Walk.44



「お昼ちょっと抜けていい?」
「お?いいけどなんで?」
「ちょっとねー」

はぐらかすと三奈ちゃんと透ちゃんが沸き立った。
あ、悪手差した。
ただ心操くんの訓練に行こうと思っただけなんだけど。

「密会!?」
「ミッカイ!?」
「密会……?」

ひょこりと二人の後ろから焦凍くんが顔を覗かせた。
相変わらず耳聡いな!

「誰かと会うのか?」
「お、おう、うん、秘密の特訓って奴!」
「そうか」
「じゃ、じゃあ!」

焦凍くんたちから逃れて走った。
別にそこまで秘密にすることでもないと思うけど、私の口から心操くんの話をするのも違うと思う。

「えっ、久地楽さん?」
「お、おつかれ心操くん!」
「お疲れ……てないけど。そんな走ってなんかあった?」
「いや!?さあ、やろうか!」


******


や、やばかった、今の。
地形を生かして木の影から捕縛布での攻撃。
気付くのが遅れていたら、一発もらっていただろう。
心操くんを踏みつけにして、捕縛布を動かせないように握りしめる。

「は、はっ……な、中々、やるじゃん」
「息あがってるね。そんなにビビった?」
「……ビビったよ」

心操くんの顔から足をよけて、引っ張り起こす。
私が素直に認めたからか心操くんは少し意外な顔で私の手を取った。

「そういや心操くんのクラスは出し物なにするの?」
「お化け屋敷。A組はバンドやるんだっけ」
「そうだよ!心操くんもお化けやるの?」
「うん、一応」
「じゃあ遊びに行くね」
「……A組の出し物も見に行くよ。みんな、楽しみにしてるから」

心操くんの言葉に大きく頷いた。
楽しみにしてもらえてるんだ。
じゃあ尚のこと、カッコ悪い姿は見せられない。

「その、久地楽さんは、バンド、ってか、ステージいるの?裏方、とか、じゃなくて、久地楽さんはあんまり裏方っぽくないけど。その、どの辺にいるのか、とか、聞いてもいい?あ、いや、なんか、俺キモいな……嫌だったら別にいいんだけど……ごめん何でもない」

わしわしと髪をかき混ぜた心操くんは赤くなって蹲った。
えーと、なんて?
後半緑谷みたいで聞き取れなかったけど、場所?聞かれたような気がする。

「ダンスするからステージにいると思うんだけど、まだポジ確定じゃないから決まり次第連絡するよ。あれ、ってか心操くんの出番何時?その時間目掛けていくわ」
「……コミュ力の塊」
「え、うそ、もしかして心操くん私相手に緊張してんの?ぶっ叩かれてんのに?今更?私の胸だって触ってるでしょ?」
「それは事故だから!謝っただろ!!」
「うはは、ごめんごめん。ね、緊張しなくていいよ」
「……訓練とプライベートは違うし、フツーに緊張する」
「なんで?友達じゃん。ナードキャラは緑谷で間に合ってるし私くらい克服してよ」
「ナードって……」

心操くんは立ち上がって額を抑えた。
そんな悩むこと?
私は少しムッとして心操くんの捕縛布を引っ張った。

「心操くん」
「ご、ごめん。なんか、俺の中で、久地楽さんのこと勝手に、師匠だと思ってたから……普通に、友達って、なんか……照れただけ」
「師匠!?なにそれ照れる!!逆に照れるよ!?」
「え、そうかな」
「いや、嬉しいんだけど!そんな大層なもんじゃないし!師匠っておに、しょ、あい、せん、イレイザー!?じゃん!?」
「イレイザーは捕縛布の師匠で、久地楽さんは戦闘の師匠だと思ってる」
「う、は、恥ずか死ぬ。イレイザーと同列で並べないで……」
「でも、訓練以外は俺も、友達、が、いいかも」

照れ臭そうな心操くんだが、正直そんなことより師匠発言の方が私にとっては恥ずかしい。
というか、烏滸がましい気持ちでいっぱいだ。
二人して照れ照れで赤面したまま沈黙が落ちる。

「お前ら何やってんの」
「ぴえっ!?」

消太くんの声に反射的に飛び上がった。

「しょ!ざわせんせ!」
「イレイザー!」
「しょざわ先生?」

消太くんは呆れたように肩をすくめると自分の端末をひらひら見せて「連絡取れるようにしとけ」と言った。
え、連絡してたの!?
慌ててメッセージを開けば、着信と「エリちゃんが来る」という通知が来ていた。
は!?
じ、事前に教えてよ!!?

「ごっ、ごめん心操くん!急用!!」
「ああ、うん。訓練ありがとう」

消太くんが探しに来たという時点で心操くんはなんとなく察していたのか、ひらりと手を振ってくれた。
手を振りかえして、消太くんに案内されるまま走った。
私と通形先輩、緑谷、消太くんのグループチャットに食堂にいますと書かれていた。
急がなきゃ!

「さっき、なに話してたんだ?」
「い、いやぁ」
「……告白でもされたか」
「へっ!?えっ!?い、いや、全然違う!違うよ!!むしろようやく友達判定してもらったというか……」
「なんだそれ」
「……しょ、消太くんが捕縛布の師匠で、私が戦闘技能の師匠、だと思ってるって、心操くんが」
「まあ、その通りだな」
「えっ!?いや、消太くんはともかく私が師匠って似合わないでしょ!!」

消太くんは私をちらりと見下ろして、そうか?と首を傾げた。
私の中の師匠って、消太くんだとか、ひざしくんだとか、シャチョーだとか、とにかく本当の実力者のイメージがあったから、私をそこに同列で並べられると困ってしまう。

「実力が伴ってないのに、恥ずかしいよ」
「だが少なくとも心操にとっては、お前は認めるべき高い壁だったってことだろ」

高い、壁。
そうだといいな。
簡単に越させるつもりは無かったけれど、私はもう少し高い壁でありたいと手を握った。
心操くんのために、少し前に立てるなら、自分を叱咤する意味でもそこへ立つべきだ。
さらに向こうへ、行くために。

「もっと頑張らなきゃ」



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