Walk.50



エリちゃんはりんご飴を大切そうに握りしめて病院へと帰った。

「よかったね、喜んでくれて」
「うん。久地楽さんも協力してくれてありがとう」
「どういたしまして。ほとんど何もしてないけど」

祭りの後は少し寂しい。
昼間とは打って変わって静かな校門から中に戻り、緑谷と寮に向かった。
道すがら、ずいぶん静かな緑谷を盗み見て、エリちゃんが心配?と聞いてみた。

「ううん……もしかしたら今日は寂しいんじゃないかと思って」
「……大丈夫、またすぐ会えるから、きっとエリちゃんもワクワクさんだよ」
「そっか……そうだね」

緑谷はようやく笑った。
寮に行くと、皆が打ち上げパーティーだ!とフルーツ飴を手渡してきた。
先ほど緑谷がエリちゃんに手渡した飴を思い出しながら、なぜ飴?と首を傾げた。

「ほら!どれがいい?」
「え、じゃあみかん……?」
「はい!」

三奈ちゃんから一口サイズのみかん飴を受け取り、みんなの輪の中に混ざる。
砂藤が大量に持っているところを見ると彼が作ったのだろう。
緑谷も砂藤から飴を受け取ると輪に加わった。

「それじゃあ皆!」

飯田の号令で乾杯がわりに飴を掲げる。

「お疲れ様でした!」
「おっつかれ様でしたー!」

飴を突き上げて、隣にいた三奈ちゃんの飴と乾杯した。
それを見た女子たちが私も私も、と飴をノックしあう。
うっ、可愛い。
胸を抑え、止まっていないことを確認してからホッと息を吐いた。

「ねーコトハー今日は寮で寝ようよぉ!」
「そうだよ!いいじゃん今日くらい!」

三奈ちゃんと透ちゃんにがしりと両側から抱きつかれ、うーんと苦笑した。
個性課は解体されたとはいえ私が教師寮にいるのは素行がどうこうではなく個性の問題だ。
そう簡単に許可が出るとは思えない。

「相澤先生に聞いてみるか」
「焦凍くん!?」
「待て待て待て!!アンタはまずいでしょ!」
「イケメンでも許されることと許されないことがあるんだよ!轟くん!!」

内線に歩いて行った焦凍くんを三奈ちゃんと透ちゃんが止めた。
なんでだ、と首を傾げる焦凍くんは天然培養なので許してあげてほしい。

「じゃあ私が掛けてみるね。でも期待しないで」
「期待する!」
「そーだそーだ!」
「俺もコトハと寝たい」
「轟、お前はこっち座ってろ」

微笑んだ切島が焦凍くんを回収してくれた。
本当もうまじでありがとう。
一家に一台切島鋭児郎。
女子たちの期待を背負いながら消太くんの番号にかければ、少し時間をおいて応答があった。

『どうした?』
「あ、いま大丈夫です?」

私が敬語で聞いたからか、消太くんは一瞬間を開けて大丈夫だ、と答えた。

「三奈ちゃんたちと話してて、今日、こっちの寮に泊まれないかなって」
『……悪い、10時以降は教師寮に帰ってきてくれ』
「うん、だよね、分かってる。あ、ます」
『悪いな』
「貸して」
「え?あ、先生、三奈ちゃんに代わります」

真顔の三奈ちゃんは大きく息を吸い込んでカッと目を見開いた。
おっと嫌な予感。
咄嗟に耳を塞ぐ。

「やあーだあー!!!」
「うっわ」

めちゃくちゃな声量に耳を塞いでいても驚いた。
消太くん大丈夫かな。

『うるさい』

スピーカーにした三奈ちゃんはなんでですか!ともう一度叫んだ。

『久地楽の個性は暴走すると命に関わる。林間合宿のこと覚えてるだろ』
「じゃあ先生も来てください!」
『いい加減に……やあ!みんな大好き校長さ!話は聞かせてもらったよ!そんな君たちには特別に体育館の使用許可を与えるよ!』
「体育館?」
『雄英は大規模災害時の一時避難所としての機能もあるのさ!その災害時用お泊まりセットの備品チェックをする代わりに、久地楽さんを含めたA組全員でのお泊まりを許可するよ!』


******


体育館に着くと、消太くんが肩に校長を乗せたまま歩いてきた。
隣では副担のオールマイトがひらりと手を振った。

「そっちの床下に災害用セットがあるから各自持って行け」
「はーい!」

三奈ちゃんたちが元気よく返事をして駆けていった。
行動早い。
担任でも副担でもないのに何故かいるひざしくんが災害用セットの説明をしているのを眺めながら、消太くんに苦笑しつつ謝った。

「なんか急にごめんね」
「……いや、謝るのは俺たち大人だ」
「そう、君は他の一年生たちと同様に青春を謳歌する権利があるのさ!いつもとは言えないけれど、今日くらいは誰も文句言わないさ」

ふに、とおそらく齧歯類なのにしっかりとある肉球に頭を撫でられた。
お泊まり出来ないくらい、本当に大したことじゃないし、多少残念なくらいで、それも消太くんと話しているだけですぐに忘れてしまうようなちょっとした寂しさだったのに。
私が諦めようとしたものを大切に拾い上げてくれる大人たちに、私は少しだけ照れくさくなった。

「ありがとう、ございます」
「ほら、お前も行ってこい」

消太くんに優しく背を押され、私は大きく返事をしてみんなのところへと走った。



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