Walk.42
「ほ、補習、私だけ、長い……」
「そりゃ一週間遅れてるからな」
緑谷たちインターン組が私より早く出所してしまったので、いま補習室にいるのは私と消太くんだけだった。
学祭準備がやばい。
全然追いついてない。
「しょ、相澤先生……加速、お願いできませんか」
「まあ、お前は座学は問題なさそうだが……」
学祭にかまけて勉学をおろそかにするなと怒られるかと思ったが、普段の成績が良いからか意外といけそうだ。
「じゃ、じゃあ抜き打ちテストとか!範囲のテストやって80点以上だったら免除とか!」
「保険かけやがって。95点以上取れたら免除にしてやる。勉強してちょっと待ってろ」
「95……?」
95点って言った?
配点にもよるけどそれはなかなかの無茶振りなのでは……?
けれど言ってしまったものは仕方ない、と教科書を開いた。
中学2年で雄英A判定を取ったこの脳みそは伊達ではない。
一般高校レベルは抑えてあるし、応用もできるはずだ。
がらりと教室のドアが開いた。
「エクトプラズム先生!?」
「数学ガ一番苦手トキイテナ。テストノ見学ニ来タ」
「うっ、……そこのひざしくんは?」
「うぅ、俺のコトハの青春が奪われると聞いて応援に来た!!気張れよコトハー!!」
暇なのかな?
あ、消太くんに蹴り出された。
ですよねー……本当に何しに来たんだ。
「久地楽、お前が一番苦手な数学のテストを用意してもらった。95点以上で以降の補習を免除してやる。いいか?」
「よ、よろしくお願いします!」
「よし。この時計で半までの1時間だ。始め」
「はい!」
と、威勢よく返事をして開始から30分。
ちょっと耐えられなくなってきた。
「あの、エクトプラズム先生、ちょっと、緊張するんで、見ないでもらってもいいですか……」
「フム、ダカラカ?計算ガ間違ッテイルゾ」
「えっ!?」
「エクトプラズム先生、答え教えないでもらっていいですか」
「スマンナ」
消太くんのギロリとした視線にエクトプラズム先生が少し下がった。
うう、計算ミスってんの?
どこだ……。
一通り解き終え、エクトプラズム先生と話した時に解いていた問題をもう一度解き直してみて、ハッと計算ミスに気がついた。
たぶん、これで、いいんじゃないかな!
「はい!終わりました!!」
「ん」
「私ガ見ヨウ」
「ああ、どうも」
エクトプラズム先生が消太くんから赤ペンを受け取って答えを見ながら採点を始めた。
う、緊張する。
先生の手元を覗き込んで、今のところ丸だけで進んでいるのを確認した。
「大人しく座ってろ」
「だって気になる!エクトプラズム先生だって私がテストやってる時見てたじゃん!」
「終ワッタゾ」
「お!?」
さすが速い!
エクトプラズム先生からテスト用紙を受け取って右上の点数を見る。
「うわあああ!100点!見て!100点だよ!!」
フフ、と笑ったエクトプラズム先生とは対照的に、消太くんはお怒りの様子で私の答案用紙を取り上げた。
「さっきのところ、エクトプラズム先生が言わなきゃ間違えてただろ。どうして答えを教えるようなマネをしたんです」
「答エデハナイダロウ。ソレニ、ソノ問イニハ点数ヲツケテイナイ」
「えっ!?」
なにそれ!無駄じゃん!
無駄に頭動かしちゃったよ!
「んん……なら、まあ、いいだろう。補習はこれで終了だ。100点おめでとう」
「わーい!!!ありがとうございます!……でも何で一問だけ点数つけなかったんですか?」
「君ハ、私ノ数学ノ授業デ手ヲ抜イテイルダロウ」
「あ゛?」
「ぴえっ……い、いや、そんなことないですけど!?」
なんてことを言ってくれてんだこの人!!
消太くんの人を殺せる視線が私をチクチクと刺してくる。
こ、怖い、怖すぎる。
「今日ノテストデ分カッタ。計算ミスコソアレド、君ガ問イヲ解ク速度ハ八百万ヨリ速イ。ガ、君ハ授業デ手ヲ挙ゲナイナ」
うっ。
痛いところをつかれた。
ドウシテダ?と首を傾げるエクトプラズム先生に、その答えを言い淀む。
だって、傲慢すぎるから。
私の自己満で、ただの、エゴだから。
百ちゃんに、勝ちたくなかった、なんて。
「コトハ」
「う、うぅ……言いたくない……」
「怒らんから言ってみろ」
子供を宥めるように私の前にしゃがんで手を取った消太くんを見て観念した。
言うまで逃してくれない。
「期末前……百ちゃんが自信なさそうにしてて、それで……」
「それで首位譲ったのか」
まさか、と首を振る。
そんなの百ちゃんに失礼だ。
「首位は譲ってない。テストは本気でやった。私が2位だったのは実力」
「じゃあ八百万がお前より優秀なのは分かってるだろ」
「嫌な言い方しないでよ……そんなの分かってる。でも、あの百ちゃんが、あんな自己嫌悪の心を持つなんて、本当にすごく嫌だった……」
エクトプラズム先生の手が、頭に乗った。
優しい手。
怒っても、呆れてもいない。
本当に言いたくなかったけれど、先生の手から伝わる信頼の心に口を開いた。
「百ちゃんの自信になりたかった……傲慢なのは分かってる……でも、百ちゃん、私のこと、凄いって言ってくれたから……だから……」
「優シイ子ダナ。キット保護者ノ教育ガ良カッタノダロウ」
エクトプラズム先生は消太くんに頷いて見せた。
怒ってやるなという言葉に、消太くんは怒らないって言いましたから、と小さく微笑んだ。
「コトハ、八百万はもう大丈夫だ。ありがとうな」
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