Step.28
「以上!ご静聴ありがとうございました」
話終えた13号がぺこりと腰を折って優雅に会釈すると、熱心なファンらしいお茶子ちゃんが盛大に拍手をした。
人命救助のための心得を説いた演説は、確かにみんなの心に響いたようで、それぞれ神妙な顔で頷いている。
思えばお茶子ちゃんのヒーロースーツって宇宙飛行士みたいだし13号先生のリスペクトなのかな。
子供のようにきらきらした瞳で13号を見ているお茶子ちゃんに、心が温かくなる。
「13号先生いいよね」
「ええ、今まで沢山の災害救助にあたられた13号先生ならではの素敵なお話でしたわ」
隣の百ちゃんも感銘を受けたように小さく拍手をして「救助訓練、頑張りましょう」と決意新たに私に微笑んだ。
はい、可愛い。
頷きを返して私も気合を入れる。
13号先生の期待に応えよう。
「そんじゃあまずは……」
言葉を切った消太くんに何だろうと顔を上げれば、照明のあたりで電気が走り、不吉にバチリと音を立てて消えた。
何だろう?
それの原因を理解する前に、消太くんが奥を睨みつけて戦闘態勢を取った。
テレビの向こうでしか見たことのない、消太くんの戦闘態勢に肌がぴりつく。
何か想定外のことが起きているんだ。
全身に白い靄を纏い、みんなより一歩前に出た。
「一かたまりになって動くな!13号!!生徒を守れ!!」
消太くんの後ろから、USJの広場を見れば、噴水のあたりに黒い空間の亀裂のようなものが現れている。
そして、そこから無数に出てくる、悪意。
ひゅ、と息をのんで、とっさに勇気をドーピングした。
何だあれ!?
ここは雄英なのに!!
だって、この状況はまさか、ヴィランの侵入を許し、それどころか雄英が後手に回ったようではないか。
「何だありゃ?また入試ン時みたいなもう始まってんぞパターン?」
切島が戸惑った様子で言い、硬化しようか悩んだように私に口を開きかける。
私は黒いゲートをねめつけながら、前に出ようとした緑谷を押しとどめて全員に聞こえるように叫んだ。
「そうじゃない!」
「動くな!あれは――敵<ヴィラン>だ!!」
どうする、どうする!?
消太くんの足手まといにならない自信はある。
けれど、消太くんがこの場で望んでいるのは加勢じゃない。
ならば。
黄色いゴーグルをつけた消太くんは、ちらりと私を見て、頷いた。
「お前の個性で皆に勇気を」
信頼してくれている。
そんな場合じゃないと喜びを押し殺し、緊張と調和させる。
信頼をもらったんだ、なら、行動で返さねば。
そう、いまこそ。
「切島!不測に備えて硬化準備!」
「お、おう!」
ネズミを走らせ、全員に勇気を与えれば、皆少しずつではあるが冷静になったらしく、それぞれ個性を発動させるための戦闘態勢に入った。
怖いのは分かる。
皆、何に持隔てられていない生の悪意や敵意、そして殺意に初めて晒されているのだから仕方がない、けれど。
ビビっちゃダメだ。
今はまだ消太くんと13号先生に守られているが、私たちはいずれ、ヴィランを制するヒーローになるのだから。
悪意になんて。
「先生、侵入者用センサーは!」
「もちろんありますが……」
百ちゃんの声に、13号は言葉を濁らせた。
雄英に侵入するなんて大それたことをする奴らだが、他の教師陣――ヒーローたちを呼ばれるのは避けるはずだ。
「現れたのはここだけか、学校全体か……何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうこと出来る奴がいるってことだな」
焦凍くんが私と同じ方向を見据えたまま、淡々と状況を分析していく。
冷静で、的確、そしてなにより、真実をついているだろう。
酷い悪意の色に、私は眉間にしわを寄せた。
消太くんは、一人で戦うつもりだ。
「13号、避難開始!上鳴、お前も“個性”で連絡試せ!」
「っス!」
捕縛布を握り、消太くんは皆にヒーローの背を見せつけるように臆する様子も一切見せず、前に出た。
大丈夫、きっと大丈夫だ。
だって、私のヒーローなんだ。
あの時みたいに、助けてくれる。
「先生は!?一人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すって言っても――」
「緑谷くん、大丈夫。指示に従おう」
再び制した私に、緑谷はでも、と言葉を重ねたが、私は何も言わず首を振った。
消太くんは少しだけ振り返って、いつになく真剣な顔で言う。
「一芸だけじゃ、ヒーローは務まらん」
まるで不安をまき散らす何か恐ろしい獣でもいるような悍ましい感覚に、歯噛みする。
大丈夫、大丈夫、きっと。
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