Walk.31
誰もいない海辺に座り、ぼんやりと星を見ていた。
夜だからか海は真っ暗で少しの透明度もなく生き物の気配がまるでしない。
ただ遠くに見える星たちが輝いているおかげで、私が座る砂浜はその地平まで見えるほどに明るい。
綺麗だ。
寄せては返す波の音に耳を傾けて、膝を抱えて目を閉じる。
なんだか、少し寒い。
「コトハ」
ふと顔を上げると、消太くんが私の隣に座っていた。
私の肩を抱き寄せて温もりを分けてくれた消太くんは星空を指した。
次の瞬間、星屑が流れた。
ああ、綺麗。
どこかで、前にも一度見たような気がする。
あの綺麗な光を一体どこで見たのだろう。
「久地楽さん」
聞き覚えのある声に、後ろを振り返れば緑谷がいた。
いや、緑谷だけじゃない。
切島も、梅雨ちゃんも、お茶子ちゃんもいる。
その後ろには、たくさんの人。
先輩たち、ヒーローたち、国本さんまで。
みんな星を見に来たのかな。
「もう帰らねぇか?」
切島が困ったように私の隣に立った。
消太くんも帰りたいのだろうかと反対隣りを見れば、消太くんは何も言わずに私の頭を撫でてくれた。
「コトハちゃん、帰ろう」
お茶子ちゃんが私の前にしゃがみ込んだ。
泣きそうな顔をしている。
帰りたいんだ。
もう一度振り返れば、先ほど見た人影よりずっと多くの人たちがいた。
みんな、帰りたいんだ。
うん、分かった、じゃあ帰ろう。
普遍的に続く波の音に名残惜しさを感じながら、それでも皆が帰りたいならと立ちあがろうとしたけれど、なんだか体が重くて上手く腰が上がらない。
立ち上がるのに四苦八苦していると、先に立ち上がった消太くんが私に手を差し出してくれた。
温かい手。
でも帰るって、どこに帰ればいいのだろう。
波音と星屑の狭間で次第に白くぼんやりしていくみんなの顔を見ていると、消太くんが海を指した。
「ハーティ」
私のヒーロー名だ。
誰だろう。
海の中に、ナイトアイが立っていた。
膝下まで海に濡らしている。
寒くないのだろうか。
冷たくないのだろうか。
そっちは、少し恐ろしい。
「ナイトアイ」
暗い海に、光が差した。
私の後ろから流れる星屑が次から次へと、海に溶けていく。
正面にいたお茶子ちゃんも、隣にいた切島も、私の背中を軽く叩くと笑って海へ走って行った。
夜が明けていく。
「帰ろう、コトハ」
消太くんも微笑んで光になると海へと溶けた。
ああ、明るい。
ナイトアイの後ろに日が昇る。
眩しくて目を細めれば、ナイトアイはゆっくりと私に手を差し出した。
より明るい方へと、ナイトアイに導かれて海に入る。
冷たくない。
むしろ、陽だまりのように暖かかった。
ナイトアイの差し出した手に、私の手を重ねた。
「皆が、君を待っている」
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