Walk.56
「エンデヴァー、おじさん……!」
教師寮のエントランスでエリちゃんとお絵描きをしていたが、ふと目に入ったテレビで戦うエンデヴァーの姿に思わず立ち上がった。
一瞬遅れて、消太くんがエリちゃんからテレビを隠すように同じく立ち上がり13号先生と視線をかわす。
「エリちゃん、部屋に戻ろうか。13号、頼む」
「はい」
「コトハ、轟のところ行くぞ」
「うん……!」
消太くんと教師寮を走り出た。
焦凍くん!焦凍くん……!
あんなに恨んでいた父親と、それでもゆっくりと向き合い始めたところだというのに。
こんなことってあるだろうか。
こんな、最悪な、終わり方って。
「コトハ。大丈夫だ」
走りながら、消太くんの手が私の手を握った。
「あの人は、No.1だぞ」
象徴。
ヒーローと言われて真っ先に思い浮かぶのは、誰だってオールマイトだった。
けれど神野の一件で引退した。
そしてそれをつい先日引き継いだのが、誰あろうエンデヴァーだ。
人を守り、言葉ではなく行動で、その背で安心させる。
No.1とは、そういうものだ。
分かっている。
負けるはずはない、と。
けれど。
「轟を支えてやれ。お前の個性にしか出来ないことだ」
「……うん」
その通りだ。
どんなに気を揉んでも、不安になっても、私は今すぐ加勢に行けるわけじゃない。
でも、そばにいる人の心を守ることはできるのだから、自分のなすべきことをすべきだ。
「焦凍くん!」
「コトハ……!」
不安と、怒り、そして、恐怖。
握った手から感じる黒い心をそっと引き取る。
私がそばにいる。
心を触れ合わせながら、テレビ画面に視線をやった。
左目を大きく傷つけられ、血まみれだ。
それでも、脳無を相手に未だ炎は消えない。
「親父……っ」
痛いほどに強く握られた右手から、心が、伝わる。
「見てるぞ……!!」
一際大きく光を放ち、エンデヴァーは地上に落ちていく。
焦凍くんの中に溢れた嫌な予感を、白い心で覆い隠す。
大丈夫、きっと大丈夫だから、信じよう。
墜落した現場の砂埃が晴れ、影が、一つの立ち上がる影が中継に映る。
『エンデヴァー!!スタンディング!!』
テレビから聞こえた声にハッと息を呑む。
生きてる、だけじゃない。
『勝利の!!いえ!始まりの!スタンディングですっ!!』
私に凭れるようにしてしゃがみ込んだ焦凍くんからは、安堵だけがひたすらに流れ込んでくる。
よかった。
本当によかった。
たとえ勝ったとしても、その後倒れては意味がないのだ。
ありがとう、エンデヴァーおじさん。
立ち上がってくれて。
怯える人々のために……不安で頽れそうな家族のために、立ち上がってくれて。
焦凍くんを抱きしめれば、彼は私の肩口でゆっくりと目を閉じて深く息をついた。
『敵連合!荼毘です!!』
ハッと私も焦凍くんも顔を上げた。
敵連合?
ぞわりと頭をもたげた私の深淵を押し込めて、焦凍くんに嫌な心が逆流しないようにと手を離す。
けれど今度は焦凍くんが私を抱きしめるように肩を握った。
荼毘。
死柄木は、いるのか?
エンデヴァーに勝るとも劣らない青い炎が、一瞬にして掻き消えた。
いや、かき消された。
『No.5!ヒーローミルコです!!』
凄まじい蹴りの風圧が、炎を消したのか。
死柄木はいない。
荼毘、だけだ。
ミルコが跳ねた時、中継からではよく見えなかったが、荼毘の姿がどろりと何かに包まれ消えた。
転移?
『危機は……荼毘は退き、敵は消えました!……っ、私の声は彼らに届いておりません……しかし、言わせてください!!』
消太くんが、一瞬私を赤い目で見た気がした。
いや、大丈夫、大丈夫、正気。
コントロールできてる。
今はただ、この勝鬨を聞きたい。
『ありがとう、と!!』
歓声が、呼応するように、群衆の歓声が上がった。
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