Walk.52



「筋肉痛」
「わりぃ」
「冗談、大丈夫だよ」

しゅんと申し訳なさそうな顔で控えめに私の右腕を労る少年のような176センチに苦笑して昨日よりずっと高い位置にある頭を左手で撫でた。
可愛いな。
大物の片付けが残っているクラスは休日の今日も文化祭の後片付けがあるが、昨日のうちに撤収を終えた私たちA組は災害時用のお布団を選択して天日干ししていた。
とは言っても、全自動の業務用洗濯機に放り込んで終わったら物干し竿にかけるだけだ。
あとは夕方にでも取り込めばいいだろう。

「コトハ、もし今日……」
「久地楽、休日に悪い、少しいいか?」
「相澤先生、いいですよ。じゃあね、焦凍くん」

焦凍くんは一瞬私の手を握って引き留め、けれど何も言わず手を離した。
休日に呼び出しとは珍しい。
消太くんの横に走り寄って何かあっただろうかと見上げると、消太くんは横目でチラリと焦凍くんを振り返った。

「どうかした?」
「いや……いや、心操のマスクが出来たからな」
「マスク?」
「個性を補助するマスクだ。見ればわかる」

そう言って連れてこられたのはいつもの練習場ではなく校舎内だ。
文化祭の後片付けをしている生徒たちの間を塗って、C組の前まで行くと、ちょうどロボが心操くんに何かを届けているところに出くわした。
受け取った箱には『サポート科』の文字がある。

「心操。抜けられるか?」
「は、はい」

心操くんは事前に話していたのか教室を振り返って一言声をかけるとすぐに箱を持って走ってきた。
心なしか顔が嬉しそうだ。

「久地楽さんも来てくれたんだ。休日にごめんね」
「気にしないで。A組は昨日片付け終わってるしすることなかったから」
「……A組、ライブ良かったよ」
「ありがとう!C組のお化け屋敷も面白かったよ!三奈ちゃんたちも行ったって!」
「ミナちゃん?あ、うん、他のA組の人も来てた。めちゃくちゃビビってたけど」
「あはは、楽しかった?」
「まあね」

心操くん、笑い方なんか消太くんに似てるな。
捕縛布の師弟だし色々似てくるのだろうか。
ちら、と前を歩く消太くんと見比べた時、生徒指導室に着いた。
悪いことしてないのにちょっと緊張しながら入った。

「とりあえずそれ開けてみろ」

私たちをソファに促した消太くんは備品のカッターを心操くんに渡した。
サポート科から届くってことは、そのマスクとやらはサポートアイテムなのだろうけれど、心操くんの個性を補助するマスクとは一体どんなものなのだろう。
箱から出てきたのはいかつい黒の機械じみたマスクだった。
おっと想像を遥かに超えてゴツい。

「変声可変機構マスク……ペルソナコード」

説明書を読む心操くんの横から私も覗き込んで文字を目で追った。
かっこいい。
早速つけてカチャカチャとマスクをいじった心操くんは、ちら、と私を見た。

「どう?」

消太くんの、声に……うーん、近いような、近くないような。
私の微妙な反応を見て心操くんは説明書を読みながらマスクを調節した。

「どうかな」
「さっきよりいいかも?」
「難しいな……」
「それ使いながら戦闘するのって厳しくない?」
「出来ないなら出来るようになれ。現場では初めて聞いた声でも模倣する必要が出るだろう。よく声を聞いて、喋り方も意識しろ」

消太くんの言葉に頷いた心操くんは燃える闘志を瞳に宿していた。
見た目に反して熱い男だ。
私は微笑んで白い心をそっと押し渡した。



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