Walk.38



「相澤先生が、しばらく顔出せなくなるけど訓練怠るなよってさ」
「分かった」

消太くんはエリちゃんの件で今は病院と警察と学校と、と大忙しの日々を送っている。
八斎會の件は全国的に大きく報道されたため、心操くんも大方それの関係だろうと何を聞くでもなく納得してくれた。
理解力すごいな。

「久地楽さんはもう大丈夫なの?」
「うん!平気!」
「そう、じゃあ全力で行くよ」
「ふふん、来ませい」

いつの間にか扱いが上手くなった布を避けて、でもそれだけじゃいつもみたいにボコボコにされるぞ、と心操くんとの距離を詰める。

「久地楽さん、すぐ距離詰めたがるよね、やっぱり接近型だから?」
「ん?そうかも」
「慣れてきたよ」

ハッと下から迫る布に気づき、距離を取るために咄嗟に飛び退いた、が、その瞬間足を取られた。
体を回転させて、絡まった布を解き、体勢を立て直す、瞬間、心操くんの蹴りが私の脇腹を掠めた。

「うっ……!」
「まあ、今のはわざと外したんだけど……俺も成長してる。そろそろ手加減抜いてくれてもいいんだよ」
「……やるじゃん」

立ち上がって、しっかりと心操くんを見た。
捕縛布を動かす時の癖もある程度頭に入っていたのに、それを利用する形で一本取られた。
ふん、まだまだ越えていかれるわけにはいかないもんね。
本気で構える。
心操くんは自分から打ち込んでこない。

「ビビってんの?」
「その手には乗らない。俺は本気の久地楽さんに攻撃を仕掛けて勝てるほどまだ強くない」
「冷静じゃん」

距離を詰めて、掌底を打ち込む。
かわされた。
布がぐるりと私の周りに巡った気配がした。
気をつけていればこんな愚鈍な布になんて遅れは取らない。
捕縛布を踏んで逆に心操くんを引き寄せる。
びく、と驚いて本能的に体を仰け反らせた心操くんは、咄嗟に距離を取るためか緩い蹴りを繰り出した。
その足を掴み、骨を押す形で地面に叩きつけた。

「っ!」

衝撃に目を瞑ってしまった心操くんにそれはダメだ、と顔を思い切り踏みつける。
のは流石にまずいか、と渋面の消太くんを脳裏に思い出して顔面ギリギリの地面を踏みつけた。
捕縛布から手を離し、顔の前で目をつぶって防御の姿勢を取る心操くんの手に、軽く拳を当てる。

「いまのはわざと外したんだけど。本気出しても、いいんだよ?」
「……ナマ言ってすんませんでした」
「あはは!でもすっごい良い動きだったよ。目を瞑るのはダメだけど」
「難しいんだけど、それ。久地楽さんも殴られた瞬間目開けてんの?」
「開けるようにしてる。見えなきゃ戦えないし」
「すご。ちょっと、いい?」
「ん?」

心操くんは拳を振りかぶると私の眼前で止めた。
うわあと目を閉じて、恐る恐る心操くんを見る。

「な、なに急に!?怖いんだけど!!」
「目、瞑ったじゃん」
「だって心操くん敵じゃないじゃん」
「そうだけど……」
「んー、なんていうか、マジでヤバいって時は自然と体動くよ」
「そういうもんか」

あ、と一つ思いついた。
授業参観の時、疑似的なヴィラン戦闘したよなぁ。
あれ心操くんにも出来ないかな。
うん、消太くんに相談してみよう。

「なに?」
「んーん。良いこと思いついたから楽しみにしてて」
「え、いいです」

ものすごく嫌そうな顔で言われた。
普通に傷つくなぁ。

「ねえ、久地楽さん」
「ん?」
「俺、病院行ったんだ」
「えっ、どっか悪いの!?」
「いや、俺じゃなくて、久地楽さんのお見舞い。イレイザーから、インターンでぶっ倒れてから、目が覚めないって聞いて、無理言って、お見舞い行かせてもらった。俺が行ったところで、さ、何も出来ないんだけど」

そんなことないよ、来てくれてありがとう、と言いかけて、先に心操くんに制された。
ずり、と木に背を預けてしゃがみ込んだ心操くんは、首に巻いた捕縛布に口元を埋めた。

「ビビったよ、正直」
「えっ?」
「俺らまだ、学生なのにさ。ヒーローでもないのに、大怪我して、ぶっ倒れて。何言っても、どんなに話しかけても、起きない久地楽さん見て、ビビった。手は冷たいし、このまんま死んでくんじゃないかと思った」

心操くんは、私の手をとって、少しだけ安心したように笑った。
私、トラウマになって、ないよね?
ぎゅ、と手を握り返して、心操くんから渡される心を受け取った。
彼は立ち上がって、私の目を見つめた。

「俺、もっと強くなりたい。早く、ヒーローになりたい。まだ弱いけど、いつか久地楽さんの隣で戦えるくらい、強くなりたい」

肌がピリピリするほどの、熱い決意の心に、ゆっくりと頷いた。
誰にも劣ってなんかいない。
まして、私より下な訳がない。
ねえ心操くん、私、口では何とでも言うけど、消太くんに紹介された時から、君のことは認めているよ。
だってこんな熱い心を持つ人が、ヒーローじゃないわけがない。
心を渡して、捕縛布を握った心操くんに微笑んだ。

「だから、もう一本、お願いします」


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