Walk.60
「えっ!僕!?」
「でしょ」
「い、いや、こういうのは久地楽さんの方が適任だと……」
「仮免の時あんたがみんなを引っ張ったでしょ。初戦は私が一番心操くんのことを把握してたし、切島ともシンクロで繋がってたからリーダー引き受けたけど、このチームなら緑谷の方が適任」
緑谷はもさもさ頭をもさもさかき混ぜて照れくさそうに頷いた。
でも、最初の頃より全然物怖じしなくなった。
「デクくんになら任せられる」とお茶子ちゃんに声をかけられ、緑谷は拳を握りしめて今度こそしっかり頷いた。
信頼への緊張、それと、隠しきれない喜びとワクワク。
緑谷の輝く目が私は好きだ。
「うん、頑張るよ」
さっきの試合、四試合目、爆豪を軸に全体が完璧に纏まっていた。
あの試合を見て、緑谷が感化されないわけないよね。
気張っている緑谷を見て私も心を整えた。
心操くんが相手だ、カッコ悪いところは見せられない。
******
庄田、レイ子ちゃん唯ちゃんのコンビネーション攻撃!
大小さまざまなナットやらボルトやらが飛んでくる。
私が後ろ、三奈ちゃんが前をカバーした。
「こんなんじゃ私たちは倒せないって分かってるはず!二撃目に備えるよ!」
振り返って、何か強い気配に咄嗟に黒の盾を出した。
「久地楽!?攻撃か!?」
「わ、分かんない!おかしい!何かいる!!」
「コトハ!?」
「コトハちゃん、どうしたん?まさか、デクくんに何か……」
お茶子ちゃんの言葉にハッとした。
この感覚、見られているような感覚、前に一度経験しているじゃないか。
緑谷の、インナースペースで。
その直後、黒い何かがあたりに広がった。
悪い気配はしない、でも、得体が知れない。
何か、緑谷の心に何かが混ざったような感覚がする。
黒い何かは急激に攻撃性を持ち、地面や配管を穿った。
「デクくん……!」
走り出したお茶子ちゃんに続くように私たちも走り出した。
「コトハちゃん、心を貸して!」
お茶子ちゃんが私の手を握った。
作戦を立てている暇はない。
とにかく、緑谷を止めなければ試合どころではない。
よし。
白頭鷲を作り、重力を失ったお茶子ちゃんを乗せて羽ばたかせた。
「心操くん!」
瓦礫の合間に心操くんが見えた。
もし、緑谷の暴走が、自分でも抑えられないものなら。
心操くんは私の姿に一瞬警戒して半歩下がったが、私は首を振った。
「緊急事態!緑谷を止めて!」
縦横無尽に周囲を攻撃する黒いイバラのような鞭に、私は盾で心操くんを守った。
お茶子ちゃんが空中で緑谷を捕まえて必死に彼に声をかけるが、緑谷の意思ではないそれは治る様子を見せない。
「心操くん!助けて!!」
瓦礫と鞭から心操くんを守りながら声を張った。
心操くんは頷き、緑谷を見据える。
かける言葉を、一番彼を揺さぶる言葉を、選んでいる。
「緑谷ァ!」
マスクを外して、心操くんは笑った。
「俺と、戦おうぜ」
緑谷は心操くんの想いを受け取り、自身の中の力と闘いながら「応」と答えた。
その瞬間、洗脳にかかる。
果たしてうまくいくか。
黒い鞭のようにしなるそれは、あっさりと緑谷の腕へとおさまっていく。
緑谷の心に、何かが混ざって、おそらく無意識下での対話をしている。
私はあの得体の知れない何かに飲まれるのではないかと危惧していたが、緑谷はお茶子ちゃんの呼びかけと熱いビンタで我に返った。
今の、何なんだ。
緑谷のインナースペースには、やはり誰かがいる。
そんなことがあるのか、あっていいのか。
「久地楽さん?」
「あ、ありがとう、心操くん!」
私がまじまじと緑谷を見ていたからか、心操くんが声をかけてくれた。
場が乱れたし、一旦お開きかな。
先ほどより近くに感じる消太くんの気配に、おそらく止めに来たのだろうと立ち上がる。
その時、物間が緑谷を急襲した。
「え!?まだ終わってないんだけど!!」
「物間くん!!」
動きの鈍い緑谷を庇ってお茶子ちゃんが前に出た。
つ、続くの!?
「どうする、久地楽さん」
「まあ、いざとなれば先生たちが……」
やられた!!
体が、動かない!!
心操くんの洗脳に初めてかかり、内心で狼狽える。
意識は持ってかれていないけれど、体がぴくりとも動かず、心操くんはニヤリと口角を上げた。
「俺に心許しすぎじゃない?」
悔しい。
あの瞬間、即座に敵対せず緑谷を警戒するように視線をそちらに向けたまま無防備な状態で、私が答えやすい言葉を選んで洗脳をかけた。
私が無防備な心操くんを攻撃しないと知っているから。
悔しいけど、すごい機転だよ、心操くん。
「久地楽さん!みんなのフォローを!」
お茶子ちゃんの個性で無重力になった緑谷が飛んできた。
爆豪が響香ちゃんを庇った時のように、私を足で蹴り出し、洗脳を解いてくれた。
ちょ、ちょっと乱暴だけど結果オーライ!
緑谷も、心操くんの気持ちに感化されて熱くなってる。
私は落下しながら思わず笑う。
「頑張れ心操くん!緑谷は強いぞー!!」
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