Step.19
(オリキャラ出張ります……)
A組の個性把握テストが終わり、ロボが録画していたデータを見ながら細かく採点していく。
先ほどまではマイクの奴が、コトハがどうの新入生の挨拶がどうのと煩く言っていたが、個性を使った上で一発殴ってやれば大人しくなった。
気絶したともいう。
どうせ入学式の様子は録画してあるので、一応校長からのお話や生活の上での注意事項と言った必要なものもあるから、クラスの連中に折を見て見せる時に自分もその様子を伺う予定だった。
「なあイレイザー!今日お前んち行っていい?つーかコトハに会いに行っていいか!?」
「……どうせやめろつったって来んだろ」
いつの間に蘇ったんだこいつ……。
もう少し強く殴っとくべきだった。
「まーな!お兄ちゃんはこのトキメキを止められな――」
自分のデスクに外線が入ったのを見て、マイクを個性で黙らせてから受話器を取った。
「はい、相澤です」
『警察の方からお電話です。お繋ぎします』
警察?
事務の女性から告げられた言葉に、ふと思い当たるのが一番嫌なケースで顔を歪めた。
「お電話代わりました。相澤です」
『お忙しいところ失礼します。個性管理課の国本と申します。お世話になっております』
営業マンのような喋り口調と名前に、確かコトハの引き取りに際していろいろと手続きをしてくれた刑事がそんな名前だったかと思いだす。
想像した最悪のケースの斜め上をいく個性管理課の出現にため息を押し殺した。
こういった状況で、何もないわけがない。
「久地楽コトハの件ではお世話になりました」
『いえ、とんでもありません。それで、経過をお聞きしたいのですが、久地楽コトハさんに目だった感情の差異はありますか?』
「……入学祝を贈った時はとても喜んでいましたが」
『そうですか……極端に感情が落ち込んだ様子は見受けられませんでしたか?』
「今朝私が見た限りでは。――何かあったのでしょうか」
電話口の国本は言うのを躊躇った様子だったが、少しだけ声を潜めて俺の携帯番号を聞き、折り返すと言って電話を切った。
職場の電話を使えば記録が残るからだろうか。
だとすれば、国本から語られる話は、よほどのものなのだろう。
受話器をおき、端末を握り締める。
「イレイザー?コトハになんかあったのか?」
「分からん。少し出る」
教師たちが多くいる職員室を出て仮眠室に向かえば、少しして端末に電話がかかって来た。
「もしもし」
『国本です。何度も失礼します』
「いえ。それで、コトハになにか?」
『久地楽コトハの養父は、いま病院で回復待ちをしている状況なのですが、数時間前に非常に苦しみだしまして……』
コトハに関しての話だとは思っていたが、まさか今更養父の話が出るとは思わず一瞬閉口する。
それに加え、国本の口調から鑑みるに相当良くない状況なのだろう。
『胸部のあたりからは黒いあざのようなものが広がっています。そうですね、ちょうど、久地楽コトハさんが個性暴走で観察扱いになったあの事件の時のような黒いやつです』
「それがつまり、コトハの感情によるものだと」
『個性管理課はその方向で見ています』
国本は短く、息をついて、決心を固めたように言葉を吐いた。
『今晩……お時間、ありますでしょうか』
******
何となく癪ではあったが、コトハはマイクに任せ、俺は国本と密会していた。
密会といえば聞こえは悪いが、何も知らない人間から見れば奥まった個室のある居酒屋でただ酒を酌み交わしている男二人にしか見えないだろう。
「僕の個性は断絶です。ですから、ここで話したことが外に漏れ聞こえることはありません」
「……まず一つお聞かせ願えますか。なぜ、貴方は自分の立場が危うくなるだろう危険を冒してまで、コトハを?」
国本は言い辛そうにしていたが、お茶を口に含み、飲み下してやっと口を開いた。
「個性管理課は、そもそも、コトハさんの個性が外にあることをよく思っていません。これは、個性管理課のおおよその見解であり、総一致ではありませんが……もしコトハさんがヴィランになった場合のリスクを鑑みて、彼女の“管理”を警察が行うという意見が、今は最有力です」
「それは人道に反しますが」
こいつら、コトハのことを何だと思っているんだ……?
管理だと?
コトハは犬猫じゃないんだぞ。
ましてや、ヴィランでもない。
怒りを押し込めて、国本を見る。
分かっている。彼は、だからこそこうしてここにいるのだろう。
けれど、怒りが収まるわけじゃない。
「はい。僕もそう思います」
国本は、おそらく俺よりも若い。
組織に染まるには、まだ早かった、というのが彼の行動の真髄だろうか。
それとも今はもうヒーローが取って代わった、正義という警察が本来掲げるべきものを、彼はまだ胸に抱いているのだろうか。
「近いうち……早ければ明日にでも、個性管理課はコトハさんに任意同行をかけ、養父についての究明を問うつもりです」
言葉を切って、国本は質問にお答えしていませんでしたね、とため息をついた。
「僕は、個性管理課の善意になりたいのです。もちろん、ルールに則って行うべきことではありますが、僕が進める個性管理課の抜本改革には未だ少し時間がかかります。その間に、コトハさんや、他の特異な個性持ちの方たちが虐げられるのは、余りに非情……」
合理的じゃない。
ルールは、守るべきものであるから、ルールとしてあるのだ。
けれど倫理とて、守るべきものであるから、倫理としてあるのだ。
結局は自分の都合の良いように自らを納得させようとする自身を、心の底から嫌悪した。
腐敗は確かに許せない。非人道的な行いも。
ただ、順番があるのだ。
感情のままに助けるよりも先に、すべきことが。
倫理を守るために、そしてルールも守るために、まずすべきなのは行動じゃない。ルールを正すことだ。
国本も全て分かった上で言っている。
「貴方の性格は、身辺調査等で十分、分かっております。僕の、こういったことは、お嫌いでしょう」
国本は、テーブルをはさんだ向こうで、頭を下げた。
「人として為すべきことを、僕はします。コトハさんを、救うお手伝いを、お願いできますでしょうか」
人として、家族として、親として、友人として、それに何より、俺のことをヒーローだと言ってくれたコトハを裏切るわけにはいかなかった。
そう、あまつさえ、コトハを言い訳に使って。
頭痛を堪えるように、額に手を当てて「頭を上げてください」と国本に声をかける。
「それで、あなたの目指す理想的終着はどういったものなんですか」
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