Walk.28



「上!デク!」
「うん!」

緑谷が天井付近を砕き、入中を引き摺り出した。
また壁の中に入られる前に、消太くんが個性を抹消する。
ようやく、うねる壁が動きを止めた。
壁が動かなくなったことで再びナイトアイたちと合流できた。
よかった、みんな無事のようだ。
負傷したロックロックは警官に任せ、私たちは再び走り出した。
と、思ったのに、かくりと膝から力が抜け、私はその場に崩れ落ちた。

「えっ」
「ハーティ!?」

走り出した緑谷が真っ先に戻ってきた。
だめだ、エリちゃんを助けにいかなきゃ。

「い、行って!なんか、たぶん、心が、足りないだけだから……!」
「蛇のせいか?」

消太くんまで戻ってきてしまった。
私は大丈夫だから、とあまり力の入らない腕で消太くんを押した。

「行って、心を整えて、すぐ追いつくから」
「……ロックロックと上に戻れ」

消太くんは警官たちに私を預けると、私の返事も聞かないまま走っていった。
いや、行くよ、消太くん。
息を整えて、黒い卵を割る。
ぶわりと、受け取りきれない黒い心が私の周りに漏れ出した。

「おい!大丈夫なのかよ!」
「大丈夫です」

ロックロックに応え、欠けた心を補充する。
あの黒い蛇を動かしたせいだろうか。
私が感じている以上に心を奪っていった。
比較的吸収しやすくしておいた黒い心を使って立ち上がる。
大丈夫、急激に心が持っていかれて膝にきただけだ。
布を巻くように黒い心を身に纏って、心で体を動かした。

「待て、お前は上に戻れと言われただろ」
「私は動けます。イレイザーは私が戦闘不能になったと判断して上へ戻れと言いました。私はまだ戦えます」

白い心をロックロックに押し渡して、引き留めるように掴まれた手を振り払った。

「ロックロックをお願いします」

警官たちに引き止められる前に、消太くんたちの背を追った。
破壊音の響く方へと走っていけば、地面がぐちゃぐちゃになった広間へと出た。
何だここ。
歪な壁に囲まれた部屋。
見回して中央付近に見つけた消太くんが、刺され、た。
刺されてない!掠っただけだ!!
一瞬、身に纏った黒い心に呑まれそうになったが、たたらを踏んで堪えた。
このバカ!こんなところで揺らぐな!!
消太くんは大丈夫!
ツバメをとばして消太くんを包み込んだ。
これでいい!
気配もわかる、生きているかもわかる。
まだあの蛇は使わなくていい。
ぐっともう一度心を整えて広間を見た。
中央に、治崎とナイトアイがいる。
加勢、できるだろうか。
通形先輩とエリちゃんを抱えた緑谷が、私の横に飛び込んできた。

「っ、ハーティ!?イレイザーが戻れって……」
「戦えるから来た。先輩、止血だけします」
「エリちゃんは……俺が……二人とも、サーの、援護を……!」

白い心で通形先輩の傷口を覆って、外傷はなさそうだったが念のためエリちゃんも心で包んでおく。
動かしたりはできないけれど、守るために包んでおくだけならしばらく持つ。

「行こう、デク!」
「うん!」


******


僕とナイトアイを優しい心で包んだ久地楽さんは、じわりと肌を黒く染めた。
けれど、トガの時のように理性を失ってはいない。
いつもより精彩は欠いているけれど、それでも久地楽さんは強かった。
僕とナイトアイを心で守りながら、器用に棘をかわして治崎へと拳を振るう。
しかし、だめだ。
灰色の手で触れれば、触れさえすれば、こちらの勝ちなのに。
ぐっ、と歯噛みした瞬間、心を貫いて棘がナイトアイの脇腹を抉った。

「ナイトアイ!!」

久地楽さんが驚愕とショックの叫びをあげて、傾ぐナイトアイの体を受け止めようと腕を伸ばした。
だめだ、治崎から目を離したら……!

「ハーティ!防御だ!!」

凄まじい勢いの棘が、久地楽さんに迫る。
僕の声が届いたのか、黒い膜が久地楽さんを包んだ。
勢いを殺しきれずに弾かれたが、再び黒い膜の中から姿を見せた久地楽さんは無傷だった。
よかった!
久地楽さんは体勢を立て直すと即座にナイトアイを抱えて通路の方へと退避した。
心が破られるなんて、思わなかった。
いくら強いとはいえ、コンクリートの棘だ。
普段の久地楽さんなら破られなかった。

「ごめん、今の私じゃ守りきれない」

戻ってきた久地楽さんは僕でも通路のナイトアイでもなく、どこか違う方を見て、悔しそうに僕の横へと並び立った。

「イレイザーの守りを、私は崩せない」

そういうことか。
相澤先生をあの鉄壁の心で守るために力を割いているんだ。
僕は大丈夫、と頷いた。
大丈夫、十分すぎるほど、守ってくれている。
久地楽さんが残してくれた心は、いつもの鉄壁よりずっと薄く、治崎の攻撃を防ぎ切ることは出来ないようだったが、少なくとも急所を避け、出血は止められている。
僕たちを守るために残してくれた、優しい心だ。

「接近必至の個性だな。バレバレだ」

治崎は久地楽さんを見て、棘を差し向けた。
防御はできるが、攻撃は届かない。

「ハーティ!アシェンプテルは!?」
「無理、心が足りない!」

棘を避けて、久地楽さんは灰色の手を再び治崎に伸ばした。
だが、今度は先ほどよりずっと容易に避けられてしまう。
やるしかない。
僕たちに、できることを!
どれくらいもつか分からないが、出力を上げた。
ワン・フォー・オール……フルカウル……20%……!!

「諦めろ、俺の言った通りになるだけだ。全員死ぬ」

「そんなことにはさせない!そう決まっていたとしても……その未来を捻じ曲げる!!」



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