Step.26
「1−Bから編入になった久地楽コトハだ。仲良くするように」
「よ、ろしく」
あまり心のこもっていない消太くんの紹介を受けて、へらりと笑って手を振れば、切島とお茶子ちゃん、三奈ちゃんがぶんぶんと手を振ってくれた。
「先生!よろしいですか」
「何だ」
「入学式から1週間もしていないのに編入とはどういうことでしょうか!」
眼鏡をかけた何だか固そうな少年が痛いところをつく。
ちら、と消太くんを伺い見れば、なんでもないようにため息をついて黒板にヒーロー科、サポート科、経営科、普通科、と学科の名前を書いてそれぞれの担任名をその下に添えた。
「入学時には個性の選定はさほどされない。だから、授業が始まってから各クラス生徒の個性を見て、不適合、または他の担任の指導下のほうが伸びると判断された場合は引き抜き、異動、除籍もある。顕著になるのは体育祭だな。学科を超えての編入も考慮される。お前らもうかうかするんじゃねぇぞ、除籍、編入は教師の如何に拠る」
なるほど、そういう感じなんだ。
おそらく真実と嘘を同じ分だけ混ぜてされた説明に私まで納得した。
他に質問は、という消太くんの言葉に「いえ!納得いたしました!」と、ロボットのような堅い動きの少年が席につく。
筋肉つりそうだな。
席は一番後ろの窓際だった。
あ、これ眠くなる位置。
席につく前に一瞬焦凍くんと目があったが、すぐにふい、とそらされてしまった。
なんだか嫌われたな。
はは、と内心苦笑して、気落ちしている黒を白と一緒に慰める。
「八百万百ですわ。よろしくお願いいたしますね」
お、お嬢様だ!
見ればわかる、お嬢様だ!
俗世の穢れを厭うような長いまつ毛にきゅんと来る。
「久地楽コトハ。よろしくね」
初めて見るお嬢様に触れていいものかと逡巡するが、その誘惑に勝てず右手を差し出す。
すると何のためらいも持たずに握手を返してくれた。
庶民派のお嬢様だ。
なんだかご利益のありそうなふわふわした笑顔につられて、こちらまでも笑顔になる。
お嬢様、いいなぁ。
消太くんの声に前に向き直った百ちゃんの背中を拝んだ。
B組の塩崎ちゃんとはまた違ったお淑やかさだ。
髪が茨の子を思い出して、これから会う機会が減ると思うと少しだけ寂しくなった。
「今日のヒーロー基礎学は座学だ。いくら実技でいい点とっても座学でパァになるようじゃ、ヒーローは遠いよ。気を抜かずに受けろ。SHRは以上だ。飯田、八百万、4時間目始まり次第でいいから職員室に教材取りに来い」
「わかりましたわ」
「はい!委員長として責任を持って――」
飯田くん、返事長いな。
消太くんも適当に頷いてる……。
それでいいのかと思わなくもないが、消太くんの性格上仕方がないのかもしれないと妙に納得した。
SHRが終わって1時間目が始まるまで転校生ばりにちやほやされたが、昼にもなるとそれも落ち着いた、のだけれど結局クラスの女子たちにあれよあれよという間に連行された。
すごい、B組女子より積極性に満ち溢れている……!
元々私と知り合いだったお茶子ちゃんや三奈ちゃんがいたというのも大きいのだろうけれど。
声をかけてくれようとしていた切島が言葉を発する前に退けられていたのにはさすがにビビった。
女子力(物理)って感じだ。
ごめん切島、後で声かける。
「うん、お茶子ちゃんの食生活はやばい」
「意外ね、しっかり作ってそうだと思ったけれど」
梅雨ちゃんの言葉に響香ちゃんが肩をすくめた。
突如始まった女子会にも、生来の性別が女子だということもあってかすぐに馴染み、雄英が誇るランチラッシュの美味しい学食を頂きながら、話はつい先日目撃してしまったお茶子ちゃんの食生活へと変わっていた。
「どうかねー、こういう子のほうが意外と荒んだ生活をしてるんだよ」
「荒んだ生活なんてしてへんよ!?」
「一人暮らし……大変ですわね」
「まともな生活してるよ!?」
おもちで食いつなごうとするのはまともな生活じゃない。
内心でツッコんでいると、話はひょんなことから消太くんの食生活へと移っていた。
「朝とかゼリーで済ませてるのたまに見るしねー」
うんうんと頷きながら言っているらしい透明人間の透ちゃんの言葉に、私はお茶を持つ手を止めた。
特別早く出る朝とかは前日に「朝ごはんはいらない」というのだけれど、その度に私が「コンビニでもいいから“ちゃんと”朝ご飯買ってたべてね」と言っていたはずだ。
ちなみにゼリー飲料は“ちゃんと”に含まれない。
消太くんが忙しいのは知っているから、たびたびある早い出勤も、消太くんの「しっかり食ってる」という言葉を信じていたのだが、聞いてしまった以上これは問い詰める必要がある。
あとひざしくんも同罪。
ことあるごとにご飯食べてるかどうか聞いているのに、学食で食べてるだの買って来てるだの適当なこと言いやがって。
お昼に学食はいいとして、買って来てる(ゼリー飲料)何て言うのは私が怒るの知ってて隠蔽してる。
報連相は一体どこに捨てて来たんだ。
「へえ」
取りあえず、ひざしくんに「極刑」というメッセージを送った。
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