Walk.54



「エリちゃん」
「おねえさん!」

たた、と駆け寄ってきてくれたエリちゃんが可愛すぎて抱き上げた。
子供ってこんな感じかなぁ。
抱きしめるとエリちゃんも嬉しそうにしがみついてきてくれる。
もしかしたら、子供は心が伝播しやすいから、私のうっすらと纏う白い心を敏感に感じ取って本能的に安心感を得ているのかもしれない。
それだと嬉しいな、とエリちゃんに頬擦りしていれば、いい加減にしろと消太くんに首根っこを掴まれた。
ぐえ。

「エリちゃん、お洋服とか他の荷物はしまっちゃうけど、手に持っておきたいものはあるかな」
「あ、えっと、あれ……」

エリちゃんがベッドサイドを指差したのでプレゼントしたクジラのぬいぐるみかな、と思いながら下ろしてあげた。
そっと床に降りたエリちゃんはベッドサイドに駆け寄ると写真立てを取り上げた。
文化祭で記念にとみんなで撮って印刷したものを消太くんにも渡したんだった。
センターで笑うエリちゃんと、抱き上げたままちょっと泣きそうな顔をしている通形先輩が印象的だ。

「その写真、好きなんだ」
「うん」

大事そうに抱えるエリちゃんに微笑み、そっか、と私も少し写真の中の通形先輩にもらい泣きしそうになりながら頷いた。
そんな私を優しく小突いた消太くんはさっさと荷物整理を始めた。
とは言っても、荷物自体はそれほど多くない。
せいぜい服と洗顔セット、お見舞いの品くらいだ。

「あとは任せる。手続きしてくるからエリちゃんと下降りててくれ」
「はーい」

消太くんが出ていった病室で服を畳んだりゴミをまとめて忘れ物がないかを確認した。
冷蔵庫、棚、あとは意外とテーブルの上。
うん、大丈夫そう。

「忘れ物ないかなー?」
「ないです」
「よし、じゃあ行こっか」

エリちゃんの荷物が入ったボストンバッグを持って、随分と簡素になった病室を出る。
私はあまり病院にいい思い出はないけれど、願わくば、エリちゃんにとっての病室がこれきりになったらいいな。
お世話になった看護師さんたちに挨拶をして、エレベーターまで見送ってもらった。
エリちゃんは嬉しそうに、少しだけ寂しそうに手を振った。
よくしてもらったんだね。
扉が閉まって手を下ろしたエリちゃんを撫でた。
一階に着いたらタイミングでちょうど消太くんからメッセージが届いたので出入り口の方へと向かうと、いつものように黒いヒーロースーツ姿で立っている消太くんがいた。
職質されないのかな……。

「消太くん」
「ん」

消太くんが私の肩からバッグを取り上げた。
ありがと、と短く礼を言ってエリちゃんの手を握ると、エリちゃんは反対側の手をもぞ、と控えめに動かした。
んん、可愛い。
エリちゃんにバレないように消太くんの手を動かす。
意図せずエリちゃんの手を握った消太くんは少し驚いて、一瞬だけ私を睨むとエリちゃんに微笑んだ。

「先生の手、冷たくないかな?」
「冷たい……私が温めてあげる」

ぎゅ、とエリちゃんは消太くんの手を握った。
はい、可愛い。
私ロリコンで捕まっても弁明できないな……。
白い心を垂れ流しつつ、公用車までの短い道を歩いた。



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