Walk.35
「あ、おかえり、爆豪!そっちにお餅あるよ!」
「ああ!?」
「コトハ」
「おかえり焦凍くん!お疲れ様!」
白玉をくるりくるりと丸めながら、仮免補講組を出迎えた。
訳がわからないと言った様子で、ひとまず着替えに行った爆豪の背に辛いやつも用意してあるからねーと声をかけると、焦凍くんが私の頬をこすった。
白玉粉が付いていただろうか。
「ただいま。体、大丈夫か?」
「うん、完全復帰!」
「そうか、よかった。着替えてくる。それ食わせてくれ」
「え、あ、うん、茹でてからね」
頷いて爆豪の後を追うように部屋へ向かった焦凍くんの背を少し眺めて、まさか生のまま食べるつもりだった訳じゃないよな、とどこか抜けている幼馴染を危惧する。
い、いや、流石にそこまでではないと思うけど。
「見てーコトハ!うさぎ!」
どや、と可愛いうさぎ型の白玉を持って背中に飛びついて来た三奈ちゃんを、たたら踏んで受け止める。
が、その上から透ちゃんがのしかかって来た。
「見てー!星形!」
「お、おも!ちょ、2人は重いって!!」
女子に重いとは何事だとぶーぶー言う2人から逃れて響香ちゃんの隣に避難する。
「おつかれ」
「ほんとだよー!あ、私も形つくろーっと」
あまり難しい形は作れなさそうで、ひとまずハート型を作った。
ガスコンロをいくつか並べて、その上に金網やら鍋やらを乗せた簡易餅焼き場の鍋の中にハート型の白玉を投入する。
「響香ちゃんはー?」
「う、うちは、別に……」
音符型の白玉が鍋の中に泳いでいるのを見てにっこりと微笑んだ。
かんわいい。
「うっ!その顔ヤメロ!」
「えーなんでー!可愛いじゃん!」
恥ずかしそうに顔を赤くした響香ちゃんは焼き上がったお餅を私の口に突っ込んだ。
「っも、んも、む!」
「轟、パス!」
「おっ」
口封じをされたまま投げ渡された私を、ちょうど着替えて戻って来た焦凍くんが受け止めてくれた。
「も、んむむ、もー」
「それ食ってから話せ。さっきのは?」
「んむむ」
あそこの鍋にあるよーと鍋を指差せば、にっこにっこのお茶子ちゃんからお皿と箸を受け取って白玉を取りに行った。
みたらしとあんこどちらも用意して渡すお茶子ちゃんに抜かりはない。
というか、お茶子ちゃんだけ餅への愛情の度合いが違う。
「コトハちゃん食べてるー?」
「もっもっ」
お餅を持って近づいてくるお茶子ちゃんに、この口に入っている塊が見えないのかと若干の恐怖を覚えて後ずさった。
幸せそうなお茶子ちゃんはかわいい。
可愛いけどちょっと怖いな!!
「んぐ、ぷは、お茶子ちゃんが楽しそうで何よりです」
「うん。すっごく楽しいよ。お餅が好きなのもあるんやけど、みんなと一緒にパーティーできるのが、なんか嬉しくて」
えへへ、と頭をかくお茶子ちゃんにそうだね、と私も頷きを返した。
飲み物追加で出そうか、とお茶子ちゃんがキッチンの方に向かったので、私も手伝うよと後ろをついていった。
エントランスの喧騒から少し離れる。
お茶子ちゃんはあったかいお茶にしようか、と棚から共有の茶葉を取り出して急須に入れた。
みんな飲むかな?とエントランスの方へと声をかけようとした時、お茶子ちゃんが俯くのを見て、口を閉じた。
「ナイトアイを、上に運んでる時……救急の人に引き渡す時、すごく、怖かった。私の腕の中で、ナイトアイが、死んでいっているような気がして……」
「……うん」
「そうならんくて……本当によかった……」
急須から手を離して、ぐっと手を握り締めたお茶子ちゃんは、涙を堪えていた。
「助けてくれて、ありがとう……お茶子ちゃんが、いなかったら、ナイトアイはどうなってたか分かんない。あの時、あの状況で、重傷の大人一人を抱えて……しかも負担をかけずに運べたのは、お茶子ちゃんだけだったよ」
だから、本当にありがとう、とお茶子ちゃんを抱きしめた。
ナイトアイが言っていた。
みんなが、一つの未来を信じ、紡いだ。
誰か一人でもかけていたなら、奇跡は起こらなかったのだ。
重傷者は多数出たが、あの酷い戦いの中、命を落としたものは一人もいなかった。
「うん……」
ぐす、と私の耳元で聞こえた小さな音は、きっと気のせいだから、もう少しこうしていようか。
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