Step.23



「ここから先はすべての武装を解除していただきます。一応、医療施設ですから」

捕縛布もそれに当たるのだと言われて、消太お兄ちゃんはロッカーにすべてを預けた。
私が、黒い私が呼ばれたということは、きっとコトハには知らせるべきでは無いことなのだろう。
病室に入ったところで、国本が袖をめくって蛇の姿の私を晒した。

「もう出て大丈夫ですよ。相澤さんへの状況説明という形ですので、そう時間はとれませんが」
「はい。黒、このカーテンの向こうに養父がいる。開けていいか」
「ちょ、ちょっと待って!!」

何て言う急展開だ。
医療施設に来たという時点でなんとなく察してはいたが、何で今更あいつが。
というか、私は一度あいつを殺そうとしたんだぞ。
いや、だからこそ内密に呼ばれたのだろうけれど。
お兄ちゃんの意図が図れず、すがるように見上げれば、コトハに触れるときとなんにも変わらない優しい手で頭を撫でてくれた。
やっぱり、全然違うよ、コトハ。
大人はよく頭を撫でるけれど、お兄ちゃんだけは特別なんだ。
コトハは何も知らない。

「……いいよ」

今更、嫌悪こそすれ、殺意なんて苛烈なものは沸かないだろうと、お兄ちゃんの傍で隠れるようにして開かれるカーテンの向こうを見た。
想像と、まったく違った。

「え、なに、これ」
「その様子だと、貴方の仕業というわけでは無いようですね」

養父は酸素マスクをつけて、点滴が入れられているが、それよりも目を引くのは、胸のあたりから広がっている黒いあざだ。
言葉から察するに、今回突然きた彼らはこのことについての調査をしたかったのだろう。
しかし、まったく覚えがない。
養父だってたまたま感情の濁流の傍にいたから巻き込まれた事故のようなもので、私が意識して攻撃したわけでもない。
まあ、事故、というのもおかしいけれど、あくまで一過性のもので時間が経てば心なんて自然に自己修復するものだ。
私にはこんなことをした記憶がないし、白は根源的に黒い力は使えない。
だとすると、これは器のコトハがやったこと?
でも。

「触ってみた人いる?」
「医師が診察のために。感情が吸われて復帰するまでに昨日今日と1日半かかりました」
「じゃあ、性質自体は最盛期の私の蛇と一緒だ」

今はそんな力も失った蛇を出して、養父の黒に落とした。
瞬時に黒から触手のようなものが現れて蛇を捕まえ飲み込んだ。
ジワリと、黒いあざが広がる。
養父は苦痛に耐えるようにくぐもった悲鳴を漏らした。

「コトハ、だね」
「……そうか」
「でも、意識的にやってるわけじゃないよ」

たぶん、と内心に隠して考える。
蛇で触った感じ、コトハが好んで使う卵に良く似ている感じがした。
感情を凝縮して溜めておく卵を作れるのは器のコトハだけ。
でも、それを言ってもいいものか。
これは多分、コトハから切り離された、黒い卵だろう。
きっと、濁流が養父を飲み込んだときにコトハが卵を植え付けた。
卵というよりは、種かな。
養父に根を張って、感情を苗床にすくすくと育っている。

「取ったりはできないのか」
「無理だね。逆に感情を吸われて終わりだと思う。多分、コトハでもどうだろ……」

意図的に植え付けたわけでは無い種を取り除くことなんてできるのだろうか。

「昨日これが活性化したのですが、それについて思い当たる節はありますか?」

国本の言葉に、顔をしかめた。
あるよ、腐るほどある。
昨日は、焦凍くんとコトハが喧嘩した日。
仲直りでもないけど、今日コトハが一方的に吹っ切れたからうやむやになったけど、焦凍くんはどうしてコトハがヒーロー科にいることをあんなに嫌がったのだろう。

「詳しくは言いたくないけど、コトハの心にデカいストレスがかかったから、それのせいだと思う」
「俺がこれを消しても大丈夫だと思うか?」
「大丈夫じゃないと思う。こいつに根を張って、多分感情を根こそぎ持ってってるから、最悪本当に空っぽになる。植物状態だね」

お兄ちゃんは頭を抑えた。
そうだよね、私もそんな気分だよ。

「どうすればいい?」
「なるべくこいつに感情を与えないか、逆に与えて満杯にする。って言うのがいいと思うけど……」

感情を得ては黒い勢力を広げるそいつに、満杯になったら死ぬんじゃないかという嫌な憶測が伸びる。
現状であれば、コトハになるべく精神的負担をかけないのが一番いい。
国本は私の視線を遮るようにカーテンを閉めた。

「解決方法が見つからなかったのは残念ですが、計画は変わりません。コトハさんの定期観察は相澤さんの提案により、なるべく精神的負担を与えない形をとり、そして経過観察については、相澤さんの監督下……つまりヒーロー科A組への編入という形で落とし所を探っていきます」

異存ありませんね、という国本の言葉に私は目を瞠った。
A組編入って、そんな。
お兄ちゃんは小さく頷いて私の肩を抱いた。
心配と、暖かい心が伝わる。

「個性管理課にお前を渡したりしないよ」

その言葉は私への言葉。
コトハじゃなくて、黒い私に向けた言葉。
焦凍くんが嫌いな私を、お兄ちゃんは受け止めて守ってくれる。
本当はコトハよりずっと傷ついていた。
焦凍くんのあの怒りは、きっと私への憎悪だろう。
その証拠にコトハと分離した時、私を見る焦凍くんの目はひどく冷たく、攻撃的だった。
それでもお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけは、私の味方。
やっぱり、私のヒーローなんだ。
お兄ちゃんにぎゅっと抱きつき、溢れる感情に内心苦笑する。
これはコトハにバレたな。


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