Walk.32
白い天井を見つめる。
いつか見た、似たような天井より、少し明るい。
ああ、日が差しているから、かな。
「久地楽、目が覚めたか……」
「ナイトアイ!?」
驚きで飛び起きた。
私よりずっと重傷のはず!
ベッドの脇にいたナイトアイは、車椅子に乗っていた。
酸素マスクをして、腕には点滴。
私はゆっくりと視線を下げた。
ナイトアイの、足が……。
「どうして私を庇ったんです!!」
悲鳴にすら近い叫びに、ナイトアイは微笑んだ。
「三崎さんが、君の両親が命をかけて紡いだ君の未来を……私の予知で奪うわけには、いかない」
絶句する私に、ナイトアイはそれでも満足そうに、後悔のない心を渡してくれた。
受け取れない。
私だって、ナイトアイを通形先輩から、あなたを必要とする人たちから、奪いたくなかった。
「私も、君も、緑谷も、死ぬ運命だった」
治崎と戦った緑谷も、死ぬ運命だったんのだろう。
エリちゃんを守りきれず、死ぬ。
そういう、残酷な運命。
「けれど、そうならなかった。私だけじゃない。緑谷だけでも、君だけでもない。きっと、みんなが、強く一つの未来を信じ、紡いだ」
傷だらけのナイトアイの手が、私の右手を取った。
「ありがとう」
「ありがとうじゃ、ないです、私、あなたを、み、んなから、奪ってしまった……」
「奪ってなどいない。私はまだ、ヒーローだ。前線からは一度退くが、それでも私にできることはまだある」
溢れるほどの、強い心。
この未来が正しかったのかは分からない。
未来を変えれば、より悪い結果が訪れる。
帳尻合わせのように、何かが変わってしまったかもしれない。
それでも。
ナイトアイに救われた命を、みんなが突き動かした未来を、私は否定できない。
「……助けてくれて、ありがとう、ございます」
「ああ、こちらこそ」
ドタドタドタ、と激しい足音がした。
迫るそれに一体何事だと入り口の方を見れば、扉が勢いよく開いて、通形先輩が飛び込んできた。
「サー!!また抜け出しましたね!?」
「通形先輩!?怪我は!!?」
「お!久地楽さん!目が覚めたんだね!1週間も起きないから心配してたんだよね!」
「いっ、1週間!?」
どうりで私の傷が塞がりきっている訳だ。
それにしても、1週間だなんて。
あの時、最後に消太くんを地上にぶん投げたのが堪えたのだろうか。
外傷ではなく、心のすり減りで起きられなかったのだろうと、いつの間にか私の中に宿っている、たくさんの人の優しい心に触れた。
お見舞いに来てくれた人が、心をくれたのだ。
「みんな心配してたんだぜ。俺も、サーも」
「ご心配、お掛けしました」
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