Walk.29



エリちゃんに向かう無数の棘を見て、心臓が嫌に早くどくりと脈打った。

「だめ……!!」

手を伸ばし、庇おうとするが、間に合わない。
だめ、だ。
絶対にだめだ。
ヒーローを求めて泣いた子を、私は絶対に守り抜くんだ。
白い心は脆い。
守るなら、黒で。
ざくりと、肉を裂く音が、痛みと共に走った。

「あ、あっ、お、おねえさ、……!」

私が纏っていた黒い心は、エリちゃんをしっかりと守った。
強い痛みに、意識が飛びそうだった。
心は強く。
そして、優しく。
体は思うように動かず倒れてしまったが、みんなを守る心だけは解かなかった。

「エリ、ちゃん……」
「このっ、病人が……!!」

治崎の手が、私に伸びた。
けれど私は心を解かず、ただ振り向いた。
だって、予知が来ないもの。
私は、死なない。

「ハーティから離れろ!!」

緑谷が来てくれた。
治崎を蹴り、私を庇い立つ。

「エリちゃんは渡さない!もう誰もお前に!傷つけさせない!!」

その時、天井からリューキュウが降ってきた。
お茶子ちゃんと梅雨ちゃんも一緒だ。

「麗日さん!久地楽さんを頼む!!」

緑谷が、エリちゃんの元へと走った。
しかし、混乱に乗じてエリちゃんを捕まえた治崎が、開いた天井の穴から逃げてしまう。

「お願い……デク……!」

心を振り絞って、緑谷の足元に白いクジラを作り、そしてその尾びれで跳ね上げた。
お願い、届いて!
エリちゃんが、瓦礫と共に巻き上げられたルミリオンの赤いマントを掴んだ。
そして、飛び上がった緑谷も、そのマントに届いた。
通形先輩が繋いだ心を、エリちゃんが、掴んでくれた。

「や、った……」

治崎の手から、ようやくエリちゃんを救いとった緑谷は、しっかりとその小さな体を抱きしめる。
待ち望んだ瞬間だ。
私の喜びに呼応して、体を染めた黒い心が波打つようにゆっくりと引いていく。

「コトハちゃん!」

お茶子ちゃんと梅雨ちゃんが駆け寄ってきてくれた。
その後ろに、脇腹を押さえながら、ナイトアイが歩いてくるのが見えた。
どうして、あなたも重症なのに。
彼はお茶子ちゃんたちを自身の後ろへと押し退ける。

「下がってくれ……」
「な、ナイトアイ!どうして……!」
「君が、死んでしまう、予知をした」

頽れるように、ナイトアイが、私を庇った。
バチ、と予知が来た。
視界がブレる、
来て欲しくなかった。
これは、私の危機。
そして、ナイトアイの危機。

「最期に君を守れるなら」

治崎の振るった、小さくはないコンクリートの破片がナイトアイの全身を襲う。

「いやっ!!」

予知なのか現実なのか、訳もわからぬままナイトアイを心で包み込んだ。



- 148 -

*前 | 次#

戻る