Walk.47



「で、青山中央、緑谷が打ち上げて、尾白がキャッチ、緑谷ハケる。峰田パート終わったらコトハもハケる」

全体通し確認の三奈ちゃんの指示でみんなが動く。
文化祭がいよいよ明日に迫った今、みんなの緊張感も高まっているが、何より楽しみな気持ちが強く輝いている。
絶対、エリちゃんにも楽しんでもらうんだ。

「コトハは裏で鯨の準備、緑谷は天井いって青山をロープで吊り上げる!」

緑谷が天井近くのキャットウォークに飛び乗り、私も窓側のキャットウォークに登った。
青山が吊り上げられたタイミングで、巨大な鯨を天井付近に泳がせた。
とはいっても、本番前なのでこの鯨は中身スカスカのハリボテ鯨だ。

「おけ、いい感じ!演出隊見せ場!轟の足場に移ったタイミングで鯨弾けさせてー」

氷は時間がないので今は省き、みんなが想定位置につく。
よし、いまかな。
ハリボテ鯨を弾けさせて光を降らせる。

「お、すげーな」

意識が本体に戻ると焦凍くんが体を支えてくれていた。
意識を完全に切り離したわけではないので目は開けたままシンクロしていたが気づかなかった。

「綺麗でしょ」
「ああ、綺麗だ」
「んじゃ行って来る!」

焦凍くんの手を足場に、大きく飛び上がるとダンス隊に戻り、ポジションの確認を行う。
うう、楽しみだなぁ。
バン!と体育館のドアが開いてハウンドドッグ先生が吠えながら使用時間終了だ!と叫んだ。
こっわ!!

「ごめんなさーい!すぐ帰ります!」


******


「いよいよ明日だね……緊張してきた」
「久地楽さんでも緊張するんだね。あ、いや!変な意味じゃなくて!」

青山と道具の点検をしていた緑谷があわあわと両手を振って弁解した。
そんな誤解しないよ。
慌てっぷりに笑ってソファに身を預けて緑谷を振り返る。
今日はお茶子ちゃんと一緒じゃないのね。

「まあねー、本番前には流石に緊張は消化するけど、いまはこれも含めて文化祭って感じで楽しいから!」
「そうだね……そうだ、久地楽さんに聞こうと思ってたんだけど、リンゴアメってどうやって作るか知ってる?」
「リンゴアメ?あー知らんけど作れると思うよ?いま食べたい?」

こんな時間だけど、と時計を見るが、まあ女子でもないしウエイトも肌荒れも気にならないかと緑谷に首を傾げる。

「あ、ち、違うんだ!文化祭のプログラムにリンゴアメ売ってそうなとこなくてさ、だから、エリちゃんに作ってあげようかなって……」
「お!マジか!プログラムまだ見てなかった!それはヤバいね、緑谷作りたい?」
「うん、できれば自分で……だから、コツとか知ってればって思ったんだけど……」
「うーん作ったことないしなぁ。あ、砂藤なら分かるかも?」
「あ!そうか、砂藤くん!」

緑谷はぱあ、と顔を輝かせて明日の朝聞いてみる!と大きく頷いた。
通形先輩がリンゴアメで釣った以上、このミッションはマストだ。
緑谷に拳を向けた。

「エリちゃんは私と通形先輩でエスコートするから、最高に美味しいリンゴアメ作ってよ」
「うん!絶対、喜ばせてみせるよ!」


******


「何やってんだあいつ!!」
「緑谷まだ帰ってきてないの?」

百ちゃんの緊張を回収しながら、憤る瀬呂たちを眺めた。
もう文化祭始まってるのに……。

「みたいだ。ロープを買いに行ったっきり戻ってこない」

焦凍くんが微塵も緊張していない様子で私に手を差し出した。
ん?
おやつ欲しい?

「俺も」
「俺も?」
「手を握ってほしい」

どういう感情?
百ちゃんと繋いでいた手を片方離して、焦凍くんに右手を差し出す。
百ちゃんは轟さんも緊張しますのね、と微笑んでいるが、少しの緊張はあれど、回収するほどの緊張ではない。
なんなんだ?
いつもよく分からない行動ばかり取るから気にしていないけど、最近こんな感じの多くなってきたな。
真意を探ろうと瞳を覗き込めば、焦凍くんは満足そうに微笑んで手を離した。

「コトハおねえさん」
「やあ久地楽さん!」
「エリちゃん!通形先輩!来てくれたんだー!チョコあげようねー」
「あれ、緑谷くんは?」
「それが、買い出しに行ったきり戻ってなくて……」

先輩の後ろにいた消太くんと目があった。
端末を取り出してどこかにかけた。
見回りの先生とかかな……何もなきゃいいけど……。

「デクさん、踊らないの?」

エリちゃんは私の手を握って眉を下げた。
か、悲しそうな顔してる!!

「だ、大丈夫!すぐ戻って来るよ!ね!久地楽さん!」
「ももも、もちろん!緑谷はすぐ来るよ!でも、ちょ、ちょっと私探してみようかな!」
「コトハ!だめ!新ワザなんだからホイホイ使うな!消耗厳禁!」

椅子に座って白い鳥にシンクロしようとすると、三奈ちゃんに叩き起こされた。
いつにも増して気合の入った三奈ちゃんはくるりとエリちゃんを振り返ると、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「エリちゃん!デクサンは絶対来るから、信じて!楽しみにしてて!」

にか、と歯を見せて笑う三奈ちゃんの綺麗な笑顔に、エリちゃんは一瞬見惚れて、促されるように小さく頷いた。
私と通形先輩は顔を見合わせて笑った。
エリちゃんだけじゃなく、私たちまで説得されてしまった。

「じゃあエリちゃん、俺たちは客席に行こうか!」
「うん……」

エリちゃんは「あ」と一つ声を漏らすと私のそばに走ってきた。
お、どうしたのかな?
先ほどの三奈ちゃんのようにしゃがみ込んでエリちゃんと視線を合わせた。

「がんばって、ね」

反射的に写真を撮った私は悪くないと思う。

「が、がんばるね……!」

こんな即死トラップ誰が仕込んだんだ!褒めてやる!とエリちゃんを抱きしめて後ろの通形先輩と消太くんを見れば、通形先輩がニッコニコで消太くんを指した。
さすが消太くん!!
好き!
ぽふ、と私の体から白い心が漏れた。

「エリちゃん、ありがとう。エリちゃんが応援してくれたから、百人力だよ!絶対にみんなを凄いって思わせるから、楽しみにしてて!」
「うん……!」



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