Step.27
消太くんに猫の可愛いキャラ飯週間で嫌がらせをしたり、ひざしくんが必死の形相で悪かったと縋り付いて来たり、何でもない日が続いていたが、それも今日終わりを迎え、からりと晴れた空とは対照的に悪意が暗雲の如く立ち込めていることに、私は気づけずにいた。
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今日のヒーロー基礎学は救助訓練だという消太くんの言葉にみんなが浮き足立って喜んだ。
ヒーローっぽい!
私も例に漏れず、ぱちりと目のあった切島と口パクで楽しみだね、と会話した。
「今回、コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな」
コスチューム……そういえば、A組は既にコスチュームを着用しての対人訓練をしたらしいが、私は今日に至るまでコスチュームを着用していない。
一佳ちゃんによればB組も対人訓練を行ったらしいので、私はちょうどタイミングが悪かったのだろう。
コスチュームはあると聞いていたけれど実物を見てはいなかったから、それも含めてドキドキだ。
「以上、準備開始」
消太くんの言葉にみんなが動き出し、少し遅れて私もコスチュームを取りに立ち上がった。
消太くんがああ言ったから体操着の人も多いのかと思ったが、ぱっと見た感じそんなにいないらしい。
更衣室に着いて初めてコスチュームのスーツケースを開いた。
「おーカッコいいなー」
「あれ?コトハちゃんコスチューム初めて?」
「そう、編入してからコスチュームでの実践なかったからさー」
ぴちぴちスーツのお茶子ちゃんは私の衣装を見て「カッコいいねー」と笑った。
ふにゃふにゃした笑顔は見ていてこちらまでふにゃふにゃしそうだ。
視界に入った前髪を払うと、ふと唐突に、消太くんが助けに来てくれた時のことを思い出した。
そういえばあの時、消太くんは今より少し長く伸びていた私の前髪を避けてくれた気がする。
助けに来てくれたヒーローの顔は色褪せることなく思い出せるというのに、人の記憶というのは脆いものでどんな行動をしたかまでは正確に思い出せるわけではない。
けれど、いつもより開けた視界に、気持ちが持ち上がったのは事実なので、今日はこれで行こう、と気合を入れ直した。
「よっし!」
「おっ!コトハなんかやる気満々じゃん!」
「ふふん、まあね。あ、三奈ちゃんのコスチューム可愛いねー」
「でしょー!ほら行こうよ!」
三奈ちゃんが私の腕をとって走り出した。
ちょ、制服片付けてない!!
梅雨ちゃんが微笑ましげにこちらを見て笑うと、私の制服をたたみながら手を振ってくれた。
申し訳ない!ありがとう!
さすが梅雨ちゃん面倒見がいいね!!
梅雨ちゃんの親切心を心の中で拝んでから、三奈ちゃんの勢いにやっと順応した。
バスで行くって言ってたけど、その前に疲れそう。
「久地楽テメエ舐めてんのか!」
「うぉ、なに?」
バスが見えて来たところで急にかかった暴言に、どこから聞こえたのだろうと辺りを見回すが姿は見えない。
透ちゃんみたいな透明人間か!?
「下だ下ァ!!」
つられるように下を見れば、球体がいくつかくっついたような不思議な髪型の小人がいた。
ちっさ。
そういう個性かな。
「テメエ……何だその露出の少なさは……!?」
「は?」
「あー聞かなくていいよ、コトハ。こいついつもこんなんだから」
三奈ちゃんが呆れたように肩をすくめてやれやれと私の肩を抱いた。
おお、なんかクラスメイト感あっていいなぁ。
確か峰田とかいう小人はちょうどこちらに歩いて来ていた百ちゃんを指して鼻息荒く叫んだ。
「八百万を見ろや!!あの露出!」
視線と声に、百ちゃんは顔を赤くして大きく開いた正面を隠した。
百ちゃんは個性の関係でああいったヒーロースーツなのであって、決して疚しい気持ちやよこしまな気持ちからヒーローの制服とも言えるヒーロースーツをデザインしたわけではない。
カッカするほどのことでもないけれど、少しだけ嫌な気分になった私は、峰田の前にしゃがみ込んで、笑顔で肩に手を置いた。
「君はもう少し自重を覚えたほうがいいよ」
「久地楽――」
触れた峰田の肩から、勇気と希望、そして前向きな気持ちをごっそり奪い取った。
峰田はがくりと地面に四肢をついてうなだれる。
「うぁぁあああ……オイラぁ、生きる価値がねえ……」
「うわ、久地楽、お前あれやったのかよ!」
「やった」
ちょうど通りがかった切島に笑顔を返し、峰田を押し付けた。
苦笑気味に峰田を受け取った切島は悪かったな、と自分に全く非のないことを謝ってバスに向かっていった。
なんて器の広い良い奴なんだ。
「コトハ、なに今の?」
「私の個性」
ふぅん、と考えているのかいないのか分からない頷きを私に返した三奈ちゃんはすげーね、と笑う。
多分考えてなかったな。
「コトハさん!ありがとうございます!峰田さんにはいつも困っていたんですの!」
「お役に立てて良かったよー」
あー百ちゃん可愛い。
少し離れたところから走ってきたかと思うと、私の手を取って酷く感謝された。
その後ろで響香ちゃんと梅雨ちゃんが、自業自得だと峰田くんに呆れた視線を向けているのを見て、なるほどそういうポジションなのかと変に納得した。
「あ、あの!久地楽さん!」
後ろから聞こえた男子の声に今度は一体何だと振り向けば、どこかで見たようなふわふわ頭のそばかす少年が立っていた。
あれ、この人……。
「えっと、僕、緑谷出久……その、入試で助けてくれて、ありがとうございました!」
「みどりや……あー!君、巨大ロボぶっ飛ばした人だ!いいよいいよ、お礼なんて!全部お茶子ちゃんのおかげなんだからさ!」
勢いよく頭を下げた緑谷くんの手をとって「あのパンチは凄かった!」と素直に感想を告げた。
すると緑谷くんは顔を真っ赤にして照れ臭そうに頭をかく。
本当に凄い、そして羨ましい。
例え使うだけで体がボロボロになろうとも、物理攻撃力の高い人は下手な小細工を必要とせず、自分の身一つで人を助けられるのだから。
それに、きっとあの能力は発展途上なのだ。
「久地楽、緑谷、置いてくぞ」
消太くんの急かす声に、どちらともなく笑ってバスに走った。
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