Step.17
入学当日。
「おーい、久地楽!」
聞き覚えのある切島の声に振り向くと、見慣れない赤髪がこちらに走ってきていた。
「んん!?切島!?」
「お、おう!髪染めた!」
ツンツン髪を上に上げて逆立てているのか、おでこと顔が出ていてすっきりしている。
そうなんだ、こっちのほうがいいね。
「かっこいいよ!」
「お、おお、おおおう、そっか!」
切島がさっき三奈ちゃんと会ったというので周囲を見回して見たが、あの目立つ容姿はこの辺にはないようだった。
切島が合格したのは連絡を取り合っていたお陰で知っていたが、三奈ちゃんが合格していてよかった。
これで結田付中の志願者全員が合格したことになる。
「なあ!」
切島の横を歩いていたはずが、気づけば切島が立ち止まっていたのかすぐ後ろにいた。
「俺の憧れるヒーローは、紅頼雄斗だ」
「うん、知ってる」
中学の時に耳にタコができるほど聞かされた言葉だ。
何を今更、と思いながら、切島の強い瞳を覗き込んだ。
何かを決意した、強い漢の目。
「でも、俺のヒーローは、お前だ……!」
「え?」
「俺が自分の弱さに甘ったれた時、お前が助けてくれた!俺はもう二度と後悔しないように、強く、守れるヒーローになる!」
ぐっと右手を硬化させて握り込む。
ああ、完全に吹っ切れたんだ。
「これが、俺の覚悟とお礼だ」
両手に心を込めて、切島は私に差し出した。
とても洗練された美しい心が、その両手から発せられていて、私は一瞬受け取ってもいいのだろうかと躊躇した。
「み、見えねえか?」
私が黙って切島の手を見ていたからか、心配そうな顔で首を傾げた。
「見えるよ。これが、切島の覚悟なんだね」
凝縮された心の塊に触れ、溢れ込んでくる覚悟と感謝に思わず笑った。
真っ直ぐな男だ。
「ありがとう」
「おうよ!」
眩しいほど綺麗に笑う切島の手に触れたまま、私は目を閉じた。
インナー切島の隣で黒い切島が手を振っている。
こっちも大丈夫そうだ。
手を振り返して、目を開けた。
「教室まで一緒に行こうぜ!お前何組だ?」
「B組だよ」
「マジか……」
「あはは、その様子だと切島はA?」
「おう、クラスは違うけどたまに遊びに行くぜ!」
切島の手を離して、横に並んだ。
そっか、クラス違うんだ。
少しさみしいな。
入試の時のように教室の前で別れ、私はB組の教室に入った。
私の他にも何人か既に来ていて、取り敢えず自分の席に着いた。
「おはよう、私は拳藤一佳。よろしくね」
「久地楽コトハだよ、よろしく」
拳藤と名乗った彼女は明るいオレンジの髪を揺らして微笑んだ。
しばらくクラスの女子たちと話していると、2mほどもありそうなガタイの良い男が教室に入ってきた。
「席につけお前たち!」
先生大きいなぁ。
「雄英はプロヒーローが先生をしてるって本当だったんだね」
後ろから囁いてきた一佳ちゃんに曖昧に頷く。
見たことないなぁ。
「俺は今日からお前たちの担任になった、ブラドキングだ!早速だが入学式があるから体育館に行くぞ!」
先生の後に続いてぞろぞろと教室を出れば、タイミングが重なったのか、A組も廊下に出てきていた。
「あ!コトハじゃん!おひさー!」
「おひさ、三奈ちゃん。雄英受かってたんだね、嬉しいよ」
「うんうん!私も!でもそっかー、コトハはB組かー」
「クラスは分かれちゃったけど、たまに遊びに行こうね」
「行く行くー!」
久しぶりに再会した三奈ちゃんと手のひらを合わせて喜びを分かち合った。
相変わらずピンクで可愛い見た目だ。
三奈ちゃんはそれじゃあ、と言って元気に手を振りながらA組の女子のほうへと走っていった。
もう打ち解けてるの凄いなぁ。
コミュ力の塊のような光景を見ながら、そのさらに先に目立つ赤いつんつん頭を見つけて笑う。
その視線を遮るように、赤と白の髪が私の目の前に現れた。
酷く驚いた様子で、いつもの半眼が嘘のように目を見開いている。
「コトハ……」
「焦凍くん、雄英だったんだね」
「お前!なんでここにいるんだ!!」
え、と突然焦凍くんが声を荒げたことに驚いて半歩後ずさった。
怒りの目が、私を射抜く。
なんで、そんな。
「お前はここにいるべきじゃない!ヒーロー科は危険だ、お前には―――」
「なんで!何でそんなこと言うの!?」
信じられない。
焦凍くんは、消太くんたちみたいに応援してくれるって思ってた。
なのに。
何で、よりによって、焦凍くんが。
焦凍くんが。
焦凍くんは、私のヒーローなのに。
いつも、支えてくれてた、友だちなのに。
なんで。
なんで、なんで!!
じわりと黒い感情がまた、いつかのように鎌首をもたげた。
それを抑えたのは黒だった。
黒い私が、私を庇うように現れて、漏れだしそうになった感情にきちんと蓋をする。
「ごめん焦凍くん、また今度話そう。多分、どっちも冷静じゃない」
凍り付いたように動かなかった足が、黒に引っ張られることでようやく動き出した。
焦凍くんが、声を漏らすように何かつぶやいたが、振り返る勇気も、余裕も、今の私にはなかった。
嫌な感情が全て抜かれ、代わりに勇気や希望、幸福な感情が詰め渡されて、B組のみんなの所へと戻った。
「元中の子?」
「うん、久しぶりにあったから挨拶してきた!」
ふと、引率していたブラド先生が振り返った。
「久地楽!」
「はい!」
「新入生代表の挨拶考えて来たか?」
「あ、はい。一応」
「えっ、コトハもしかして首席!?」
「同率だけどね」
一佳ちゃんが凄いじゃん、と大げさに喜んでくれるのに少し照れくさくなりながら、また漏れそうになった黒い感情を押し込めた。
「謙遜しなくていいぞ、実技こそ同率だったが筆記では文句なしの首席だ!」
「そうだったんですか?」
よしよしと力強く撫でて来るブラド先生に首を持っていかれそうになりながら、下から巨漢をうかがい見る。
「イレ……ご家族から聞いてないのか?」
「あー、家で仕事の話をする人じゃ無いので……」
ブラド先生がその巨体を折ってこそこそと聞いて来たので、私もこそこそと返した。
私の言葉にブラド先生はなるほど確かにと頷いて、B組の引率に戻った。
ふと思ったのだけれど、こういうのって普通A組から体育館に行くんじゃないだろうか。
もしかしたら別ルートでB組よりも早く体育館についているのかもしれないけれど。
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