Step.18
やっぱりいないじゃん!
在校生から代表祝辞を受けて、私が新入生代表としてステージに立った。
本来A組がいるべきだろうところがぽっかりと空いている。
どういう事情なのか非常に気になるが、ひとまず自分の務めを果たすために、声を張った。
答辞は短くていいと言われているので、何だか保護者染みた視線を送ってくるひざしくんを視界に入れないように短くまとめた。
「――以上を以て答辞とさせていただきます。新入生代表、ヒーロー科1年。久地楽コトハ」
ひざしくんが涙を流しながらブラボーブラボー言っているのを何とか視界から追いだして降壇する。
お兄ちゃん……それ、マジで恥ずかしいからやめて。
いつもだったらこんなひざしくんに真っ先に突っ込みという名の制裁を加える消太くんは一体どこへ行ってしまったんだ。
消太くんだって雄英の先生だって聞いてるのに。
B組の列に戻ってパイプ椅子に座れば。職員席からブラド先生が親指を立ててくれているのが見えた。
「えへへ……ブラド先生なんか可愛いなぁ」
「分かる」
一佳ちゃんが隣でしっかりと頷いた。
先生に手を振り返すと、ひざしくんが直線上に割り込んできた。
消太くん、マジで助けに来てよマイヒーロー。
「プレゼントマイクにめっちゃ気に入られてるね」
「昔、助けてもらったことがあってね……ほんと空気読めない人で申し訳ない……!!」
一佳ちゃんは苦笑にも近い、乾いた笑いを漏らした。
お気遣い痛み入ります。
入学式自体は1時間程度で終わり、教室に戻ってからはこれからの行事や教育方針などが印刷されたカリキュラムが配られ、それについての説明があった。
今日はこれでお終いらしい。
明日は個性把握テストを行うため早く寝ろとのお達しだ。
消太くんが一体何の教科を担当しているのか気になったが、同じ方向の女子たちに誘われたため、帰路につくことにした。
それに、学校ではあまり馴れ馴れしくしないほうがいいのだろう。
やましいことは何もないが、だからと言ってそう見てくれるほど世間の目は優しくない。
「じゃあ、私こっちだから」
「うん!ばいばーい!」
初日で結構話せたなぁ。
やはりヒーロー科ともなると社交的な子が多い。
手を振って別れた後は、今日と明日の夕食のためにスーパーへ寄る。
私は和食が好きだから必然的に食卓に並ぶものもそうなるため、時々消太くんに何が好きか聞くのだけれど、毎回なんでもいいとかいう世間の奥様方が一番嫌いそうな言葉を吐くからもう聞いてあげない。
ひざしくんはウザいけどそういう点ではよくできた人だ。
「今日はカレーにしよう」
ターメリックライスが食べたい気分だったので、今日はドライカレーに決めた。
材料をカゴに入れてレジで会計を済ませると、消太くんからメッセージが入った。
『晩飯いりません。早く寝るように。』
「……晩ごはん断ったの後悔するくらい良い匂いで充満させよ」
今日明日はカレーが食べたくなる呪いをかけることを誓ってスーパーを出た。
すると、また同じ音でメッセージが届いた。
『今日遊びに行くぜ!』
ひざしくんだ!
同じ職場なのだから消太くんが今日は遅くなることも知っているのだろうが、一応『今日は消太くん遅いらしいよ』と送ると、すぐに返信が帰ってきた。
『知ってる!』
スタンプ付きで帰ってきたそれに、ふふ、と笑みを漏らした。
ひざしくん、本当に私に会いに来てくれるんだ。
仕事も忙しいだろうに時々、いや頻繁に家に顔を見せてくれるひざしくんに白い心が渦巻いた。
「早く帰ろーっと」
視界を遮るような幸福な白い靄を払いながら、先程よりも軽い足取りで帰路についた。
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