Step.25



夜ご飯を一緒に食べ終えたお茶子ちゃんに常備菜活用講座をしていると、リビングに置きっぱなしにしていた携帯が鳴った。

「誰だろ」
「はいタオル」
「ありがと」

食材を触っていた手を流しで洗い、お茶子ちゃんからタオルを受け取って携帯を見れば、消太くんの文字。
あれ?
今日は遅くなるんじゃなかったんだろうか。

「もしもし?」
『無事か』
「え、あ、うん」

焦燥と安堵の混じる声に、驚きつつもお茶子ちゃんの手前顔には出さず彼女に背を向けた。
なんだろう。
確かに連絡なく家を開けたのは不味かったかもしれないけど、普段であればこの程度別になんていうことないはずなのに。
焦りが移ってくるような嫌な感覚に、白から勇気をもらう。

『家にいなかったから心配した。報連相しっかりしろって言ってんだろ』
「あー、うん。お兄ちゃん今日遅いと思ったからさ。すぐ帰るよ」
『いや待て、いまどこだ?』
「友だちのお茶子ちゃんの家。夜ご飯食べてた」

麗日か、と小さく呟くような声に、そういえばお茶子ちゃんはA組だったかと思いだす。
じゃあ、そっか、近いうちにクラスメイトになるんだ。
嬉しいような、少しだけ寂しいような。

『近くまで迎えに行く。待ってろ』
「え、ちょ、お兄ちゃん!?」

返事も効かないまま通話を切った消太くんに首を傾げる。
本当に何かあったのだろうか。
消太くんの口ぶりからして彼に直接関係あることではないのだろうけれど、気になる。

「どした?大丈夫?」
「うん。ちょっとうちのお兄ちゃんが心配性でね、迎えに来るって」
「そうなんだ!いいなぁ、お兄ちゃん!ウチ一人っ子やからなぁ」

私も一人っ子だけど、ここで言うべきことじゃないし、説明が面倒なので否定も肯定もせず笑った。
途中だった常備菜をまとめて仕上げ、片付ける。
て、手早い、とお茶子ちゃんが感嘆するが、常備菜程度で驚かれても……。
まあ、小さいころから家事はやってるからその辺の手早さには差が現れるだろう。
消太くんが来るまでは、お茶子ちゃんの個性を見せてもらったり、私の個性で動物を出したりしてきゃっきゃと子供のように遊んだ。
しばらくして消太くんから電話が入り、お茶子ちゃんにそれじゃあね、と手を振った。

「また、今度は泊まりに来てね」
「うん。楽しみにしてる」

濃密な女子の時間を過ごした私は、何んとなく心がぽかぽかと温かくなるのを感じながらお茶子ちゃんの家を出て、アパートの下にたたずむ不審者に声をかけた。
いや、本当に。
正直職質されててもおかしくないと思う。

「お待たせ、消太くん」
「今度からメッセージ入れろ」
「はーい」

わしゃわしゃと髪の毛を混ぜられて首が折れそうだった。
そろそろ自分の力を自覚してほしいな。
そう言うと、わざとだ、と返ってくる。
余計たち悪くない?
歩きだした消太くんは、いつも歩調が少し遅い。
きっと一人ならもっと早く歩くのだろうと思いつつも、それが嬉しくて、何も言わず私もいつもの歩調で隣に並んだ。

「明日から、A組に正式編入だ。朝は職員室に来い」
「うん」
「……切島と芦戸は確か同じ中学だったか」
「うん」
「まあ、なんだ。あんま気負うなよ」

消太くんなりに励ましてくれているのだろうか。
不器用なやさしさに、ポケットに入っている消太くんの手を引っ張りだして握った。
大丈夫だよ、いつまでも、弱いコトハじゃない。
気持ちを込めて消太くんに流せば、うっすらと白い靄が漂い、ぽす、と今度は優しく頭の上に手が乗った。

「応援はしてる。心配はしてないよ」

なにその殺し文句、好き。


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