Step.20
「コトハ、結婚しよう」
「あはは!私が40まで売れ残ってたらね!」
「俺55じゃん!」
ひざしくんは美味い美味いと一口ごとに感想をくれるが、そろそろウザくなってきた。
親バカならぬ兄バカのひざしくんは大分しつこい。
食事を終えた2人分の食器を片してリビングに立った。
「はあーあ、でもよ、俺も寂しいわけよ。家庭的で料理もうめぇ、掃除洗濯なんでもござれなこんな優良物件すぐに買い取られちまうっての」
おかしい……お酒入ってないんだけど。
シラフでこのテンションってだいぶ面倒くさいな。
皿を洗いながら肩を竦めれば、ひざしくんはテーブルに上半身を投げ出した。
テーブル拭いてからにしてよ、と台拭きタオルを渡せば、所帯染みたな、といつかと同じ言葉を返された。
ひざしくんはテーブルもたれたまま、申し訳程度に台拭きを右手で動かす。
「コトハ!頼むから変な男には捕まるなよ!むしろ付き合う前に俺んとこ連れて来い!」
「連れていかないよ、さすがに」
「兄ちゃんは心配なんだよぉおお!」
「私はひざしくんの婚期のほうが心配だよ」
「ドキ!」
擬音をセルフで発声したひざしくんは、胸に手を当ててひどく焦った様子で私を見た。
そもそもひざしくん昔からモテてるんだから、高望みしないで適当なところで手を打てば、結婚なんてすぐ出来るだろうに。
消太くんみたいに無精なわけでもないし。
「ヘイヘイ!!コトハはお兄ちゃんが結婚してもいいって言うのか!?」
「別に祝うけど」
「昔はお兄ちゃんのお嫁さんになるーって言ってたじゃねぇか!」
「ナチュラルに嘘つかないで!?」
「お前は俺の心を弄んでたんだな!!」
「人聞きの悪いこと言わないでくれます!?」
危うく皿を落とすところだった。
洗い終えたお皿を棚にしまいながらだったせいで、落としはしないもののガシャンと無駄に大きい音がした。
鬱陶しい嘘泣きをするひざしくんをじとりと睨んで、こんな時消太くんがいたらと内心で頭を抱えた。
ふと、消太くんといえば、と思いつく。
「そういえば、消太くんって雄英の先生なんだよね?入学式のとき見つからなかったんだけど」
入学式の時のことを思い起こしながらひざしくんとリビングの方のソファに座った。
いつもご飯を食べ終わった後は消太くんがダイニングに残り、私とひざしくんがリビングのソファに移るのだが、今日は消太くんがいないせいでなんだかリビングから見たダイニングが少し暗く見えたような気がした。
「あー、そりゃあ、消太はA組の担任だからな。あいつら個性把握テストやってたんだよ」
「私たち明日それやるって言われたけど」
ひざしくんは苦笑して頷いた。
あ、これは。
「ほら、消太ってあーいう性格だろ?入学式は後で録画を見せれば充分だって毎年出てねーのよ」
それはどうなんだ……。
ってか校長もよく許したな。
「うちの兄がお世話かけます……」
「ま、雄英は自由な校風が売りだからなー」
思わず頭を下げた私の髪を撫でるひざしくんは、口調とは裏腹に優しい目をしていた。
「コトハ、友達できたか?」
ああ、昔から何も変わらない。
優しいお兄ちゃんの目だ。
安心させるように微笑んで、しっかり頷く。
「ヒーロー科は流石というべきか社交的な子が多いね」
中でも拳藤という手を大きくする個性を持った女の子と仲良くなったのだとか、入学式の挨拶はやっぱり緊張しただとか、流石にあれは恥ずかしすぎるからやめてほしいだとか、思いつく限りのことを話しては聞いてを繰り返し、いつの間にか私は寝落ちしていた。
目覚めたのはひざしくんがシャワーを浴びた様子で風呂場から出て来た音だったが、消太くんの姿がどこにもなくてまだ帰っていないのだろうかと時計を仰ぎ見た。
「お、悪いなコトハ。起こしちまったか」
ひざしくんがうちに来てシャワーを浴びていくのは珍しいことではないため、なんでかひざしくんの服もうちに置いてある。
その中の一つに着替えたらしいひざしくんは長い髪を後ろでまとめ上げていて、珍しくうなじが見えていた。
「んー……いまなんじ?」
「もうそろ日付越えんな。寝とけ寝とけ」
「しょーたくんは?」
「そろそろ帰るってよ。お仕事忙しいんだと」
動く様子のない私を見てか、ソファに横になって居た私を軽々抱えて、ひざしくんは慣れた様子で部屋に運んでくれた。
ひざしくんも同じご職業ですよね、とツッコミたかったが睡魔に負けて目を閉じた。
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