「ハーティ!羊!!」
消太くんの声に考えるより早く個性が反応し、ずるりと開いた地面に羊を敷いた。
ヒーローたちは自分で着地できたようだが、主に警官たちのクッションとして機能した。
「た、助かりました」
「いえ。イレイザー、奥に、何人かいます」
心の数を数えて、未だに体勢を立て直せない警官たちを庇い立つ。
入中の気配はない。
こいつらを突破できれば先に進める。
「よっぽど全面戦争したいらしいな!流石にそろそろプロの力見せつけ……」
ファットガムが先頭に立とうとした時、天喰先輩が制した。
あまり接触はなかったけど、いつも心にモヤをまとっている人だと思っていた。
けれど、今は違う。
決意と覚悟、そして、揺るぎない自信の色。
ああ、この人は強い。
「そのプロの力は目的のために!こんな時間稼ぎ要員……俺一人で十分だ」
正直、最初見た時は雄英のトップ3という肩書きに疑問を覚えたが、ガラリと変わった心の色は、確かに強者のそれだった。
「ファットガム!俺なら一人で三人完封できる!」
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