Walk.58



「一佳ちゃん!」
「よっ!」
「合同訓練!楽しみ!」
「私も。結局うちら一回も戦ってないし当たるといいね」
「ねー!」

あまり会えないB組女子たちとキャッキャとはしゃいでいると、また物間がA組に絡んできた。
お、おう、ブレない。
一佳ちゃんがため息をついて右手を構えたが、一足早く消太くんが締めた。
珍しい。

「今回ゲストがいます」
「しょうもない姿はあまり見せないでくれ」
「あ」
「ヒーロー科編入を希望してる、普通科C組、心操人使くんだ」
「あー!!」

心操くん!?
聞いてないよ!
心操くんは私を見てひらりと手を振った。

「心操、一言挨拶を」

消太くんに声をかけられ、心操くんが一歩前に出る。
いつもより、少し緊張した声。
でも、いつもよりずっと強い気迫を感じた。

「……俺は何十歩も出遅れてる。悪いけど必死です。この場の皆が越えるべき壁です。馴れ合うつもりはありません」

ギラつく心操くんにパチパチと拍手が送られた。
見た目に似合わぬ熱いやつだ。
心操くんは緑谷を見て、ばちりと闘志を燃やした。
お。
そっか、心操くんと緑谷は体育祭のトーナメントで当たっていたっけ。
緑谷から私に視線をずらした心操くんは捕縛布を握って口角を上げた。
実践訓練、楽しみだね。
私も笑って親指を立てた。


******


「先に心操引け」
「はい」

赤と白の箱から、心操くんがそれぞれ5と1を引いた。
あとは、誰と当たるか……。

「久地楽、お前もA組の5班、1班に入れ」
「えっ?」
「初戦は心操のフォロー、2戦目は敵としてだ」
「お、おう?」

よく分からないけれど、まあいいか。
心操くんの実戦、近くで見たいと思ってたし。
あとは、一佳ちゃんと当たれば完璧だけど。

「まあ、そううまく行かないよねー」
「残念だけどまた今度だね。楽しみにしてるよ」
「うん、私も」

赤の2番を引いた一佳ちゃんは惜しかったな、と残念そうにしてくれて少し嬉しい。
一佳ちゃんと、こつ、と拳を当てて切島たちの方へと走った。
私たちは切島、上鳴、梅雨ちゃん、そして心操くんのチームだ。
単純な物理攻撃が切島しかいないのはちょっと怖いけど、上鳴は遠距離もいけるし、梅雨ちゃんも中距離に強い。
拘束して私が触りさえすれば戦意喪失させることができるし、それに何より心操くんの初見殺しがある。
うん、バランスはそれほど悪くない。

「心操、上鳴の個性を上手く活かしたいよね」

体育祭で出したような感知のための蝶は、今の私には上手く扱えないので、少し燃費は悪いが細く糸のように心を繋げた状態でツバメを飛ばした。
私たちのチームには感知系がいないのが辛いところ。
まあ、一塊になっていれば問題ない。

「茨ちゃんの蔓に対抗できるのは多分切島だけ。でも逆を言えば、上鳴は他の全員に効くし、正面戦闘なら切島は一人で茨ちゃんを制圧できる」
「両手両足一気に抑えられなきゃな」
「そうね、でもB組も同じように考えるはずだわ。」

私と梅雨ちゃんは頷きあい、フォーメーションを変えた。
上鳴が前、私と梅雨ちゃんがサイド、真ん中に切島、そして後ろに心操くん。
これなら茨ちゃんにさえ気を払っていれば大丈夫でしょ。

「茨ちゃんを見つけた。あれ、一人……?」

ツバメとの心を切断した瞬間、近づいてくる心にハッと前に出た。

「二人いる!!」

叫ぶと同時に切島を守る黒の盾を出した。
が、代わりにがしりと胴を掴まれ高々とぶん投げられた。
追撃のように、四角い空気の壁が私を包んだ。
まずい!やられた!!
円場の個性か……空気のくせに、硬い!!

「おっし久地楽捕まえたぜ!」
「よっしゃ蹴散らせ宍田!」
「任されましたぞォオオ!!」

今の!心操くんだ!!
ピタリと止まった宍田と、それに驚く円場の隙を見逃さず、梅雨ちゃんが私の方に切島を投げてくれた。
切島が私の牢を割ってくれたが、今度は心操くんがエアプリズンに捕まった。
音の漏れないあの牢獄、心操くんには相性が悪いな。
そうこうしているうちに宍田の洗脳が解ける。

「上鳴!放電!!」
「OK!」

空中で白頭鷲を作り、切島を乗せて上鳴が気兼ねなく放電できるように梅雨ちゃんも拾い上げた。
心操くんは円場のエアプリズンが守ってくれるだろう。
だが、宍田は上鳴の放電を受けてなお拳を振り抜いた。
接触が短かった?それとも耐えているだけ?
殴られた上鳴のダメージがでかい。
二撃目を喰らわせるわけには行かない、と私は切島と共に上鳴の前に降り立った。

「梅雨ちゃん!」
「捕まえたわ!!」

上鳴の放電に巻き込まれないようにと宍田から距離をとった円場を、梅雨ちゃんが捕まえた。
宍田が梅雨ちゃんと円場を振り返った隙に距離を詰めて心に触れる。
寸前で逃れられた。

「人モードですぞ!」

伸縮自在か!
詰めた距離をそのままアドバンテージに再びビーストモードになった宍田に腹部を殴られる。
咄嗟に白で覆ったが、微妙に間に合わずにダメージを喰らった。

「久地楽!うわ!」

最初から目的は切島だったのか、硬化した彼を殴るでもなくがしりと胴を捕まえると、先ほどの私のように青空へとぶん投げた。
切島!
まずい、梅雨ちゃんの舌じゃ届かない!

「しん、そ……!」

思ったよりダメージがでかい!
げほ、と咳き込んで切島を指した。
気づいてくれたのは、梅雨ちゃんだ。

「心操ちゃん!」

ハッと我に返った心操くんが捕縛布を伸ばして切島を捕まえようとするが、30センチ届かない。
まずい。
切島が、持ってかれた!
宍田の追撃があるなら今度こそ相打ち覚悟でダウンさせてやる、と振り向いたが、既に気配はなかった。
退いた、か。

「集合!円場持って行きつつ体制を立て直そう」
「ケロ、コトハちゃん大丈夫?」
「へーき。ごめん、さっき声出なくて……」
「いや、悪い。俺の判断が遅れた。言われる前に気づくべきだった」
「ま!反省は後にしよーぜ!まだ1対1だし!」
「切島まだ捕まったってコールされてないけど」
「うん、切島はまだリタイアじゃない。こんなこともあろうかと手は打ってる」
「流石ねコトハちゃん」

まあ、精度が微妙だから使わずに済むならその方がいいのだけれど。
切島。
シンクロした心の中で呼びかけた。
まだ救援コールは来ない。
だから、大丈夫。
爆豪じゃないけど、どうせ勝つなら4対0の完全勝利がいいに決まってる。

「反撃に出よう」



- 177 -

*前 | 次#

戻る