Walk.40



「エリちゃん、こんにちは」
「お、おねえさん、こんにちは……!」

消太くんの案内でエリちゃんの病室へときた。
両手足には痛々しい傷跡が残っているけれど、しっかりご飯を食べているからか痩せ細った危うい姿ではない。

「こんにちは!」

通形先輩と緑谷もいるよ、と中に入って椅子を用意した。
消太くんも座るかと思ったけど、入り口で少し距離を置いてコチラを見ていた。

「会いに来れなくてごめんね」
「フルーツの盛り合わせ!よかったら食べて!好きなフルーツある?俺当てていい?ももでしょ!?ピーチっぽいもんね!」
「りんご」
「だと思ったよね!」

通形先輩の怒涛の勢いに少し困惑しながら、エリちゃんはフルーツバスケットを受け取った。
い、いや、戸惑うよそりゃ。

「じゃありんご剥こうか」

二人に座るよう促して、備え付けのお皿とナイフを持った。
しゃり、しゃり、と静かな病室にりんごを切り分ける音が響いた。

「エリちゃん、俺たちのこと、気にしてくれてたんだって?」
「……ずっとね、熱出てた時もね、考えていたの。助けてくれた時のこと……でも、お名前が分からなかったの……ル
ミリオンさんしか分からなくて、知りたかったの」

エリちゃんの言葉に、そういえば名乗ってなかった、と緑谷と顔を見合わせた。
でも、そっか、知りたいって、思ってくれたんだ。

「緑谷出久だよ!ヒーロー名はデク!えと、デクの方が覚えやすいかな……デクで!デクです!」

りんごをうさぎさんの形に切り分けて、ナイフを置いた。
ヒーロー名か、自分の名前か一瞬悩んで、私は自分の名前を教えることにした。
まだ少し照れ臭さの残るヒーロー名で呼ばれるより、ヒーローとしてより、もう一歩近いところで、心に、寄り添えるような気がしたから。

「コトハです、よろしくね、エリちゃん」
「ルミリオンさん、デクさん、コトハさん」

エリちゃんは一つずつ大切に繰り返して、少し悲しそうに目を伏せる。
手を伸ばして、エリちゃんの自己懐疑的な心を少しだけ貰った。

「あと、メガネをしていた……あの人……みんな、私のせいで、酷い怪我を……」

ナイトアイは、まだ療養中だ。
もしボロボロの姿で会えば、エリちゃんを傷つけかねないというのが、大人たちの判断だった。
大丈夫だよ、と心を込めて頭を撫でた。

「私のせいで、苦しい思いをさせて、ごめんなさい……私の、私のせいで、ルミリオンさんは力を無くして……」
「エリちゃん!!苦しい思いをした、なんて思っている人はいない!皆こう思ってる!『エリちゃんが無事でよかった!』って!存在しない人に謝っても仕方ない!気楽に行こう!」

底抜けに明るい通形先輩の様子に、エリちゃんは涙を止めて顔を上げた。
まだ、自身を責める心が渦巻いている。
軽くすることはできても、取り除いてあげることは、私にはできない。

「みんな、君の笑顔が見たくて戦ったんだよ!」

エリちゃんは、少し考えるようにまたうつむき、口角をあげてみたり、ほっぺを伸ばしてみたりと何かを試して、再びしゅん、と視線を落としてしまう。
エリちゃんに触れていた私は、その心の動きから何をしていたのか分かってしまって、エリちゃんにゆっくりと渡していた白い心に悲しみが混ざらないように、手を離して止めた。
笑えないんだ。

「ごめんなさい……笑顔って、どうやればいいのか……」

心を落ち着かせて、もう一度エリちゃんに触れる。

「大丈夫、ゆっくりで良いんだよ。楽しいこととか、嬉しいことを、たくさんしようね。そしたらきっと、エリちゃんも笑えるようになるよ」

少し赤くなってしまった柔らかな頬を撫でて、だから大丈夫、と心を渡した。

「楽しいこと……」

緑谷は呟き、がたりと立ち上がった。
何か思いついた様子で、こちらを眺めていた消太くんに近づく。

「相澤先生!エリちゃん、一日だけでも外出できないですか!?」
「無理ではないはずだが。というかこの子の引き取り先を今……」
「じゃあ!エリちゃんも来れませんか!?文化祭!」
「……なるほど」
「み、緑谷!凄い!いいじゃん!!」

私も嬉しくなって立ち上がった。
文化祭!
そうだよ!
きっと楽しいことがいっぱいある!!

「ぶんかさい……?」
「エリちゃん!これは名案だよ!」

通形先輩も顔を輝かせて頷いた。
文化祭をエリちゃんに説明するうち、その心に興味の芽が顔を出した。
興味を持ってくれてる!

「リンゴ!リンゴアメとか出るかも!リンゴをあろうことかさらに甘くしたスイーツさ!」
「さらに……」

すくすくと成長していく興味の芽に、私は嬉しくなって消太くんを見た。
消太くんも名案だと思ったのか、直ぐに頷いてくれた。

「校長に掛け合ってみよう」
「やった!」
「それじゃあ、エリちゃん、どうかな!?」
「私、考えてたの、助けてくれた時の……助けてくれた人のこと……」

エリちゃんの手を、放した。
きっと大丈夫。
ぐっと両手を握ったエリちゃんの心は、もう自分を苛んではいない。

「ルミリオンさんたちのこと、もっと知りたいなって、考えてたの……!」


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