Step.29
相澤先生が飛び出していったのを見て、穴を埋めるようにコトハの横についた。
俺が、守る。
今度こそ、俺が。
氷が纏わり付いた右手を、握り込む。
「コトハ、俺から離れるな」
「焦凍くん!?」
俺が声をかけたことに驚いたのか、大きく瞬きをしたコトハはすぐにハッと我に返り、全員の殿を務めるようにぶつぶつと何かを呟いていた様子の緑谷の背を押した。
「分析してる場合じゃないでしょ!」
13号を先頭に全員出口のほうへと走っていく。
その背を見ながら、コトハは言い辛そうに、けれどしっかりと俺を見て、口を開いた。
俺を見る目に、怯えも恐怖もない。
「焦凍くん、いざとなったら皆を守る氷壁をお願いね」
「ああ」
場合によっては左も、とコトハは俺の左手に触れた。
そんな必要はない。
右で十分だ。
しかし、自ずから俺に触れてきたコトハの手を無下にはできず、記憶とそう変わらない手を握り返してから離した。
コトハがパッと前方を見たかと思うと、一瞬遅れて黒いゲートが現れた。
このUSJにヴィランたちを手引きした、空間移動系の奴だ。
「お前、気づいたのか?」
「悪意の色が見えた」
誰よりも早く奴に気づいたコトハは短く俺に応えると、走りだした爆豪と切島に目を見開き、ワンテンポずれて二人を追いかけるように飛び出した。
「待てコトハ!!」
「みんなを守って!」
また――。
「切島、爆豪!!下がって!」
まただ。
眩暈がした。
コトハの叫びに重ねて13号がブラックホールを黒もやに向けながら、二人に下がるよう声を張る。
飛び出したコトハは切島と爆豪の肩を掴んで、広がる黒いもやから助けようと白い獅子を生み出した。
コトハ。
俺は、お前を。
「コトハ!!」
あの手を掴まなければ、また。
伸ばした手は届かず、目の前を、黒が覆い隠した。
白い獅子は靄に阻まれて主人のもとへ行けなかったのか、両断された下半身が空気に溶けて消えるのが見えた。
息がつまる。
吐きそうだ。
また俺は。
視界が開け、あたりに蔓延るヴィランを見て、おおよそ八つ当たりにも近い怒りを、凍てつきをぶつけた。
「しっかりしろよ……大人だろ……」
「こいつ……! 移動してきた途端に……!」
体しか氷で覆っていないからか、よくしゃべる。
それさえも耳障りで睨みつければ、ヴィランとも思えないような顔でひっ、と短く怯えた声を漏らした。
コトハを、守らなければ。
コトハを守りに行かなければ。
小さいときにあこがれたオールマイトなら、きっとそうするだろう。
「なあ……このままじゃ、あんたらじわじわと体が壊死していくわけなんだが」
ヴィランの前にしゃがみ込み、溢れる冷気を制御しながら男に手を向けた。
時間がない。
後ろから攻撃してきた奴の武器を掴み、一気に凍らせる。
まずは、敵の狙いを明らかにする。
きっとコトハもそうするだろう。
そして、次の行動を、コトハがどうするかを――考えろ。
「俺もヒーロー志望。そんな酷え事は“なるべく”避けたい。あのオールマイトを殺れるっつう根拠……策って何だ?」
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