Walk.41



「お兄ちゃん、私を呼んだのは英断だったね」

ショッピングモールでガンリキネコの子供服を見繕う消太くんに頭痛がした。
子供が、女の子が好きなものが分からないからついてきてくれと、緑谷たちを寮に見送ったあと、買い物に駆り出されたけれど、ここまで致命的だとは思わなかった。
誕生日プレゼントとか、クリスマスとか、ことあるごとに何かしら貰ってきたけど、そんなにセンスが悪いと感じたことはなかった。
もしや、今まではひざしくんが暗に活躍してくれていたのでは……。
消太くんの手からクソださトレーナーを奪って棚に戻す。

「猫……好きかと」
「問題はそこじゃない。これとか良いかな。エリちゃん何色が好きか聞いてくればよかった」
「赤」
「そうなの?」
「通形のマントを思い出して安心するみたいだ」
「そっか、じゃあこっちにしようか」
「ん」

子供用の下着などは私の方で見繕い、靴下や靴などもまとめて買った。
子供服って結構するんだなぁ。

「あ、領収書ください」
「はい、宛名はどうなさいますか?」
「雄英高校で……あれ、消太くん、領収書の宛名ってどうすれば良い?」
「国立雄英高等学校でお願いします」
「かしこまりました」

雄英の正式名称久しぶりに聞いたな。
店員さんから領収書を受け取って消太くんの財布にしまった。
ちゃんと事務に提出してね。
雄英へと帰る道すがら、消太くんはその、と少し言いづらそうに口を開いた。

「エリちゃん、雄英で預かることになる」
「おお!よかった!」
「まだ、手続きを進めてる段階だがな。……おそらく、教師寮の部屋を使うことになると思う。で、その、お前にも、エリちゃんの面倒を見てほしい」
「うん!任せて!こう見えて子供好きなんだ!」
「……勝手に決めて悪かった」
「いいよ、全然!」

ぽす、と消太くんの手が私の頭に乗っかった。
申し訳ない、という心が伝わってくる。

「ど、どうしたの?私、本当に大丈夫だよ?エリちゃんのことも心配だったしむしろウェルカムというか……」
「お前の『今』を、俺は奪いすぎている……」

消太くんの両手が、私の肩を掴む。
俯いているせいで、消太くんの顔は見えないけど、伝わる心に顔を歪めた。
八斎會の件に連れて行かなければ、管理課から守ってやれていれば、合宿で目を離さなければ、体育祭で無理をさせなければ、USJで深傷を負わなければ、家で黒が溢れ出した時もっと早く着いていれば。
学生の時、お前に会わなければ。
思い切り頬を叩いた。

「そんなわけないでしょ!!!」

ハッと天下の往来だったと思い直して路地に連れ込む。
笑えないエリちゃんに、過去の私を重ねたのか知らないけど、ずいぶんじゃないか。
今を奪われたなんて、思ったことない。
全部、私たちが選び取った大切な過去で、私たちが勝ち取った大切な今だ。
それでも、消太くんが私を縛り付けていると悩んでしまうなら。
本当にやりたいことを奪ってしまっていると思うなら。
黒い繭で私たちを包み込んで、呆然と私を見下ろす消太くんにキスをした。
まだ早いと言われた唇を奪って、心を押し渡す。
私には、これがある。
一歩踏み込んで、消太くんの心と私の心を混ぜた。
私の愛を、とにかくたくさん押し渡して、血の味がしないキスを味わう。
これ以上、どうやって伝えれば良いのか分からないほど、私の全てを捧げて消太くんに押し付けた。
ちら、と近すぎる消太くんを見れば、殴った頰が赤くなっていた。
ふん、自業自得だもんね。

「ん、ぁ」

舌を入れようとして、ようやく我に返ったのか、消太くんに引き剥がされた。
胸を押さえて私を見る消太くんを見上げて、私は唾液で濡れた口元を拭った。

「これで、チャラでいいよ」
「は……?」
「私がしたいこと。今したから」

独善的な自己嫌悪も、大人としての責務も、一旦全部忘れて、私と向き合って欲しかった。

「消太くんの『今』だって、私が奪ってる」

愛がなきゃ、不幸にも転がり込んだ大荷物だった。
愛がなきゃ、問題ばかり起こすただの厄介者だった。
愛がなきゃ、愛がなきゃ。

「でも、大好きな人といる『今』が、幸せじゃないわけない。消太くんだってそうでしょ」

一拍おいて、はあ、と消太くんが私の繭の中でうずくまった。
自己嫌悪だ。

「……何やってんだろうな、俺。いい歳して」
「消太くん」

私もしゃがみ込んで、消太くんを抱きしめた。

「俺だって、お前が好きだ」
「うん、知ってる」
「お前が、のびのび生きてほしいって、思ってんだよ」
「ありがとう」
「子供の成長って早いな……」

消太くんは顔を上げて、私にキスをした。
触れ合ったところから、心が混ざり合っていく。
角度を変えて求められるキスに、そんなことをしたこともない私は必死に息をして、消太くんの腕をタップする。
く、食われる!
さっき私がしようとしたより、ずっと大人な厭らしさを孕んだ舌が、口を割って入ってくる。
はじめての柔らかい舌の感触に驚いて、小さく声が漏れた。
けれど消太くんはそんなことお構いなしで舌を絡め、私の唾液を飲み下した。

「ひ、ひえっ……」
「これが大人のキスだ。覚えとけ」

ぞくりと心地よい快感が、背骨を抜けていく。
心が完全にシンクロしているせいで、私の快感も、消太くんの気持ちも、全て互いに伝わっている。
恥ずかしくて恥ずかしくて両手で顔を覆い、シンクロを断った。
それなのに、私を抱きしめる消太くんの手から強すぎる思いが伝わってくる。

「いっ、淫交教師……」
「おい」



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